第83話 天災、悪に染りて その玖
俺たちはゆっくりと地上へ降り立つとそこにはシエルがいた。
「の、ノア?この巨大なスライムは敵じゃなくなったの?」
もしかして、戦うために来てくれたのか。
残念だが、もう既に支配がとかれたから戦う必要は無くなったんだけど、来てくれたんだな。
「あぁ、だがさっきまでこのスライム、街を破壊しようとしてたんだぜ?」
「見ればわかるわよ」
『あ、あれは操られていたから仕方ないよねぇ…はは…』
巨大なスライムは体をぐんぐんと小さくさせて、しまいには俺たちと同じくらいの身長にまで小さくなった。
そこから更にスライムの体が蠢き始める。
うねうねとうねりながら人間の手足のような物を作成して、最後に顔を作った。
髪の毛や体、胸や足などはまるで人間のような姿で、長く伸びた髪を後ろで乱雑に縛っているような容姿だが、肌の色…というか全てが青い。
人間のようで全く人間では無いな、フェルのような人化は出来ないのだろうか。
「あー、あー、どう?凄いでしょ。人間の声帯まで真似たよ?これが本当の声帯模写ってね」
「…しかし、町は大混乱だろうなぁ…。どうしようか?」
「無視!?仮にも私は八源厄災の1人だよ!」
「八源厄災?」
「えぇ?知らなかったの?そこの神…」
ジェンドマザーが言葉を続けようとしたらフェルがものすごい殺気を放った。
「ちょ、なんで怒ってるのかわからんけど、ごめんって。本当にそれ怖いからやめて…」
ジェンドマザーがフェルに睨まれて萎縮してる。
あの巨大スライムが怖がるとは、フェルは相当恐ろしいんだな。
「ノア、今変なことを考えた?」
いきなり俺の事をターゲットして睨んでくるフェル。
「い、いえ。別に」
…確かにフェルの睨みと殺気は怖いな。
そういえば2人は知り合いじゃないって聞いたけど…。
「知り合いだったの?2人とも」
「いや、我は話したことは無い」
「私もー!でも噂は聞いてるからねぇ」
伝説の獣にでもなるとこんなとんでもない魔物にも噂が流れるんだなぁ。
「しかし、ジェンドマザー程の魔物でも支配されるとはあの男は何者だ?」
ジェンドマザーは触手で作った手を顎に当てて考えるような素振りを見せる。
「私も憶測なんだけど…、多分スキルの力じゃないかな?スキルってほら、抗えない絶対的な力みたいなところあるじゃん?それにしても、スキルの力とはいえ、何かを代償にしたり、生きてる内に1回しか使えないとかの制限付きじゃないと私見たいな超すごい魔物は支配出来ないだろうけど」
スキル、か。
確かに今まで見てきたスキルは普通では考えられない力を持っていた。
それを考えると、あのジェンドマザーを支配することも可能か。
「さて、私はこれからどうしようかなー!」
わざとらしくこちらをチラチラ見ながら、頭で腕を組んで、叫ぶジェンドマザー。
「まさかノアを奪おうと言うのか?」
「え!いやいや、まさか。私はちょっと君が気に入ったからさ?ついて行こうかなぁって」
え?なんかめんどくさい事になりそうだなぁ。
出来ればどっかで静かに暮らして欲しいんだけど。
「…君、私にとんでもない魔法を放ったよね」
「え?まぁ…いや、だけどそ…」
「…私の体結構飛散して小さくなったんだけど」
「そうかもしれないけど、自分のせい…」
「…あぁ、痛い痛い。今になって遅れて痛みが…。しかも見た?あのフェンリルの超ヤバすぎ魔法。マジで死にかけたけど、私」
「…わかったよ。勝手にしろ」
「わーい!あのフェンリルとも一緒に行動出来るしやったー」
フェルとシエルは呆れた表情で折れたノアを見つめるのだった。
―――
「あ、あれ?ここは…」
辺りを見渡すと何も無い真っ白な空間に俺はいた。
それ以外は本当に何も無く、俺は混乱する。
「…確か、俺は血が足りなくて死んだんだよな。だとしたらここは死後の世界、か」
だとしたら、地獄だな。と俺はそう確信した。
何も無い空間で無限に続く時間を生きろ、とかそういう感じの地獄だろう。
当然だ、切羽詰まって復讐心に駆られていたとはいえ、小さな未来ある女の子を殺してしまったんだ。
それに未遂とはいえ、王国民を皆殺しにしようとした。
罪はちゃんと受け入れよう。
「あー、すまんすまん。待たせたの」
突然後ろから声がして振り返ると、髭を蓄えた仙人のような容姿の老人が浮いていた。
「え?貴方は…」
「神じゃよ。かーみ、知らぬか?神」
「いや、知ってますけど…」
なんで神様がこんなところに?ここはイメージとは違うが地獄なんじゃ?
「…お主は理不尽な運命に抗うすべを持たず、周りに翻弄され、遂には死んでしまった。こんな似たような運命を辿る者は少なくない。だが、お主は更生したようじゃ。じゃから、力は全て没収するが、元の世界に戻す」
「え…、なんで…。俺は、あの女の子を殺して…」
「その女の子からお願いされたんじゃよ。あの人をどうか助けてってな。本来は死んだ人間を生き返らせるのは違反じゃし、見つかったらヤバいが、今回は特別じゃ」
…そうか、あの女の子が…。
この意志、この命、決して悪に染まらないように、あの女の子の願いが間違いじゃないことを証明するために、元の世界で生きよう。
「…ふ、その意気じゃ。では送るぞ」
「ありがとう…」
俺の体は謎の浮遊感に襲われる。
暫くして目に差し込んできたのは蒸し暑くて、眩しい夏の日差しだった。
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