第88話 かつての

 フルティエとアルトルは奴隷市場にやってきていた。

 ノアの望んだ項目に当てはまる4人の奴隷を買う為である。


「かつて売られていた場所に来るなんて、人生は何があるか分からないものね」


「あぁ、全くだな」


 フルティエはそう思い返すと、今の自分がどれだけ幸せなのかを改めて実感する。


「探しましょ。私は清掃出来る者と庭の手入れを出来る者を探します。貴方は貴方の助手を出来る者をお願いするわ」


「了解した。じゃあ、1時間後くらいにここに集合だ」


 フルティエとアルトルは二手に分かれて、ノアに見合う奴隷を探し始めた。




「さて、正直清掃は1人でもいいと思うから庭の手入れが出来る者と清掃が出来る者…、いや、清掃なんて誰でも出来るから他の能力を持ってる者がいいわね」


 正直、奴隷市場で売っている奴隷は価値が下がってしまった奴隷だから、ちゃんとした奴隷を扱う専門の店に行った方がいいとは思う。

 だけど、そういう店を利用するのは莫大な富を持っている貴族くらいだろうから諦めるしかない。


「なるべく安くすんで能力の高い奴隷がいいのだけれど…」


 魔力の感知を行使しながら、奴隷市場を見回りながら歩く。

 魔力量は平均的に低くて、生命力もあまりないものも多い。


「うーん…」


 奴隷の特徴が書かれた看板を見ながら歩いている最中、「ほぼ何でも可能」と書かれた看板を発見し、その奴隷に視線を向けたら、そこには男のダークエルフだった。


「…ダーク、エルフ」


「おや、気になるかい?」


「えぇ、まぁね」


 ダークエルフ…、恐らく私と同じような経歴を持つのだろう。

 何でも出来る奴隷はこの奴隷市場ではかなり貴重な存在だろう。

 値段は金貨80枚であることを見ることでもそれが分かる。

 だが、ダークエルフというのはエルフとあまりいい関係ではないと聞く。

 私はそういう教育がされる前に奴隷にされたから、実際には分からないが、このダークエルフがそういうことを気にしていたら、無駄ないざこざが起きてノア様に迷惑がかかりかねない。


 …いや、ノア様は役立つ者は連れてこいと言っていた。

 そういう面で見ればこのダークエルフはその条件に1番近いのだろう。


「…買わせてもらうわ」


「お、即決かいな。じゃあ、隷属魔法を行使するから血を出してくれ」


 そうか、隷属魔法を結ぶ必要があったのか。

 これは私が契約してもいいのだろうか。


『ノア様、私が隷属魔法を契約してもいいのでしょうか?』


『あぁ、それで頼む。教育も頼んだ』


『了解です』


 全く、ノア様は丸投げですか…。

 私がしっかり面倒を見なければいけないな。


「えぇ」


 その後、隷属魔法の契約をしてダークエルフを連れて、他の奴隷を探す。

 だが、他には良さそうな奴隷はいなく、結局ダークエルフの奴隷1人を連れて集合場所に戻ってきた。


「…貴方はエルフをどう思ってる?」


「…私は幼い頃に攫われましたのでそういうのは分かりません」


 私と一緒か。

 ならトラブルは起きそうにはないな。


 1番の懸念が拭えて良かったと、心の中でほっとするフルティエであった。


 ―――


「俺の助手、か。確かに今まで少し大変だと感じたことはあるが…。そういうところまで気にかけてくれるとはなんと優しいことか」


 アルトルはフルティエと同じように奴隷の特徴が書かれた看板を見回りながら、見合う奴隷を探す。


「最悪料理が出来なくとも俺が教えればいいから、根性があって真面目な奴がいいな」


 条件を変えて、探し回ること数分、アルトルは料理が出来る女奴隷を見つけた。


「料理の教育あり、か」


「えぇ、出来ますよ。ただ、こいつライタブ中毒でしてね…」


 ライタブ中毒…、確か数年前に流行ったライフスターブという中毒性の高い成分が含まれているタバコの中毒者の事だったか。


 座り込んでいる女の姿を見ると顔は少し窶れていて、元気がない様子が伺える。


 値段は…、金貨10枚か。


『ご主人様、ライタブ中毒者なのですが料理が出来る者を見つけました。連れてきても大丈夫でしょうか』


『ライタブ中毒、か。あぁ、アルトルはそいつがいいと思ったんだろ?なら大丈夫だ』


『分かりました』


 俺はその後、隷属魔法を契約して、女奴隷を連れて集合場所に戻ったのだった。


 ―――


「あら、その人間の女は…」


「ライタブ中毒だ。だが、見込みがあると思ったからつれてきた」


「それで、そっちも1人だけか?」


「えぇ、1人だけで充分と判断したから」


 フルティエとアルトルは互いに連れてきた奴隷を確認し合うと、連れて豪邸に向かうのだった。



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