第71話 嘘は言っていない
「アウレナ、ここが今日から君が住む家だ」
俺は別に断る必要もないと思ったので、アウレナを引き取った。
隷属魔法で、奴隷にしようと思ったが、流石に俺の良心がそれを許さなかった。
「………」
アウレナはシドニスさんから預かった時から沈黙を貫いている。
やはり、何も結果が残せなかったことを気にしているのだろうか。
悪の組織での結果なんてクソの役にも立たないのだけれど。
「この家では好きにしてもらって構わない。けど、外に出る時は俺たちと一緒じゃなきゃダメだ。分かったか?」
「…はい」
うーん、相当落ち込んでいるな。
取り敢えず様子見だな。
―――
「アウレナ、貴方は罪を犯していなかったので解放します。ですが、貴方は薬毒牙の幹部だったので、何もしないとも限りません。なので、ノア殿の豪邸で預かってもらうことにしました」
私は、罪を犯していなかったという。
つまり、私は何にも功績を残していなかったのだ。
それは、仕事が出来ない奴を意味する。
これ程落ち込んだことは今まで無かったと思う。
ボスが捕まって落ち込んだとか、タケルが捕まって嬉しいだとかでは…。
いやタケルが捕まってくれたのはスッキリしたが…。
そうではなくて、なんだか自分が何も出来ない人間に思えてしょうがない。
私は、ノアという黒髪の青年に連れられて豪邸にやってきた。
このノアはこの歳にしてもう既に豪邸を持っているという所謂、出来る奴だ。
私はその豪邸を見てさらに落ち込んでしまった。
ノアにこの豪邸ではすきにしてもらって構わないと言っていたので、取り敢えず私は自分の部屋を決めて、その部屋で泣いた。
―――
「うっ、ひっぐ…、うぅ」
外にも聞こえるような声で泣いているアウレナ。
どうしようか…、俺には気の利いた言葉をかけることなんで出来ないし…。
いや、気の利いた言葉が言えなくても何か言って落ち着かせないとダメだろう。
「アウレナ入るぞ」
中に入ると、布団がビクッ!と蠢いた。布団にくるまっていたのか。
俺は近くにあった椅子に座って、言葉を紡いでいく。
「…俺は1度人生に絶望したことがあった。あの時は確か、俺の努力全てが無に帰した時だったな」
俺は、前世で10年近く遊んでいたゲームが何者かによって乗っ取られて遊べなくなってしまった時のことを語り始める。
「10年だ。子供は物事を覚えて魔法は上級まで使えるようになるし、犬は立派に人生を終えれる年月だ。長いようで短い、だが、その時間死ぬほど頑張った努力が一瞬で水の泡だ。あの時の俺は本当に絶望していた」
「…なんで立ち直れたの?」
蠢く布団から声が聞こえてくる。
立ち直れた原因は確か…。
「こう考えたんだ。その時間は死ぬほど頑張れたし、死ぬほど本気で取り組んだ、だから本当の意味では全てが無に帰した訳では無い。その「経験値」が俺の心の中に未だに残って、俺を支えてくれている。例え失敗しても、こっちは10年間死ぬほど努力したものが消えたんだぞ!だからこんなんじゃへこたれねぇし、へこたれさせねぇ!ってな。まぁ、つまり言いたいことは失敗しても、無価値になる訳じゃなく、心の中に自分の経験値になってるってことだ」
うん、俺でも何言ってるかちょっと訳分から無くなってきたが、ニアンスが伝わればそれでいい。
「そんな幼いノアが立ち直ってるのに…、私は…」
やばい、これ何言っても無限ループに陥るな。どうしよう。
「取り敢えず、布団から出て飯食おうぜ。飯食ったら大抵元気になる」
俺が布団をぶんどると、鼻水と涙で滅茶苦茶な顔になったアウレナがいた。
どんだけ泣いてるんだよ、この人は…。
―――
布団にくるまって泣いていたら、ノアが来た。
ノアは10年間続けてきた努力が一瞬にして水の泡になった話をしていた。
こんな幼い子供がそんだけ努力したことが水の泡になったとしても、こうやって前を向いて生きているのは素直にすごいと思った。
私もこんな泣いてるだけじゃ、ダメだと感じた。
私も失敗から経験値を得て、心を成長させないといけない。
「取り敢えず、布団から出て飯食おうぜ。飯食ったら大抵元気になる」
ノアがそう言って、私がくるまっていた布団を取り上げる。
あぁ、今私すごい酷い顔してるんだろうなぁ。
「そうね…、ご飯食べてから今後のことを考えるわ」
ノアに少し頑張る勇気を貰えた気がして、自分が変われるような気がして、嬉しかった。
―――
「ノア様、流石に女性をこんなに泣かせるのはどうかと思います」
「え!?いや、違うけど!?」
フルティエも言うようになったな。
ご主人様からノア様に呼び方も変えて、距離が少し近くなった気がして嬉しい。
「って、凄いなぁアルトル。すごい豪華じゃないか」
「ありがとうございます。ご主人様。今後もより精進していきます」
アルトルはなんだか固くなった気がするな。
料理の腕は確かだけど。
「…美味しそう!」
おぉ、チェリアは小さくて可愛いなぁ。
俺は思わずチェリアの頭を撫でる。
この頭を撫でる行為に対してはチェリアはなんも言ってこないので、気持ちいいのかもしれない。
「さて、じゃあ、新しい住人が増えたことを祝って、乾杯ぃ」
その食事でのアウレナの笑顔がとても印象的で輝いているようだった。
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