5章 海編

第70話 同郷の者

 俺たちは第2騎士団へ、フェルに襲いかかってきた3人も含めて差し出した。

 第2騎士団の目的は奴隷差別を無くすこと。

 それを根本的に解決出来たとして、俺たちにもの凄く感謝をしていた。


 そして、俺は今、王国の地下牢獄にて、薬毒牙のメンバーのひとりである「タケル」という人物の前の檻にやってきた。


「日本…人なのか?」


 俺は横になって寝ているタケルに話しかける。タケルは嫌な顔はせずに対応する。


「…あんた、もしかしてか」


 転移者…?俺は転移じゃなくて生まれ変わってこの世界の人間として生まれた転生者だが…。


「だが、日本人っぽくない見た目をしてるな。転移者では無いのか?」


「…俺は、1度死んだ」


 その言葉に、檻に入っているタケルの顔が驚愕の顔になる。

 俺だってそうだ、死んだらこの世界に来て驚いている。


「死んだ…、つまりは転生者って言うことか。しかし、転生者なんて聞いたことがない。俺が知ってるのは転移者だけだ。転移者っていうのは…」


「…なんで、そんな教えてくれる?俺たちのせいでお前らは潰れたんだろ」


「そんなこと関係ない、俺は同郷の者と喋れて嬉しいだけだ。俺はあの日、学校の帰りに突然この世界に転移した。この世界の人間が適当に選んで転移させたんだとよ。その人間を殺したかったが、力が無くて捨てられた。そんな経緯だからなんか嬉しかった。それだけだ」


 そうか…、つまりいきなりの転移で地球にいるであろう家族や友達を抗うことが出来ない理不尽によって、強制的に別れさせられたのか。

 悪いやつには思えないが、あのボスと呼ばれる男の元で幹部として働いてたのだ。

 罪は償ってもらうしかない。


「ま、その後にボスに拾われてそのまま育てられたから俺にとっちゃその人が命の恩人だった。だから従った、罪の意識はあるが、悪いとは思ってねぇ」


 必死に生き抜こうと、この男は頑張っていたんだな。

 この知り合いがひとりもいなかった何も知らない世界で。


「タケル、お前が何年ここに入ってるか分からないが、ちゃんと罪を償って出てこいよ。出てきた頃には俺があっちの世界へ転移出来る魔法を作ってやる」


「ふっ、そうかよ。なら期待してるぞ」


 その後、転移者について教えてもらった。


 転移者というのはタケルの体験談通り、この世界の人間が無作為に別世界の人間をこちらの世界に呼び出して、来た人間のことを転移者という。

 転移者は次元の空間を転移するため、途中で魂が再構築される。

 その再構築中に魂が、霧散して存在そのものが消えてしまうこともあるが、魂が霧散せずに生き残った魂は強く逞しいため、強いスキルや強い肉体を再構築時に得やすい。

 タケルは魂がギリギリ霧散せずに転移した様で、強靭な肉体もスキルも持たないから捨てられたのだという。


 だが、何故そんな見方によっては命の冒涜とも見える別世界からの人間の転移が行われるかと言うと、それは魔王が関係するという。

 魔王というのは、世界を滅ぼす強大な力を持っているため、それに対抗出来るように予め転移者を集めて教育させているのだとか。


 世界を守ることだとはいえ、滅茶苦茶なことをするもんだな、とそう思った。


「じゃあ、帰るよ。生きて罪を償えよ」


「わーってる。地球に転移の件もちゃんと考えておいてくれよ」


 地球に転移、か。

 時間がある時にでも調べを進めておくか。


 俺はタケルと別れ、地下牢獄を後にした。




「すまない、ノア殿。少し時間はあるか?話すことがあってな…」


 俺が城から出ようと廊下を歩いていると、第2騎士団団長のシドニスさんに話しかけられた。


 今回の件で、この人もだいぶ出世が出来るのではないだろうか。


 公には俺たちが薬毒牙を壊滅させたことにはなっておらず、第2騎士団の功績になっている。

 俺は別にその事にはどうとも思っていなく、目立ちすぎるのもあまり良くないと思った次第なので、第2騎士団に功績を渡したのだ。


「はい、大丈夫ですよ」


「では、こちらへ」


 案内されたのは、応接室だった。

 王城らしく豪華な飾りが沢山付けてある部屋だ。


「なんですか?話って」


「実は…、アウレナについてなのだが…」


 シドニスさんの顔がだんだん険しい顔になっていく。


 アウレナってあのポンコツの赤髪の女の人だよな。

 その人がどうしたんだろうか。


「罪は1個も無かったのだ」


「え…?あの人って幹部ですよね?」


 薬毒牙の幹部なら奴隷を違法に奴隷商人に買い取らせたり、裏で奴隷オークションの経営など、やっていそうだが…。


「アウレナという人物は、薬毒牙に入ってから数年で幹部に昇格、そこから数年間結果を残せずにいたそうです。魔力だけは高く、そのおかげで幹部にまでのぼりつめれたのでしょう」


 …本当にポンコツなんだなぁ…、あの人って。

 そんな人を幹部にするなんて、あのボスとか言うやつも実際は大したこと…、あったな。

 あれは俺でも見切れない神速の抜刀術だった。


「それで、その人はどうなるんですか?」


「それがですね…。罪がないなら解放しようと思ったのですが、薬毒牙の幹部だった人物なので、いくら罪がないとはいえ万が一があるかもしれません。なので、王国で魔法使いとして雇おうとも思ったのですが、何処かでアウレナの経歴が出回れば、王の信用は落ちてしまいます」


 え…この流れもしかして…。


「なので、ノア殿が預かってはくれないだろうか」


 まじですか…、シドニスさん。







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