第74話 その魔力、死か生か
「浜辺で、何やらボールを手で跳ねさせて遊ぶ子供がいました」
「ボールを手で跳ねさせて…」
暗い洞窟の中、炎系統魔法の微かな光だけが2人を照らす。
1人は執事風の格好をした女性で、暗い中でも輝くような金髪である。
もう1人は椅子に座った黒髪の男だ。
「バレー…ボール…?」
男はそんな訳が無い、とも思いつつも報告にあった現実に、自然に手を顎に当てて思考を深くしていく。
「転移者…だな。どう考えても」
「転移者…」
「セリア、そいつらを探れ」
「御意」
金髪の女は瞬間的にその場から消える。
男はワインをのみながら、再び思考の海に潜るのだった。
―――
「おらっ!」
「このっ、レオッ!」
俺たちはいま、砂浜近くの街の宿屋に泊まりに来ている。
そして、カルトとレオが凄い白熱した枕投げを始める中、俺たちはトランプをしてあそび始めた。
予約した宿屋が大人数専用の部屋があったので、そこで寝ることにしたのだ。
しかし、バレーボールは知られてないのにトランプは知られているのはなんだか違和感があるな。
誰かが、こっちの世界でトランプを作って売り出したのだろうか。
その作った人物は、物凄い売れて大金持ちになってるだろうな。
…俺も将棋とかチェスを売ろうかなぁ…。
いや、本当にお金に困ったらその戦法を取ろう。基本的には前世の知識は使わない方針でいく。
それはそうと、使用人たちは大丈夫だろうか?
使用人たちは別部屋で寝てもらうことにした。4人でわざわざ1部屋使わなくても、宿屋自体を貸し切ったのだから、別々にすれば?って聞いても拒否されたので、好きなようにさせたのだが、仲良くやってるだろうか。
俺はなかなか豪邸に帰る時は少ないから、使用人たちの仲の良さはあまり把握出来てはいない。
そこら辺はちゃんとしておかなきゃ行けないから、自分でも反省している。
「まぁ、フルティエにトランプを持たせたから大丈夫か」
その後、トランプ中のフェルの頭に枕が勢いよく飛んできて、フェルが2人を枕投げでボコボコにしてさらに白熱したのだった。
―――
私はノア様とご友人が寝て数時間後に、違和感を感じて起きた。
アルトルとチェリア、アウレナは寝ていて、この違和感に気づいていないようだが、私は気づいた。
――宿屋の前に何やらかなり気配が希薄の魔力が感知できたのだ。
魔力の感知は奴隷生活の日々で徐々に強くなってきている私でも、ギリギリ感知出来る程の希薄な魔力。
これは…、存在自体が弱々しい訳ではなく、恐らくは任意で薄くしている感じだろうか。
私はほぼ何でも出来る奴隷として育成されてきた。
その中にはもちろん「戦闘」も含まれている。
チェリアが持ってきていた訓練用の木剣を装備して、音を立てないように階段を降りていく。
魔力は未だに宿屋の前だ。
動く気配がない。
何をやってるんだ?何かを観察でもしているのか?
1階に降りて、窓から魔力を感知出来た場所に視線を送る。
だが、そこには何も居なく、ただ希薄な魔力が私の魔力の感知に反応している。
「…フルティエも気づいたか」
「…ひッ!うむぐぅ」
思わず驚いて声を出しそうになった私の口を手で思いっきり抑えるのは私と同じく警戒して降りてきたノア様だった。
―――
「…ひッ!うむぐぅ」
危ねぇ、フルティエがいきなりの大声出すから俺までびっくりしそうだったじゃねぇか。
俺は宿屋の外に感知できた魔力を警戒して、確認しようと1階に降りてきたら木剣を構えていたフルティエに遭遇したのだ。
「感知は出来るのに視認はできません」
ふむ、確かにその通りだな。
「うーん、まるで幽霊のようだな」
「ゆう、れい…?」
「あ、あぁ。幽霊を知らないか後で教えるよ。今はあの異常をどうにかしよう」
「…はい。分かりました。移動しますので腰に巻き付かせてる腕を離してください」
あぁ、無意識に俺の腕が腰を求めていたみたいだな。
…それはどうでもいいとして、取り敢えずあの魔力をどうにかするか。
「敵かもしれないから、俺がドアを開けた後すぐに魔力の右側に回り込んで、その木剣であの魔力を殴ってくれ。俺は反対方向に回り込んで挟み撃ちのような感じで叩く」
「了解しました」
俺は身体強化の魔法を行使して、最速でドアを開けて魔力の左に回り込む。
右側には既にフルティエが木剣を構えて振り下ろす最中だった。
俺は透明人間がいるのかと睨んでいたが、フルティエの木剣は空を切って、地面に当たる音が木霊した。
「何もいない…?」
こりゃぁ、本当に幽霊説が濃厚になってきたぞ。
「…助けて欲しい」
ん?なんだ今の声。まるで女の子のような…。
「フルティエか?」
「え?私は何も…」
空耳か?今確かに女の子の声が聞こえたような気がしたのだけれど…。
「…私はここだよ」
フルティエが木剣を振り抜いた場所で、希薄な魔力が感知できたその場所で、宙に浮いている女の子がいた。
「助けて欲しいの。お願い」
その女の子の顔は必死そのものだった。
―――――――――
因みにアウレナは一人部屋でぐっすり寝てました。
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