第92話 盗聴、不調
「じゃが、神聖国は鎖国に近い感じで外部からの接触を絶っている国じゃ。本当に行くのか?」
前フェルが同じような事言ってたな。
「あぁ、忍び込んでその神聖魔法って奴をぱっぱっと覚えればいいだけだろ?」
「まぁ、そうじゃな」
そうと決まれば早速準備に取り掛かろうか。
準備って言っても食料とか空間収納にぶち込んでいくだけなのだが。
「私は…、待ってる。私がいたら動きにくそうだし」
エマの方に視線をチラッと向けると少し俯いて悲しげな表情をしている。
多分、他人から見たら無表情のままと答えるだろうが、俺には何となくそう思えた。
「そうか。なら待っていてくれよ」
邪魔じゃないよ、とかそんなことは言わない。
エマもそういうことを言って欲しくて言ったんじゃないと思うから。
「うん、分かった」
エマが少し笑ったように見えた。
―――
「Sクラス秘密会議ー」
会議の場所はカルトの部屋。
入学当初の何も無かった部屋の面影は何も無く、赤を中心とした女の子らしい部屋に仕上がっている。
ここ数ヶ月は忙しくてなかなか部屋の整理や模様替えが出来ていなかったが、夏休みを機に自分らしく変えたカルトだった。
「で、なんでこの4人なんだ?」
レオが説明もせずに意味不明なことを言い始めたため、説明を求める。
「気づいてる?エマとフェルとノアが最近ずっとなんかコソコソやってるの」
「あー、そうなんだ。全然気づかなかったよ」
「へぇ、なんかやってんのか?」
「…気づかなかったな」
3者とも同じ返答でカルトは「もー」とムッとした表情になる。
「全く!私たちが仲間はずれにされてて良く平気でいられるね!」
「そりゃあ、カルトがノアのこ…」
「しぃー。レオ静かに」
「え!?い、いい、いや!!そんなんじゃないけどぉ!?なに!何言ってるの!」
「ほらうるさくなった」
エミリートがレオを止めたが、皆まで言わずともレオが何を言おうとしたか察したカルトは焦りまくる。
「ほら、落ち着いて。水だよー」
「ゴクッゴグ、ふぅ…。そんなんじゃないからね、全く。とゆうかなんでそんな話になるの。私はね、ノアとは友達なわけだよ。つまり友達の好きっていうかね?LoveというよりLikeなわけ。分かる?だから…」
ずっとブツブツと言い訳をすごい勢いで始めるカルトを見てレオもやっちまったという呆れた表情になる。
「…それで、その3人は何をやってるんだ?」
「え?あぁ、そうだったね。それがね、Aクラスにいる友達のスキルを使って盗み聞きしちゃったの!」
「まさか、カルト。いつもそんなことやってるの?」
「やってないけどー!今回はたまたまだよ!」
友達に頼んどいてたまたまとは…。と3人は思ったが、追求するとまた話が脱線して長くなることを学んだので無言のままカルトの話の続きを待つ。
「それでね聞いた話はね、なんか神聖国に行くらしいよ!」
「は?神聖国?」
「なんで、神聖国なんかに…?」
「………」
「分かんない。友達はその3人が神聖国に行くってことしか聞かなかったみたい」
4人揃って何故ノアたちが神聖国に行くのか、理由を探す。
だが、そんな簡単に見つからない。
「…って、オーウェン顔が真っ青だよ?」
オーウェンはそれをカルトに言われて自覚する。
おでこには冷や汗が滲み出ていて、明らかに普通じゃないと周りは感じる。
「まさか、お腹痛いの?」
「え?あぁ、そうなんだ。今日はもう部屋に戻るよ」
オーウェンは駆け足で部屋に戻って行った。
「うーん、なんだったんだろ?」
「分からん。そうだ、エミリート。剣の稽古の相手になってくれよ」
「お、いいね。僕もちょうどその気分」
レオとエミリートも駆け足でカルトの部屋を飛び出て、訓練場に向かった。
「ちょ…、みんな居なくなっちゃったじゃん」
主催者1人となってしまったことで、Sクラス秘密会議は終わりを告げたのだった。
―――
校舎の中を歩いて自分の寮に向かう女生徒が1人居た。
彼女の名前はマルヴィナ、Sクラスのカルト・ベルクレアの友達である。
彼女は友達を積極的に作る性格では無いため、Aクラスに数人の友達と小さなグループで静かに学校生活を送っているのだが、ある日Sクラスのカルトに見つかってしまった。
何故カルトに目をつけられたのか?その答えは彼女のスキルにあった。
彼女のスキルは「遠隔盗聴」、その名の通り遠くの指定した場所の音が聞こえるというものだった。
ある日、カルトにいつものようにスキルを使ってノアの会話を聞いてくれ、というお願いをされた。
マルヴィナは仕方なくそれを了承し、ノアの会話を盗聴し始めた。
そして、マルヴィナはその会話を聞いて戦慄した。
会話の内容は「Sクラスのオーウェンという生徒が悪魔に乗っ取られている」というとんでもない話であった。
マルヴィナはカルトに焦りを気づかれないように、心を落ち着かせながら聞いていく。
そして、マルヴィナは全て聞き終わったあと、カルトに「ノアたちは神聖国に行く」ということだけを伝えた。
何故か、人に話しては行けないような気がしたから。
恐らく学校内で唯一、その事を知っているという気持ちが彼女の足取りを重くしていた。
やっと自分の部屋に戻ってきて、ベットに倒れ込む。
「はぁ、なんてことを聞いてしまったんだろう」
マルヴィナはベットに寝転がると、ウトウトし始め、そのままうつ伏せのままで眠ってしまった。
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