閑話:フェルの休日
フェルはとてつもなく暇を持て余していた。
平日はノアやSクラスの人と話したり、稽古をしてやったりと、それなりに充実した日々を過ごしているフェルだったが、休日になると一気に暇になるのだ。
「はぁー、今はお菓子の気分じゃないしの。ノアは、部屋に籠ってなにか魔法の研究をしておるし、他の奴らはみんな出掛けておる」
暇潰し候補を上げていくが、そのどれもが潰れていき、再び暇な時間が訪れる。
「…街でも歩くか」
フェルはノアとしか来たことがない、街に向けて歩き出した。
街に着くとフェルは歩き出した。普段はじっくりと見ない街を見るのもたまにはいいと感じるフェル。
「おう、そこの可愛い子ー。遊ぼうぜ」
急に声をかけてきた男を無視して、フェルは歩き始める。だが、その態度にイラつきを覚えた男は更に強く引き留めようとする。
「なぁ、無視すんなって。楽しいことしようぜ?」
「…握手」
「おん?握手か、大事だよな握手。ほら」
手を差し出したフェルは男の手を掴むと少女には出せないような力で思いっきり握った。
「いでででで!!離せ!このっ!」
「ほら、離したぞ」
コンマ数秒、腕の力を弱めて男に手を引く時間を与えたフェルだが、再び無理やり男と握手して力を強める。
「いてぇ!ごめん!悪かった!」
「ふは、今面白い顔をしてるぞ。お主」
男は泣きじゃくり、その様子を街を行き交う人に見られて逃走した。
フェルは拍手されて、称えられた。
「やるじゃないの!」
「かっこよかったぜー?」
「いいぞー!」
フェルはなんとなくだが、嬉しい気持ちになった。
その後、フェルは食べ物のお店を回って休日を満喫していた。
ふむ、休日はずっとお菓子を食べて生活をしていたが、たまにはこういうのもありだな。人と触れ合うというのはなんとも楽しいことじゃな。
そう結論付けて、帰ろうとしたフェルは急に腕を引かれて路地裏に引き込まれた。
そこには昼に握手をした男と、その周りに大男が数人いて、物々しい雰囲気を放っていた。
「よう、ガキ。昼はよくもやってくれたな。今度は容赦し…」
だが、そんなことはお構いないしと言わんばかりのフェルのデコピンにて大男が悶絶して倒れ込む。
「ねぇ…、え?」
「握手」
「ヒィ!」
男はフェルが腕を差し出したのがトラウマになってしまったのか、その場から再び逃走する。
フェルは未だに寝るまで時間があることを確認して、男を追いかけるのだった。
「本当にそんなガキがいるのか?」
男について行って辿りついたのは薄暗い路地裏の一角にある家だった。
そこには筋骨隆々の男が椅子にドカッと座っており、慌てる男を落ち着かせている最中だった。
「あぁ、ここにおるのじゃ」
フェルはお構い無しに飛び出た。
今度はとわんな顔を見せてくれるのか楽しくなっていたのだ。
「…てめぇ、ここがドームファミリーのアジトと知ってき…」
「ん?あぁ、知らんかったのじゃ。その男に着いてきただけだからの」
「おい、何つけられてんだよ」
「す、すみません…」
「まぁ、いい。俺が直々にこのガキを殺してやる」
フェルはそんな筋骨隆々の大男には興味が無いと言わんばかりの素振りで欠伸をする。
そんな姿に、筋骨隆々の大男は怒りを露わにする。
「てめぇ、死ぬ準備は出来てるみ…」
「ドゴンッ!」
――瞬間、フェルが拳に力を入れて地面を殴ると、建物が崩壊し始める。
「ゴホッゴホッ、なんだぁ?地震かぁ?」
「握手」
瓦礫に埋まっていた筋骨隆々の大男の手を無理やり引っ張り出して握手する。
「いでででで!!いてぇ!」
「ふは、泣きそうじゃないか」
「離してぇ!しぬ!」
「ふ、ほら離したぞ」
「てめぇ!!」
「ほい、握手」
「いってぇ!ごめんなさい!離してぇ!」
フェルは散々その筋骨隆々の大男で遊んだ後に、興味をなくして寮に戻ってきた。
「なんだ、フェル。なんだかスッキリしたような顔だな」
「お?そうかの」
フェルは充実した休日を過ごせたのであった。
そして、ドームファミリーという最近頭角を表していた犯罪集団が何者かによって破壊されたという噂が出回るが、それはまた別の話。
―――――――――
息抜きパート2
次回からは普通に本編に戻ります。
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