第78話 天災、悪に染りて その肆
「…この先じゃ。警戒しておれ」
フェルがそう言って警戒を促す。
俺にも感じれる魔力がこの洞窟の奥にひとつだけある。
その魔力は何をする訳でもなく、動かない。
俺たちに気づいていない…?
仮にも王国を滅ぼそうとしている人物がそんなことあり得るか?
…動かないならそれだけを警戒すればいい。
俺たちは洞窟の奥に進んでいく。緊張の雰囲気が洞窟内に充満して、冷や汗が出始める。
そして、洞窟の先に明るく光る広い空間が広がっていた。
そこにただ1人だけ男が立っており、俺たちを待っていたかのようにこちらを見据える。
「…何故、ここが分かった」
第一声、男は疑問を投げかけた。
確かに男は知らないだろうな。
何故ここに来れたのか。
「マーティナという女の子を殺したか?」
男はその言葉に考える仕草をして、思考を始める。
なんだコイツ、人を殺しておいて考えないと思い出せないのか?
「あー、いたなぁ。そんなやつ。何故かこの洞窟の中に入ってきてな、だから殺したんだよ。知られて返す訳にはいかなかったからな」
「不快な態度だ。人を殺したのになんとも思わないのか?クズめ」
「はっ、冒険者も依頼の達成のために魔物を殺すだろ?それと一緒だ。俺も計画のためにその人間を殺した」
「落ち着け、挑発に乗るな。心を穏やかにしろ」
「分かってる、先生」
しかし、ジェンドマザーはどこにいるんだ?確か、マーティナの話によると男と一緒にいるという話だったが…。
「…まさか!?」
「おっと、気づかれてしまったか。行かせねぇけどな」
男の姿が消え、気づいたら洞窟の出口方面に立ち構える。
ここにジェンドマザーがいない。
つまり、もう既に王国に進行している可能性がある。
そして、この男は俺たちを足止めするための囮…。
『不味いぞ、どういうわけか知らないが本当にジェンドマザーが王国に進行を始めているようだ』
『なに?本当か?』
『あぁ、我の魔力の感知を限界まで広げたら王国に向かう巨大で膨大な魔力が見つかった』
『Sクラスの奴らには悪いが、我とノアでジェンドマザーの対処に向かう。念話でタイミングを言う。それと同時に出口に飛び出せ』
『あの男を俺とフェルを抜きで倒せると思うか?』
『…厳しい戦いにはなると思う。じゃが、我たちがジェンドマザーの対処に向かわなければ更なる被害が拡大する』
クソ、そうするしかないか…。
「
「ち、力が漲ってくる…?」
この魔法の凄いところは、
普通、身体強化の魔法は重ねがけ出来ず、魔法の練度や集中で効果が上がる。
なので、この魔法ははっきりいってぶっ壊れなのだが、対象が多くなるほど使用する魔力が膨大になっていくことや、自分自身にはその効果が付与出来ないので使う場面は限定される。
だが、俺はこのタイミングで使うことを決めた。
ここで味方を強化する魔法を使えば俺たち全員で立ち向かうと男に勘違いさせ、僅かに生まれた隙を突くことが出来るだろう。
「こいつを早く倒してジェンドマザーの対処に行くぞ!」
「おうッ!」
みんなには騙しているようで悪いが、この魔法で頑張ってくれ…!
フェルがまず最初に拳を握りしめて男に突進する。
男は難なく回避して追撃をしようとするが、フェルは既に退避している。
今度は俺たちが一斉に立ち向かう。エミリート、オーウェン、レオが剣で、カルトとエマは魔法で男に攻撃を仕掛ける。
『いまじゃ、行くぞ』
『分かった』
俺とフェルは攻撃をしながら、全力で出口に向かう。
男は俺たちに気づいたのか、攻撃をくらいながらも俺たちの行く手を阻もうと魔法を放ってくる。
だが、その全てはみんなによって防がれる。
「おい!俺たちがノアの魂胆に気づいていないと思ってたのか!」
「そうだよ!僕たちを強化した時、怪しいと思ったよ!」
「早く行って!あまり持たないかも!」
「うん、頑張って。ノア!」
「ジェンドマザーは任せたぞ!」
…なんだよ。気づいていたのか。
「任せろ。我がボコってくるのじゃ」
「あぁ、任せとけ」
男は今尚必死に俺たちを止めようと攻撃の手を止めない。
「クソっ!てめぇが、セリアが言っていたジェンドマザーに匹敵する人間だったのかよ!」
男は力を振り絞り巨大な炎系統魔法を放つ。
あれは…、上級魔法を凌ぐ程の威力がありそうだ。
「
大鏡に吸われた魔法はすれ違うように出てきた魔法と入れ替わるように放たれる。
その魔法は男に直撃すると、攻撃の手は止んだ。
「行くぞ、先生」
「あぁ」
俺たちはジェンドマザーを止めるために走り出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます