第82話 天災、悪に染りて その捌

大地の抱擁エン・ブレンド


 巨大なスライムであるジェンドマザーが繰り出したのは土系統の魔法だった。

 大地から何個もの大岩が出現して、まるで抱擁をするかのように両サイドからとんでもない勢いで突撃してくる。


「攻撃対象を我たちだけに切り替えた。本当に殺す気で狙ってくるぞ」


「取り敢えず、攻撃していこう。何もしないことには始まらない」


 フェルは疾風迅雷クイック・レイドを、ノアは限界突破オーバー・リミット電光石火スピードを使い、土系統魔法の飛び交う中、速さに身を任せ、二手に別れる。

 そして、ノアはその最中に思考を始める。


 俺の主力魔法はどちらかと言うと、対人戦や人型や大型の魔物と戦闘するために考案した小さい小規模な魔法が多い。

 とゆうか、それしか無かった。


 だから、俺は生み出したのだ。

 超大型生物との戦闘でもダメージを与えられる大規模な魔法を!


「2連破滅の大災禍フォール・ディザスター


 上空に現れたのは、炎系統魔法と土系統魔法の統合二重詠唱によって生み出された巨大な隕石×2。

 対抗戦の時に見た「隕石の衝突メテオ・クラッシュ」を更に強化した俺の超大型専用超大規模魔法!


「食らえ!」


 ゆっくりと降下を始めた隕石はやがて速度を増して、ジェンドマザーに向かう。

 そして、衝突した破滅の大災禍フォール・ディザスターは大爆風を巻き起こした。


「やったか?」


 爆風から現れたのは、体が5分の1ほど削れたジェンドマザーだった。


 だが、その瞬間にジェンドマザーのスライム体は再生を始めて、ものの数秒で元どうりに治ってしまう。


「おいおい、嘘だろ…」


『ノア、もう一度その技をするのじゃ。我もタイミングを合わせて一気に攻撃を仕掛ける』


 …なるほど、再生されるなら再生される前に倒してしまおうってことか。


『先生、タイミングを』


『あぁ、20秒ほど待ってくれ』


 ならこっちももっとドデカいのをお見舞いしてやるか。


 魔力回復のポーションを飲み干したノアはジェンドマザーの攻撃を避けながら集中力を高める。


 ―――


 上空にいきなり現れたのは巨大な隕石が2つ。

 ノアはあれほどの魔法を既に使えるようになっていたのか。


 フェルはそう素直に感心する。


 出会った頃は上級魔法の制御すら出来なかったのに、なんと人間の成長は早い事か。

 我も遅れをとるわけには行かんな。


『ノア、もう一度その技をするのじゃ。我もタイミングを合わせて一気に攻撃を仕掛ける』


 我はノアに念話にて指示を出す。我も少々本気で行かせてもらおうか。


『ノア!今じゃ!』


 ノアに指示を出して、詠唱を始める。


「この世の悉くよ、我に集まりて力となれ。ニンリルよ、我に嵐の力を。放つのは嵐を纏った大厄災、全てを呑み込め」


 伝説のフェンリルによる


 途方もない嵐がフェンリルに収束していく。


 ――その姿はまるで、嵐の化身。


悉皆滅ぼす死滅の嵐流カタストロフィ・テンペスト


 極限に収束した荒ぶる嵐は白銀の獣から放たれると、その全てを巻き込み巨大化していく。

 ノアの魔法により、ジェンドマザーは体の5割を欠損し、その後に追撃のように降りかかった厄災の嵐でその巨体を全て削りきった。


「やったか」


 数瞬の沈黙の後、小さな破片となったジェンドマザーは尚も再生しようと動き始める。


「我の魔法でも削りきれなんだか…」


 その再生速度は加速度的に早くなり、元の体に戻りつつあった。


 ―――


「ごめんなさい。謝っても許されることではないけれど、言っておきたかった」


 オスカーは目の前の足先が半透明になって空中に浮いている少女、マーティナに向かって謝罪をする。


「うん、もう大丈夫。でもその前にジェンドマザーを止めて。貴方のせいで死ぬ人をもう見たくないから」


「あぁ、分かった」


 オスカーは自分のスキルである「完全支配」の力を解いた。


「確かに俺とジェンドマザーの繋がりは消えたぜ」


「そう…、よかった」


「でも、その力は凄いね。八源厄災を支配出来るなんて」


「あぁ、これは生涯で1回きりのスキルだからな。それぐらいの効力はあるのだろう」


 今にも死にそうな顔で語るオスカーを見てエマは険しい顔をする。


「本当に死ぬ?」


「自分の体だ。それぐらい分かる」


「…そっか」


「…最後にこんな俺にも悲しんでくれる人間がいた事が嬉しい…」


 ――オスカーはその言葉を言い切ると目から涙を流し、脱力したように倒れる。


「…私ももう未練はないから、成仏するよ。ありがとう、エマ」


「うん、どういたしまして」


「じゃあね」


 半透明だったマーティナが更に透明になっていき、やがて本当に消えてしまった。


 エマはオスカーの方へゆっくりと歩いていき、ポケットに入っているハンカチを取り出してオスカーの涙を吹いたのだった。


 ―――


『痛い!酷いよ!!』


 突然、大音量の声量でどこからか叫び声が聞こえた。

 まるで脳内に直接話しかけられているような…、念話に似ている感覚が俺を襲う。


「もしかして支配が解かれたか。あの男を倒したか」


「あ、この声ってもしかして…」


『私だよ!私!ジェンドマザー!』


 再生しきったスライムの方に視線を向けると、その巨体でじたばたと暴れるジェンドマザーの姿があった。






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