6章 悪魔編

第91話 メイドといえど怒れば怖い

「さて、問題はいくらか山積みではあるが、まずはこの人から対処していこう」


 そういう俺の目の前にいるのは手足が縛られたセリアというオスカーに従えていた女の人だ。

 女の人だから縄で縛るとかあんまりしたくないが、逃げられても嫌なので仕方なくこうやってギチギチに縛っている。


「…?」


「俺の使用人になってくれ。まぁ、受け入れられないだろうが、何不自由なく過ごすことが出来ると思う。だが、一生使用人として働いてもらう」


 正直、一生働いてもらうのは嘘だ。

 一生俺のそばで働かれたらこっちとしても迷惑だし。

 取り敢えずセリアに自死に繋がることをさせたくないのである。


 ギルドに引き渡そうとも思ったが、セリアが何かやってない限り、逮捕は不可能だと思う。

 悪事を働いた証拠が何一つ残っていないし、解放すれば自殺しちゃうだろうし…。


 もはや選択肢はあってないようなものなのだ。


「そう、なら使用人になるよ。どうせやることないしね。あたいはもうオスカーは捨てたよ」


「そうか、なら縄を外すか」


 俺は縄を外すため、セリアに近づく。


 手の縄を解いた瞬間、何故か俺の意識が飛んだ感覚が襲い、意識が深い暗闇に落ちていった。


 ―――


「ふっ、あまり人を信じるもんじゃないよ」


 ノアという子供が近づいて、何も警戒せずにあたいの縄を解いた。


 即座にそいつの意識を飛ばして逃げるために窓の縁に上った時に後ろから殺気と共に話しかけられた。


「おい、本当に逃げられると思っているのか」


 そこに居たのはメイド服を着たエルフだった。


「あの時のエルフかい。もうあたいはあんたには挑まないよ。あたいはどっか人の居ない地で静かに暮らすよ」


 あたいは窓から飛び降りる。


 まずは金が必要だ。

 適当にそこら辺の冒険者から盗んで、ある程度溜まったら何処か遠い所へ行こう。


 だが、そんな野望はいつの間にか目の前にいたエルフによって砕かれる。


「ノア様は貴方を使用人にするつもりでしたので、あまり抵抗しないでください。あまり抵抗されると…」


「はっ!あの時はあたいが負けたけどね…、逃げるだけならこっちの方が分があるんだよ!」


 セリアは一気に跳躍して、家の屋根に駆け出す。

 後ろを確認するが、あのエルフは追ってきていなかった。


「さて、まずは金儲けからだねえ」


 ――殺してしまいますので。


 今まで感じたことの無いようなとてつもない殺気が辺り一体を支配する。


「なっ…!?!?」


 気づいた時には首の辺りに鋭い金属が触れるのが感覚でわかった。

 少し切れたのか、血が1滴したたり落ちる。

 その1滴がなかなか落ちず、まるで刹那の時間がとてつもなく長いように感じる。


「はぁ…はぁ…はぁ…」


 無意識にて口から漏れ出る吐息と額に溢れ出る冷や汗がセリアの心情を物語っている。


「ふふ、では私たちの家に帰りましょうか。ね?セリア」


「は、はぃ…」


 エルフに連行される金髪の人間。


 セリアの野望はとてつもない驚異にて、一瞬のうちにして打ち砕かれたのだった。


 ―――


「あ、あれ?俺何をしてたんだっけ」


「おはようございますノア様」


「あ、おおう。おはよう」


 えーと、俺はセリアと話してて…。


 あ、もしかして俺は気絶させられたか?


「ノア様はもう少し人を疑った方がいいかもしれませんね」


 そう言ってフルティエは顔色が悪いセリアを差し出してきた。


 フルティエがなんかやっちゃったか。


「隷属魔法の強要はしないが、あまり変なことはするなよー」


「はぃ…」


 フルティエのやつ、かなりセリアにトラウマになるようなことをしたな?

 相当脅えているのが目に見えて分かる。


「…まぁ、取り敢えずはフルティエが教育してくれ。清掃とか教えてくれればいいからさ」


「了解です。セリア、行きますよ。もう仕事は始まっているんですから」


「はぃ…」


 本当に大丈夫か、あいつ。


 まぁいっか。

 取り敢えずセリアの件はこれで終了だ。


 ―――


「はぁ…はぁ…。ふぅ…、落ち着け…」


 オーウェンは、自分の中に眠る悪魔を抑えるために心を落ち着かせる。


「チッ、なんで俺の体を奪おうとするんだ」


 何とか落ち着かせると、ベットに座り込む。

 額からは冷や汗が溢れていて、手足は痙攣していた。


「はっ、なんて不便な体だ。あいつが見たらなんて言うんだろうなぁ…」


 月夜が差し込む部屋の中、自分の腕を見ながらため息を着く。


 バタンとベットに倒れ込むとオーウェンは直ぐに眠ってしまった。


 ―――


「さて、今度はオーウェンの件についてだ」


 俺はエマに連絡を取り、俺の豪邸に招き入れて話し合いをすることにした。

 フェルも「悪魔」について詳しいので、強制参加である。


「悪魔、か」


「うん、悪魔…」


 未だにその事が信じられないが、エマはその現場を1番近くで見ていた。


 信じたくないが、現実は…。


「今日はその悪魔について話し合っとこうと思ってな」


「なら、我が悪魔の基本的な情報をもう一度話そう」


 そうしてフェルが言葉を続けていく。


 悪魔の特徴の1つ目は、悪魔は肉体を持たず、星幽体と呼ばれる特別な体を持っていて、主界では生きられないこと。

 だが、そんな悪魔でも主界に居座れる方法が2つあり、儀式で呼ばれて契約した者を乗っ取るか、儀式で主界に来た時に別の者を乗っ取るという方法だ。

 どちらにせよ、悪魔は儀式無しでは主界に来れない。


 2つ目は魔法の扱いに長けているということ。

 悪魔は生きてきた年月で強さが変わるらしいのだが、数千単位で生きている悪魔はとんでもない強さらしい。

 だが、今回の悪魔は人間のオーウェンでも抑えられていることから生まれてから100年近くしか生きていない個体だという。


 以上がフェルが話した基本的な悪魔の情報であった。


「1番最適な方法としては神聖魔法で悪魔を浄化してしまうことじゃな。数百年程度生きたひよっこの悪魔はそれだけでも霧散してしまうだろう」


 神聖魔法…か。


 しかし、神聖魔法なんて初めて聞いたな。

 俺の知らない魔法の分野がまだあったなんて驚きである。


「で、その神聖魔法っていうのはどうやって扱うんだ?」


「噂だが、神聖国に情報が秘匿されているらしい。まさにって感じじゃろ」


 まぁ、そうだけど…。

 あれ?神聖国ってどっかで聞いたことあるような…。


 あぁ、そう言えばフェルが片腕を復元する魔法がある国のことを神聖国って言ってたっけな。


 よし、決めた。


「ちょうどいいし、神聖国に行くか」


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