第90話 油断大敵
「…てゆうか、なんで女装なんてしてるんだよ」
俺は結局ダーグに抱えられて、ホッグドッグのいる森にやってきた。
「有名になったら周りがうるさくてな。だから変装してギルドで待ってたんだよ」
「ふーん、わざわざ女装をしなくてもいい気がするけど…」
今みると全然女っぽくないなこいつ。
固定観念っていうのは本当に凄いと思う。
「ま、いいだろそんなこと。取り敢えずホッグドッグを狩りに行こうぜ」
「ああー、待て待て。俺の使用人に倒させたいんだよ。そうじゃなかったらわざわざホッグドッグなんて行かないからな」
チェリアの戦闘能力はだいたい把握出来たから、次はフルティエの戦闘能力を確認しておきたいのだ。
今後のギルドでの活動は基本的には複数人で行く予定だからな。
「ノア様ー!」
「やっと追いついた…!」
ダーグより数分遅れてやってきたチェリアを抱えるフルティエ。
俺を抱えて走っていたとはいえ、ダーグに追いつくとはかなり身体能力もフルティエは高いな。
「…ノア様、その人のことの説明を求めます」
「そうですよ…!」
あぁ、そう言えば「ある男」ってしか説明してなかったっけな。
「前ちょこっと説明したと思うけど、こいつがダーグだ。フルティエたちが入る前に居たやつで、少しの間だが違うところにいたんだよ」
「あ、なるほど…」
「確かに、言ってましたね」
「よっ!よろしくなー」
「あぁ、そう言えばダーグの住むところも用意したから良かったら来てくれよ」
王に貰った豪邸はそもそもダーグのための貰った物だ。
今はもう使用人たちの家になっているけど…。
「そりゃいいな。使わせてもらうよ」
「んじゃあ、ホッグドッグを倒しに行くか。初手はフルティエが行ってくれ」
「了解しました」
フルティエは装備していた真剣を構えて、ホッグドッグに向かって走り出す。
ホッグドッグというのは豚と犬が混じったような魔物で、主な攻撃方法は突進だ。
それだけ?って思うかもしれないが、その突進が危険なのだ。
ホッグドッグは頭が異様に硬く、記録には上級魔法にも耐えうる個体もいるほどだ。
その硬さから繰り出される突進は驚異的な威力を誇るのだ。
だが、それ以外は本当にただの魔物で、危険は無いためF階級に分類されている。
突進が得意ということは見た目からも想像は容易いが、フルティエはどうする?
ホッグドッグは予想通りフルティエに向かって突進を始めた。その硬い頭を盾兼武器にして立ち向かう。
一方フルティエはその素早さに驚いたのか動きに乱れが現れる。
ホッグドッグは一瞬のうちにフルティエに接近して攻撃を仕掛けた。
フルティエは驚いた時の体の強張りによって一瞬対応が遅れる。
身体強化の魔法を直ぐに発動して、利き腕じゃない方を犠牲に盾にして威力を軽減する。
「くっ!」
ホッグドッグが通り抜ける瞬間、生きている腕にて放った斬撃はお腹部分にヒットして、倒れる。
「ほい、ヒールー」
俺はフルティエに回復魔法を放って傷を癒す。フルティエはバツが悪い顔をしながら立ち上がる。
「な、まずは低階級の魔物でよかっただろ?」
「…私の驕りを自分自身で気づかせるためにノア様は低階級の依頼を受けていたのですね。あぁ、私はなんて幸せなんでしょうか。ただの奴隷の私のことをこんなにも気にかけて心配してくれるなんて…」
急に早口になったな。
取り敢えず、俺の思っていたことがフルティエに通じたようで良かった。
油断大敵、低階級の魔物と言えど人間を殺しうる力を持っている。
魔物との戦いでは観察することが大事なのだ。
「…んじゃあ、ホッグドッグを狩って行こうぜ。チャチャッと終わらせよう」
俺たちはホッグドッグを規定数倒しきるとギルドに戻るのだった。
「あー、憂鬱だな。めんどくさい事になりそうだ」
「あ?なんでだよ。なんかやらかしたのか?」
お前…、気づいてなかったのか。
「かの有名な優闇さんがいちB階級冒険者の子供と一緒にF階級の依頼を受けに行ったんだぞ?」
「あー、確かに」
「ほとぼりが冷めるまで依頼を受けるのはお預けだな」
「すまんな、なんか」
「ダーグってそういう時謝るキャラだったか?」
「はっ、なんだよ。真剣に怒ってるのかと思ったぜ」
取り敢えず、豪邸に直行だな。
フルティエにでも依頼の報告をさせに行くか。
フルティエに依頼の報告へ行く指示を出して、隠れながらも豪邸に向かう。
ちなみにチェリアは俺に抱えられて運ばれている。
しかし、こういう時に身体能力的に付いて来れないチェリアに早く身体強化の魔法を覚えてもらわないとな。
「さっ、ここが俺の家だ」
「お、おいおい。なんだよこれ…!」
驚いてる驚いてる。
そりゃあびっくりするだろうな。
数ヶ月前まで森で暮らしてた子供がこんな豪邸を持っているなんて。
実際自分でもびっくりしている。
たった数ヶ月で、タイタアルやノーフェイス、ジェンドマザーと戦ってきたのだからな。
「早く入ろーぜ!」
俺はダーグに手を引っ張られて豪邸に入る。
また一段と賑やかになりそうだ。
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