第64話 記憶

「と言っても、そんな人物をどうやって探すか…だな。王国は広い」


 …まずは、目撃証言を頼りに探してみるか。

 魔人の襲来を退けた人物だ。

 その戦いを見ていた人間がいるかもしれねぇ。


 …とゆうかこれアルガが有利過ぎないか?

 あいつは確かスキルで殺した人間の情報を抜き取れるんだろ?くそー、俺のスキルがもっといいのだったらなぁ。


 俺は取り敢えずギルドに向かうことにした。

 あの日、魔人の襲来で派遣された冒険者が少なくともいるはずだ。

 ギルド…、あまり行くのはまずいが、魔人の襲来を退けた人物を探すためだ。仕方ない。


 俺はギルドの扉を開けて、中に入っていく。

 中は冒険者で賑わっていて、むちゃくちゃうるさい。

 適当に席が空いているところに座り、辺りを見渡して御目当てを探す。


『あー、何時になったらB階級に…』


 違うなぁ。


『はぁ、振られた…最悪だ…』


 あいつも違うな。


「それにしてもあの魔人を退けた…」


 あいつだ!


「なぁ、兄ちゃん。俺に面白い話してくれよ」


 俺はその話をしている人間の相席に座る。

 1人で飲んでいたから、適当にその人間へと奢り、俺の分も頼む。


「おぉ!奢ってくれるのか!サンキューな!ならそれに応えんといかんな!飛びっきり面白い話があるぜ?あれはな俺たちが魔人に苦戦していた時だ…」


 その人間に聞いた話によると、魔人に苦戦をしていた時に空中を走ってくる銀髪の少女が突然、魔人に殴りかかって一撃で倒した。という話だった。

 あまりに荒唐無稽でおかしな話だが、恐らくボスが求めていた人間はそいつだ。


「へぇ!かっこいいなぁ。俺もそいつに会いてぇ」


「そうか。なんだかその少女は王立魔剣学校の生徒らしいぜ?俺はよく見えなかったが、仲間がその少女の服装が見えたらしく、それが制服だったって」


 少女、と聞いてエルフのような年齢を重ねても老いが遅い種族かと思ったが、本当に少女なのか怪しいな。

 しかし、あの学校は確か15〜20歳しか通えなかったはずだ。

 それが別種族であっても例外ではない。


 うーん、分かんねぇ。


「ありがとう、兄ちゃん!いい話を聞いたよ」


「おう、じゃあなぁ」


 学校に行ってそいつに会ってみるか。


 ―――


「あーぁ、タケルちゃんを見失っちゃったわ…」


 タケルちゃんを追って、地下から戻ってきたけど、いなくなっちゃったわね。

 タケルちゃんについて行って横取りしようと思ったけど、仕方ないわ。

 1人で探すしかないようね。


隷属奪憶れいぞくだつおく


 突如として右手から放たれた赤黒いチェーンは、ふらふらと歩いていた酔っ払いに巻きついた。

 そのチェーンを手繰り寄せて、裏路地へと持っていく。


「……ふふふ」


 うふ、この子がいい情報を持っているじゃない。

 ふむふむ、銀髪の少女の姿をした人間。

 今は王立魔剣学校に通っている、ねぇ。


「じゃあ、まずは王国魔剣学校に行くしかないわね!」


 強靭な足で地面を切り上げて、巨躯を宙に浮かせて、王立魔剣学校に向かう女装した大男。

 顔は笑顔で歪んでいた。


 ―――


「………」


 ボスの命令だ。

 俺が1番に殺して、俺が1番ボスに褒められるんだ。他の誰にも邪魔はさせない。


「…噂沓奪憶そんとうだつおく


 なるほど…、少女の姿をした人間、か。


 いひっ!今すぐ殺してやるからね!


 子供のような無邪気な笑顔を見せた男は溢れ出んばかりの殺気を抑えるすべを知らず、ただ目の前の殺しの事で頭がいっぱいだった。

 まるで、新しい玩具を見つけた子供のように。


 ―――


「どうしましょうか…。私にはまだスキルは与えられてないのに…」


 私の想定していたことの最悪なパターンが起こった。

 それは、まさにこのように競争になることだ。

 私はみんなのようにスキルは功績をまだ残してないから貰えていませんし、実力もみんなのように高くない…。

 タケルは毎回おちょくってくるから私もムキになって…、勝てないのに喧嘩を買っちゃう。


「はぁ、でも探さない訳には行かないわよね」


 取り敢えずは魔人を退けた人物を知っていそうな人に片っ端から話しかけていくしかないわね。


 ―――


「チッ、もう今日は仕事をしたから働きたくないんだがな…」


 アルガはただ意味もなく裏路地を歩いていた。

 何故か、それは魔人を退ける人物に人間が勝てるはずがないと判断して、探すふりをしていたのだ。


 タケルやあのオカマ野郎は確かに俺より強いが、あの魔人だぞ?

 それを3ケタ単位で退かせた人物だ。

 俺たちが協力したところで勝てやしないだろうな。


 しかし、ボスの発言が怪しい。


 その人物を組織に入れたいと言った割には、その人物を組織の人間の手で殺そうとしている。

 あの時は気づかなかったが話が明らかに矛盾している。

 だが…、俺がそれに気づいたところで何をするって訳でもないし、ボスが何を考えてるかも分からないから、どうすることも出来ない。


 警戒はしておこう。

 俺はピエロになってボスの命令に従うだけでいい。

 そして、死の匂いがしたらトンズラをコケばいい。


 俺が人生で最も大事にしていることはただ1つ。

 自分が死なないように立ち回る、ただこれだけだ。








 ―――――――――

 タケルは黒髪好青年、アルガは茶髪で顔がイケメン、女装男は筋骨隆々、金髪の男は精神年齢が幼い、青髪ロングのお姉さんはくそ雑魚、ボスは真っ黒に身を包んでいる。


 それぞれの容姿と性格です。



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