第76話 天災、悪に染りて その弍

「ここら辺から私は泳ぎ始めたの。だからこの近くにあると思う」


 俺たちはマーティナに連れられて再び砂浜に来ていた。

 メンバーは使用人たちを覗いたSクラスのメンバーだ。

 まだ、アウレナと使用人たちの戦闘能力を正確に把握していないから、宿屋に置いてきたのだ。


 うーん、この日も遊ぶ予定だったが、マーティナのことを知ってしまったのだ。

 遊ぶわけには行かない。


 しかし、辺りには岩肌が露出した崖なんてないが…、本当にここら辺なのだろうか。

 マーティナは見た目的には小学生くらいの年齢だ。

 だから泳ぐにしても近い距離じゃないと説明がつかない。


 …日本人基準で考えてるけど、この世界の人は「魔法」という特別な力があるんだよな。

 もしマーティナが身体強化の魔法を使えていたなら、遠くまで泳ぐってのは考えられるな。


「マーティナはその当時は身体強化の魔法は使えたのか?」


「いやいや、余程の天才じゃなければこんな小さい歳では使えないだろ」


「え?」


「「「「「…え?」」」」」


 いや、なにこの空気。

 まるで俺がなんか異質みたいな感じの目線を感じる。


「まぁ、ノアは魔法に関しちゃ天才を超えるレベルの天賦の才を持ってるしな。使えて当たり前か」


「確かにー」


「うん、確かに」


「はいはい、そこまでだよ。マーティナちゃんの殺されちゃった場所を探さないと」


「うんじゃ、まぁ取り敢えずは手分けして探すか。それじゃあ、解散」


 俺たちはバラバラにそのマーティナが殺されてしまった場所を探し始めた。


 ―――


 ご主人様は大丈夫かな…。


 ノアたちが出ていって数時間後、不安と言った様子で落ち着かないチェリア。

 ノアが、殺人鬼の住処に行くということで、チェリアは不安を拭えていなかった。


「…チェリア、大丈夫ですよ。ノア様は強いじゃないですか」


「そう、だけど…。心配」


 チェリアはノアについて行こうとして必死に懇願したが、ノアはそれを良しとしなかった。

 それは、使用人たちを危険に晒すことに繋がるため、安全を考えた結果の選択なのだが、チェリアはそれに気づいていなかった。


 フルティエはそれには気づいていて「私たちは奴隷なんだからもっと雑に扱ってもいいんですけどね」と心の中で思っていたが、それを口にしなかった。


『ご主人様、大…丈夫?』


『ん?あぁ、チェリアか。大丈夫だぞー、チェリアは宿屋でちゃんといい子にしてるんだぞ?』


『わ、分かりました…!』


「…ふふ」


 フルティエはそのチェリアとノアの様子を見て心が暖かくなる。


 だが、その雰囲気は唐突の客人によって破壊される。


「…来るっ!」


 チェリアは近くに置いていた木剣を自分を守る盾のように構える。その数瞬後、チェリアの木剣には斬撃の後が刻まれていた。


「アルトル、アウレナ。チェリアを」


「わかった。守るくらいなら俺でも出来る」


「え、えぇ。私もよ」


 フルティエは謎の客人に構え直す。


 武器はない。

 だが、素手さえあれば撃退は出来ると信じる。


「…私がもっと強かったら…」


 チェリアはアルトルとアウレナに守られながらもそう呟いた。


 ―――


『ご主人様、襲撃されました。敵の容姿は紳士風の服を着た金髪の女です』


『まじか、大丈夫か?俺が行こうか?』


『大丈夫です、ノア様。私が片付けます』


 私は相手の攻撃を対処しながらも、魔力通信の首飾りエクスペル・ネックレスでのアルトルとノア様の会話に割り込みつつもそう伝える。


『そうか、なら任せた』


 その言葉を聞いた瞬間、心が痺れるようだった。

 私を信じてくれている、そう感じれた。


 なら、私もここでその信頼を失わないように善戦しなければならない。


 相手はナイフのような短い刀身の刃物を片手に持って、まるでダンスを踊っているかのように動き回り、変則的な攻撃線を描き詰めてくる。

 だが、私も素手での戦闘は出来る。刀身に触れないように、相手をよく観察してナイフを弾きつつ叩いていく。


「チッ」


「イライラしていちゃ、私は倒せないわよ?」


「ふっ、ほざけ」


 挑発は乗らない、と。

 だが、なかなか攻撃が当てられないとイライラが募っているのは舌打ちをしたことから目に見えて分かる。


 素手で息の根を止めたり、気絶をさせるのは難易度が高い。

 だから、早急に撃退させるのが理想的だが、相手もこっちを殺す気満々のようで、撃退に手こずる。


「仕方ない」


 その女はいきなり魔法を放つと、それはアルトルとアウレナの方へ向かって飛んでいく。


 チッ、防ぐ手立てがない。


 ――体で受けるしかない。


「ぐっ」


「そこまでして大事なのかしら」


「えぇ、とっても」


「あら、そうッ!」


 今度は疲弊した状態での女の変則攻撃の対処。

 万全の体調の時と同じく動けるはずもなく、フルティエは切り傷が体に刻まれていく。

 しかし、ノアに貰った服装には傷一つ付かず、肌の露出部分だけに斬撃が当たり、傷が増えていく。


 そして、女の突きが飛んでくる。

 それをフルティエは避けようと左に飛んだ。

 だが、それはフェイントであり、女の右足での蹴りがフルティエの脇腹に直撃する。


「これで終わりねッ!」


「ノア様、申し訳ありません」


 ――その瞬間、そこにいたはずのフルティエが姿を消す。


 トドメの一撃を食らわさんともう止まることを知らない振り下ろしたナイフが僅かにボヤける。


 ナイフは真っ二つに折れた…。


 そう認識した女はその瞬間に意識が暗闇の中に放り投げ捨てられる。


「メイド服のスカートの部分破ってしまいました…。どうしましょう…」


 フルティエは自分で破ったメイド服のスカートを手に取ってそう呟いた。


「ノア様から頂いたお召し物を切り刻むようでしたら倒れてもらうまでです」


 次の瞬間、勝負は決着が着いていた。







 ―――――――――

 実はフルティエさんはかなりの実力者でもあったりします。

 フルティエは魔物との戦いを想定した戦いをしていないので、明確には言えませんが、A階級冒険者に迫る程の力量を持っています。

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