第79話 天災、悪に染りて その伍
起源のジェンドマザー、それは水の神ネプチューンから神力の一端を借り受ける者。
その体は海のように青く、そして、巨大。
丸いが不定期に形が揺れ動くスライム形を成すその青い厄災は王国を一直線に目指し、直線上にある民家や木々、山を破壊しながらも動くことをやめない。
ジェンドマザーは男の命令を受け、それを全うしようと王国を目指す。
王国を更地に帰す、その為だけに。
―――
洞窟を抜け出し、身体強化の魔法を行使して、空中をステップウィンドで走る。
洞窟を出た時点で、その巨大なジェンドマザーの体は視認でき、その大きさに驚愕する。
「デカすぎんだろ…」
「あぁ、確かにな。海の化身と言われているだけはある」
その形はまるでスライムのように楕円でぷよぷよと揺れ動きながら行進している。
ただ、大きさが100メートルは優にあるその巨体からは可愛さは一切感じないが…。
「急ぐぞ、早くしないと不味い」
魔力回復のポーションを飲みつつ、移動するスピードを上げて、俺たちは空中をひた走る。
―――
「青い厄災…か。予測できるものとして候補が上がるのが、一体いるが…。文献によればそのものの性格は穏やかだという。文献に頼りすぎるのもどうかと思うが…。さて本当に青い厄災が王国に攻め込んで来たならばどう対処をすれば良いのやら…」
ライリー・ジーグボルトは独り言を呟く。
普段の些細な問題なら「影之腰刀」に頼めば解決してくれるだろうが、今回はあのジェンドマザーが来るであろうと予測出来る。
「今回もマリスの予言が的中しなければ良いが…」
ライリー・ジーグボルトは前回の予言の的中が外れたことでそんなことを思ってしまう。
だが、その思いは裏切られることになる。
「大変です!王よ!」
突然、部屋に入ってきた兵士は肩で息をしていてかなり走ってきたものだと推測する。
「一体何が起こったというのだ?」
「巨大なスライムが王国に向かって進行してきていますッ!!!」
ライリー・ジーグボルトは予言が見事に的中したことに顔が険しくなる。
だが、やらなければいけない。
「今すぐに迎撃の準備を始めろ」
―――
「チッ、あいつはなんなんだ?ジェンドマザーと同格の者か?」
「はっ、お前に答える義理はねぇッ!」
レオの剣が綺麗な直線を描き男を攻撃するが、男はその全てを回避して更にレオに反撃の魔法を撃ち込む。
エマはその状況を見て芳しくないと考える。
レオはこの中では1位か2位に来るレベルの剣の使い手だ。
他の2人もそれに追いつくほどに剣の扱いは上手い。
だが、レオの剣が全く当たらないことを顧みるに勝ち目が薄い…、いや殆ど無いことに察しがつく。
しかし、ここであの男を逃がせばノアとフェルの負担が重すぎることになる。
だから、何としてもここで足止めをしなければいけないが…。
「…お前らも知らないのか、あの2人の正体を」
「なに…?人間に決まってるじゃないか」
「はっ!あの大鏡を見ても人間だと思うのか?魔法をそっくりそのまま反射させる魔法だぞ?その構築にどれだけの魔力が必要か分からないが、とてつもないだろう。人間離れした魔力量の持ち主ってことだ」
ノアが、人間じゃない…?
あの男のニアンスを汲み取るに恐らく獣人やエルフという種族が違うということではなく、強大な力を持った怪物かのような物言いだ。
確かに、いつもすごい魔法を使って私たちを驚かせるが、あのノアが人間じゃないとしたら…。
「エマ、貴方はノアとフェルを信じてこの男の足止めをしてるんでしょ。惑わされないで」
…その通りだ。
ノアが人間じゃないかどうかは問題じゃない。
今はただこの男をする足止めすることを考えなければ。
「…いや、ふはは。よくよく考えればあのジェンドマザーだぞ?八源厄災の一体だぞ?魔力量が多い程度で何が出来る。ふはは、俺は深く考えすぎるのが欠点だな」
「八源厄災…?」
「八源厄災も知らないか!なら俺が教えてやるよ。もう王国がどうしようもない状況だということが分かるようにな!八源厄災っつうのはこの世界において頂点に立つ者達の総称だ。その一体であるのが起源のジェンドマザー、水の神ネプチューンに神力の一端を借り受けたスライムだ。その力は強大だ、全てを飲み込むほどの力を持っている。だから俺はジェンドマザーを支配したのさ!」
「なっ…、だとしたらジェンドマザーが王国に向かって進行している原因は…」
「あぁ、俺が支配して王国を潰せ、と命令したんだ。復讐のためだ」
「復讐…?」
「そう!復讐だ!俺もともとこの世界の住人ではなくて、別の世界…、日本という地球という星から転移させられた。転移させられてまず隷属魔法を行使され奴隷のようにこき使われた。そして、俺は何年も使われた後に力が無いと言われて捨てられたのだ。俺の世界は魔物すらいない平和な世界だった。なのにいきなりこの世界に転移させられて俺の人生はめちゃくちゃになった。だからその元凶でもある王国を潰すことにしたのさ」
「だからと言って王国を潰す理由はないだろう。復讐は復讐しか産まないぞ。いつかお前を殺しにくる輩が現れるかもしれない」
「…ふっ、はは!だから全てを潰すんだよ。その復讐を産まないためにもなぁ!」
狂っている、そうエマを含め全員が感じた。
だが、この男の気持ちも分かりたくないが分かるような気がするとエマは思う。
ある日、平和だった日々が突然、支配される恐怖に一変するのだ。
「貴方を殺したくない」
「はっ?」
「その気持ち、分かる気がするから」
エマは自分の過去を振り返る。
自分の家族が奴隷堕ちした経験が、この男と似ていると感じたから。
「…適当なこと言うんじゃねぇよ」
だが、その言葉は男の逆鱗に触れてしまった。
男からはとてつもない殺気が迸り、洞窟内に緊張が走る。
男は初めて剣を取り出して、構えた。
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