第65話 その拳、嵐につき
「はぁーあ、ノアは何やっとるかの」
いつものようにダラダラと怠惰を貪るフェル。
ベットにお菓子を置いて、机をベットの横に近づけて飲み物を置くとそれだけで天国に早変わりするのだ。
だが、そんなフェルにも飽きはくる。
今日は学校は休みなために、朝からこの体勢でいるフェルも流石に外に出ようとして、立ち上がる。
ん?ノアが帰ってきたか。
ノアの魔力が全速力で走ってきて、隣の部屋に勢い良く入ったのが確認できた。
なんか焦ってるっぽいし、ちょっかい出すのはやめとこう。
今日はいい天気だ。
たまには剣の稽古をしてみるかの。
石を持って上空に投げ上げる。
重量に逆らう力を無くした岩はフェルの真上を着地点として落下し始める。
フェルは剣を構える。
只管剣に集中して、その時を待つ。
――ここじゃ。
フェルの頭上に迫った岩を避けて、その瞬間に岩に切りかかる。
岩は何等分にも細かく切り刻まれた後に石となって地面へ散らばる。
「ふーむ、つまらん。やっぱノアに話しかけに行くのじゃ!…いや待て、でもそれで嫌われたら…」
ガチンッ!
フェルは徐に飛来してきた短剣を剣で弾いてたたき落とす。
フェルはそんな殺されそうになった状況でもただ欠伸をして気だるそうにしている。
ガチンッ!ガチンッ!ガチンッ!
何回も別方向から飛来する短剣を弾きながら、寮に向かうフェル。
もう既に脳はノアに切り替わっており、飛来してくる短剣など1ミリも興味がないと言った様子だ。
「やるねぇ、流石魔人を退けた人物だな!こっからは1体1だ!他の2人は何故か隠れてるけど、情報収集は意味ないよ?だって俺が1番先に殺すんだからよ!」
黒髪の男の剣はフェルの頭に向かって剣を構えて飛び込んでくる。
剣の刀身がフェルに触れるまで3秒。
フェルは避ける動作すらしない。
剣の刀身がフェルに触れるまで2秒。
まだフェルは寮へ歩きを進めるだけ。
剣の刀身がフェルに触れるまで1秒。
フェルは黒髪の男が蹴りの射程圏内に入ったと同時に唐突に動き出して、目にも止まらぬ早さで黒髪の男の顔を歪める。
「アガッ!?」
蹴りに対応出来なかった黒髪の男は10メートル以上吹っ飛ばされて動かなくなる。
「まぁ、自分の空間にハエが紛れ込んできたら駆除するのが当たり前じゃよな。鬱陶しいし…」
フェルは茂みの方に視線を向ける。
そして、剣を構えて、思いっきり踏み込み加速する。
「なッ!」
茂みに振り下ろした剣は真紅に染る。鮮血が茂みを赤く染めあげていき、断末魔が辺りに木霊する。
子供のようにじたばたと呻きまわるのは金髪の男だった。その金髪の男は左腕が無くなっている。
「ふぐぁっ!あぁぁあ!いたいよぉ!たすけてぇ!」
「腕を切断されたくらいで泣くとは情けないの。次は足を行くかー?」
金髪の男はその言葉を聞いた途端、青ざめる。
金髪の男は初めての死の恐怖で、感情がめちゃくちゃになっていた。
「そのぐらいにしてあげてよ?お嬢ちゃんっ」
「…ッ!」
斜め後ろ方向から飛んできた拳に対応出来ずに、顔面にモロにパンチを受けるフェル。
だが、その美しい顔には傷は1つもついてはいない。
「やるの、お主。魔力が完全に消えていた。スキルか?それとも技術か?」
「うっふ、どっちかしら?」
ふむ、分からないが大したことは無い。
確かにやるほうだが、羽虫が鳥になったところで意味は無い。
さっきの不意打ちも痛くも痒くもない。
「貴方、なんて名前なの?気になるわ」
「我はフェルじゃ」
「フェル…、いい名前ねぇ?私はアンドリュー
よ」
――瞬間、女装した男の辺り一体を占める空間が一変する。
「いい勝負をしましょう」
「ほう?ノアと同等くらいの強さか」
「ノアって子が分からないけど、褒めてくれてるようで嬉しいわ」
その言葉と同時に、アンドリューの拳が弾丸のようにフェルに接近する。
それをフェルは剣を投げ捨て同じように拳をぶつける。
力が拮抗して、勝負がつかないと判断したアンドリューは拳を思いっきり引いて、勢い良く振り抜かれたフェルの腕を掴み、背負い投げの要領で地面に叩きつけようとする。
だが、フェルは空中で体を思いっきり捻り、逆にアンドリューを地面へと叩きつける。
次の追撃を避けようと、アンドリューは即座に起き上がって後方に飛んで距離を置く。
「あの状況から私が叩きつけられるとは思わなかったわ」
「そういう油断がそうさせたのじゃ」
「そうね、なら私も本気出しちゃう」
ほう?今まで身体強化の魔法を使っていなかったのか。
ここまでやる人間はそうそう出会えないな。
「これで終わりねッ!私の方が早いから!」
先程よりも数倍早い速度の拳が空気を引き裂いて向かってくる。
これは…、食らったらかすり傷が付きそうじゃな。
この顔が傷つくのは堪らん。
「これを避けるのッ!?」
アンドリューが空中に未だ浮いている状況。
フェルは拳に力を込める。
「お主が本気を出してくれたのじゃ、我も少々本気を出すかの」
拳に嵐を纏わせる。
その嵐は小さいながらも、威力は上級魔法を凌ぐ力が渦巻いている。
「
嵐を纏った拳はアンドリューの腹部に直撃する。
それでも尚、嵐は衰えずに渦巻く。
嵐を統べる獣の拳が、アンドリューを空高くに打ち上げた。
「ここら辺かなぁ」
フェルがそう言って移動した先の上空からはアンドリューが落下してきてる最中だった。
「ほい、キャッチじゃ!」
小さな女の子の腕に抱えられた筋骨隆々の女装した男は、意識を失って酷い顔になっていた。
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