第77話 天災、悪に染りて その参

『片付きました』


『そうか、よくやった。褒美でもいるか?』


『いえ、当然のことをしたまでですので、必要ありません』


 突然のアルトルからの襲撃された、との報告があって若干焦ったが、フルティエが完璧に対処したようだ。

 フルティエは意外と戦闘もできるのかもしれないな。


「マーティナちゃん!本当にここなのー?」


 例の穴を探し始めて数時間が経ったが、それらしき物は未だ見つからずに、全員がマーティナの証言を疑い始めるような雰囲気が漂い始め、遂にカルトがマーティナを疑い始める。


「ここのはずなの…」


「…もーちょっと探そっかなぁ。ね、ノア」


「おう、そうだな」


 取り敢えず暗くなるまでは探してみようか。王国が攻め入られる疑いがある以上はその疑いが晴れるまでは探すのを中断する訳にはいかない。




「うーん、本当に見つからないな。情報量が少なすぎるか…」


 探し始めてかなりの時間が経過して、辺りはもう既に夕焼け色に染まり、浜辺で遊んでいた人たちも少なくなってきた。

 マーティナは俺たちが捜索を諦めると思っているのか、顔色がだんだん暗くなってきている。

 俺たちも探したいし、その情報が正しいのなら一大事なのだが、ここまで見つからないとなると疑わないわけにはいかなくなる。


「うーん…、今日のところは一旦宿屋に…」


「おい!!あったぞ!!」


 ん?オーウェンの声だ。見つけたのか?


 その声がした方向に探していたみんなはそこに集まっていく。

 オーウェンは海を泳いで数十メートル程のところで立ち泳ぎをして、みんなを待っていた。


「これ、そうなんじゃないか?」


 オーウェンが指を指すその先には岩肌が露出した崖とは言いづらい小さな崖があり、その下には縦横5メートル程の大きさの穴が空いていた。


「まさか、潮の満ち干きで現れる時間限定の穴だったとはな」


 オーウェンがそう口にする。

 確かに、それなら見つからないのは道理だし、子供の目線なら大きな崖に見えなくもない。


「上がるぞ。ほら、手を」


 オーウェンが次々手を貸してみんなを引き上げる。

 穴の中は小さな魔道具が光を発していて、明るく照らしている。


「フェル、先頭に立って警戒を頼む。俺は後ろを警戒する。みんなは全体に気を配ってくれ」


 先頭をフェル、俺が後ろを担当して先に進むことにした。


 ―――


「チッ、セリアは帰ってこないか。返り討ちにされた…か」


 オスカーは椅子に座ってイラつきを言葉にする。


 だが、セリアは王国に攻め入る時には捨てようと思っていたから、手が省けて助かった。

 潮の満ち干きで現れる時間になった途端、洞窟の入口に7つの魔力を感知できた。

 そのひとつにはセリアが言っていたジェンドマザーに匹敵する程の魔力を持っている人間がいる可能性がある。

 セリア程の魔力の感知の精度はないから分からないが、居たら俺ですら勝てるか分からない。

 いや、ジェンドマザーに匹敵する程だ。

 善戦は出来るだろうが勝てないだろうな。


 ――今、始めるしかないんだな。


 オスカーは椅子を立ち上がり、近づいてくる魔力をなるべく引き付けて時間稼ぎをする為の作戦を考え始めた。


 ―――


 マリス・ジーグボルトは再び杖を使って予言をし始めた。

 マリス・ジーグボルトの予言は既に日常の食事のように習慣になっており、王国を安全に導くために日々、予言を行い続けている。


『青い厄災が闇を抱えし男と共に王国を飲み込む。悪に染った青い厄災は天災そのもの』


「青い厄災…、それと闇を抱えし男。はぁーあ、なんでこの国はこんなにも厄災の被害に晒されるのでしょうか」


 この短期間で厄災が襲いかかるのは異常事態だが、マリス・ジーグボルトは予言に対して疑いを持ち始めていた。

 前回の予言である支配の雷や風神の如き厄災は出現せずに魔なる者の軍だけが出現した。

 今まではマリス・ジーグボルトの予言は100%の確率で起こる予言と言うより予知に近い力だったが、最近の予言は当たらなくなってきていた。

 杖の力が弱まっている乃至ないし私自身の杖の適性が下がってきているのか分からないが、予言が100%では無くなってきている。


「…お父様には一応報告はしときますか。その厄災が降りかかるか分かりませんが、備えあれば憂いなし、といいますし…」


 マリス・ジーグボルトはいつも通り父である、ライリー・ジーグボルトに報告に行くのだった。








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