第67話 そのオーラ、邪悪を増して

「あらあら、害虫が迷い込んでるわね」


 ふふ、最初の一声は完璧ね。完全に私を警戒しているわ。

 確か、ここまで他人が入ってこられたのは私が組織に入ってから1回もなかったわね。

 しかし、まさか穴を開けて地下に進むとは思ってもいなかった。私は急いで地下への階段へと向かって走ってきたのだから、勘弁して欲しい。


「貴方が、魔人の襲来を退けた人物ね。随分可愛らしいお嬢様ね?」


 未だ本当にこの女の子が魔人を退けた人物なのか信じきれていないが、ここまで来れたのだからそうなのであろうと信じる。

 だが、魔人を退けたという偉業がまるで現実味がない。


「早速で悪いけど、死んでもらうわっ!」


 見なさい!私の魔法を!上級土魔法と上級水魔法の統合、二重詠唱!


隆起する斬撃ブレインド・クエイク


 地面がゴゴゴと動きだし、浮かび上がるのは特大の大剣。生み出された大剣は真っ二つに切り刻まんと全身を続ける。


「ほう?二重詠唱か。魔術師としてはやるようじゃ」


 な、何をそんなに余裕なの…?いくら魔人を退けた人物だとしてもこの魔法を食らっては一溜りもないはず…。そして、対処も出来ないはずなのだから!


 女の子は、小さく魔法を呟いた。

 その魔法は風魔法。


 だが、私が知っている風魔法の威力とはかけ離れた、まるで嵐を見ているかのような、そんな風魔法に唖然とする。

 その嵐は私の魔法を粉々に粉砕し、尚勢いを衰えることなく私の方へ向かってくる。上級魔法の統合、二重詠唱をあんな風魔法で…?


 その時、私は死の嵐を前にして気づく。あの王立魔剣学校の時に、何故4人が殺しに行ったのにも関わらず、あの女の子が生きていたのかを。

 なぜあの時に気が付かなかったのだろうか、あぁ、私の命はなんて呆気なかったのだろうか。

 こんなところで終わりを迎えてしまうなんて…。


 何倍にも加速されたような思考の中、目の前の嵐をただ見つめる。そして、目の前に迫った時に、私を巻き込…、まずに霧散した。


 助かった…の?


 あれ、涙が…。


「怖かった…」


 私は、体から力が抜けるように地面に座り込んでしまった。


 ―――


「怖かった…」


 ペタリと座り込んでしまった女の人。

 多分、この人こういう悪の組織的なのに向いていない気がする。


 だって泣いちゃってるし。


「あのー、大丈夫ですか?」


「あ、え…、はい…。ひぐっ」


 思わず声をかけてしまった。

 あんなかっこいい登場をしておいて、今は女の子座りで泣いている弱々しい女性だ。

 何故か、俺の方が悲しくなってきた。


「あー、ここに座って…ね?落ち着きましょう」


「あ、ありがとう…」


 …一瞬の沈黙が続く。


「え!?いや、私敵だけど!?」


 いや、今更!?


 …分かった。この人ポンコツだ。


「じゃ、もうこんな悪いことしちゃダメですよー」


「おい、何やってんだよ。アウレナ。なんで敵と仲良く談笑なんてしてんだ?」


「いや、これは違…」


 突然現れた茶髪の男が、一瞬ボヤける。

 その瞬間、アウレナと呼ばれた女の人に短剣が差し迫る。


「おい、用済みになったらすぐ殺しか?」


 危ねぇ、こいつ本当に仲間を殺そうとしたぞ。

 完全にイカれているな。


「はっ、なんとでも言え。俺はただボスの命令に従うだけだ」


「そうかよッ!」


 身体強化の魔法を行使して一瞬で加速し、思いっきり短剣を振り下ろす。


「はえぇなぁ!手加減はなしかよ!」


 はぁ、手加減なんてするわけないだろ。

 対応に遅れて脇腹ががら空きだぜ!


 脇腹に思いっきり蹴りをぶち込んで、後退する。

 ダメージは結構入ってそうだな。


「ってえな。流石だ。今度は俺からだ!」


 速い、が対応できない速さではない。

 そして、数度打ち合った後に再び距離をとる。


 そこで、俺は何か違和感を感じる。


 …こいつ、本気で勝負していない?


「もう1回行くぜ!」


 再び突っ込んできた茶髪の男は剣の打ち合い際に、突然小声で話しかけてきた。


「…済まない、あんたの奴隷を攫ったのは謝る。少しの間打ち合った後に俺を吹き飛ばしてくれ」


 何を意味のわからない事を…。俺を油断させようとする作戦か?


 俺が疑いに満ちた顔をしていたのが茶髪の男からでとわかったのか、続け様に言葉を重ねる。


「さっきのアウレナに放ったのは玩具の剣だ。本当に殺そうとはしていない。俺はただ生き残りたいだけだ。ボスに逆らえないから」


 チッ、よく分からないけど、吹き飛ばせばいいんだな!あとで文句言うなよ!


 俺は剣の連撃で対処に追われた茶髪の男のがら空きになった脇腹を再び蹴り、男は吹き飛ばされる。


「グハッ!」


 茶髪の男は吐血をして、気絶をする…、振りか?あれ、傍から見たら分からないな。


「ふふははは!強いのぉ?君らは。流石魔人を退けた人物だ!」


 またしても突然登場したのは全身真っ黒な服を着ている男だった。

 その男の周りを漂うのは今までのヤツとは違う、別のオーラを纏っていた。


「なるほど、珍しいの。お主は」


「分かるか、小娘。いや怪物、と言った方がしっくりくるか」


「ノアは下がっておれ、こいつはかなりやばいぞ」


「ふふははは!そう言ってくれると嬉しいねぇ!」


 ――男の纏う空気が一変する。

 何かで押しつぶされているような、空気の薄さを感じさせるような殺気で息が荒くなる。


「本当は私の組織に入って欲しくて、君を探していたのだが、向こうから来てくれるとは嬉しいよ!」


「はっ、我がこんなところに入るとでも?」


「思っていないよ…。悲しいことにね。だから、入りたいって言いたくなるまで君を半殺しにし続けるからね」


 男のオーラは更に邪悪さをまして行く。対するフェルは構え直して、邪悪を見据えるのだった。







 ―――――――――

 アウレナは最初青髪でしたが、青髪のポンコツってなった時にモロ被るキャラがいたので赤髪に変更しました。

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