第69話 アルトルの過去
「おい、お前ら!そこで何をやっているんだ!」
騎士の格好をした2人組が地上へと続くであろう階段から降りてくる。
騎士の格好だから、奴らの味方ではないか。
「こ、れは…」
「その手を離せッ!!」
騎士の1人が俺に向かって、突撃してくる。
その手には真剣が握られており、俺を殺すつもりのようだ。
「アルトル、ちょっと離れててくれ」
「え、はい…」
だからなんで敬語なんだよ…。
まぁいいや、取り敢えずこの騎士の人をどうにかしなくては。
俺は身体強化の魔法を行使して、騎士の人の後ろに回り込むと、中級雷魔法ライトニングショットを超近距離で放つ。
放ったライトニングショットは騎士に直撃して、騎士はその場で倒れる。
今日は疲れたんだよ…、早めに帰ってパーティがしたいんだ俺は。
「3連
「待ってください、あの人ってもしかして第2騎士団団長じゃないですか?」
アルトルが俺の手を制する。それによって魔法は撃たずして、場は張り詰めた空気になる。
「あの騎士がアルトルがこの前言っていた第2騎士団の団長なのか?」
「えぇ、恐らく…」
「そうです、私は第2騎士団団長のシドニスです。部下のルーフリーが失礼しました」
アルトルの予想は当たっていたようだ。
あの人が奴隷差別を無くそうとしている第2騎士団の団長か。
恐らくさっきの部下のルーフリーさんは、俺がアルトルを檻に入れる最中だと勘違いしたのだろう。
「こっちに、この組織のボスとアウレナと茶髪の男…、ってあいついねぇ!?」
いつの間に逃げたんだ?全く分からなかった。
あいつ、ボスの命令に逆らえないとか言ってたから、ボスが死んで自由になったんだろうな。
まぁ、あの茶髪の男のことはいいや。
「自首します…」
アウレナがそう言ってシドニス騎士団長の方へ向かっていく。
あの人は騙されていただけのような気もするけど、罪は罪だから仕方ない。
「そうですか。では、その倒れている男もこちらで連行します」
「いえ、死んでいます」
「…わかりました。こちらで回収します」
俺は第2騎士団団長のシドニスさんに全て託して、豪邸に帰るのだった。
なんだか、とてつもなく長い1日だったな。色々あったが、アルトルが帰ってきて本当に良かった。
だが、そのアルトルがかなり変わってしまった。
「ご主人様、いままで私が愚かなために不快な思いをさせてしまい、すみませんでした。これから敬語を使わせて頂きます」
と、このように畏まって敬語に戻ってしまったのだ。
まぁ、本人がやりたいようにやればいいけど…。
「ほら、そんなところで土下座してないで立って!お前が主のパーティなんだからさ」
「ありがとうございます。では失礼して…、乾杯!」
「「「乾杯」」」
チェリアは寝てしまったが、夜はまだまだ長い。
―――
奴隷に落ちたのは、友達を信じて金を貸したら逃げられて生活が出来なくなり、奴隷になったという在り来りな理由だ。
そこから、奴隷としての教育をいくらか叩き込まれて1番上達したのが料理で、俺は料理をメインとした教育をされた。
そして、初めて売り出され買われた最初の客はどうしようもないクズだった。
嫁や子供には手を出すし、勿論のこと奴隷には容赦なく殴る蹴るを繰り返していた。
俺もそのひとりで、毎日暴力を受けていた。
そして、その男は嫁に殺されて、俺は再び奴隷商人に買われてた。
その後、何回も奴隷として買われては売られ、買われては売られを繰り返して、遂に俺は人を信じれなくなった。
そして、価値も下がった俺は奴隷市場に売られることになった。
そこで出会ったのが、片腕が欠損した銀髪の少女だった。
その子はエルフの女の奴隷を既に買っていて、俺の目の前に来るなり即決した。
俺なんかを買うなんておかしな貴族の娘だと思った。
そして、その子の家に来ると、そこは豪邸だった。
だが、銀髪の少女と一緒にいた黒髪の青年の話を聞いていくとここはたまに来る程度で基本的には使用人しか使わない豪邸だという。
そして、使用人たちには給料が支払われて、個室まであるという。
俺は夢でも見ているかと思った。
そして、ご主人様の希望通りにタメ口で話すようになった。
だが、買われて数日後、俺は情けないことに何者かに攫われてしまった。
俺は傲慢にも助けてくれ!と魔道具越しにご主人様にそう言ってそれっきり魔道具からは返答はなく、遂に魔道具を取られてしまった。
俺は絶望した。
折角いいところに住めると思ったのに…と。
だが、攫われて数時間後。ご主人様は穴を開けて地下の天井から現れたのだ。
そして、茶髪の男と戦ってる姿を見て、俺は自分を殴りたくなった。
あんなに俺を心配してくれて、更には助けに来てくれた人にタメ口で話したり、折角いいところに住めると思ってしまった汚い心にいつの間にかなっていた自分に腹が立った。
……人を信じるということをもう一度最初からやってみよう。
そして俺は、このお方にずっとついて行きたいと、そう願った。
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