第62話 油断の算段

「じゃあ、アルトル行くぞー」


「おう!今行くぜ!」


 俺はアルトルを引連れて街に繰り出していた。

 目的は冷蔵庫を買うためだ。


 あの豪邸にもまぁまぁ大きい冷蔵庫が備え付けられていたが、アルトルがやる気にもなってるし、現在で1番性能がいい冷蔵庫を買うことになったのだ。


「しかし思っていたよりも似合うな、その服」


「ありがとうございます。ご主人様」


 うーん、俺が切り替えてってお願いしたがいきなりあのテンションからこの敬語に変わると違和感が半端ない。

 奴隷だからと言って絶対に対等にしちゃいけないなんてルールは無いだろうが、周りが見たら俺が舐められてると思われて、あらぬトラブルを起こしかねない。

 だから、こればっかりは仕方ないかもしれないな。


「おぉー、ここが最新の家具が売ってる王国内で最も高級な店か…」


 外見は豪華に飾ったお店で、貴族が来るような店で、実際に店内には貴族と思わしき人が数人家具を前に悩んでいるところが見える。


「…これはこれは、奴隷を連れたお子様が来るような店ではありませんよ?」


 貴族の対応をしていた店員の雰囲気が露骨に変わったな。

 俺が子供だからって冷やかしに来たと思ってるのか?


 まぁ、いいや。

 俺は店内に入ると直ぐに冷蔵庫があるところまで歩いていく。

 もう買う冷蔵庫は決まってるので、悩むことなく即決する。


「金貨50枚か、まぁお前のためなら別にいいか」


「はっ、ありがとうございます」


「え、あ、お買いに…?」


「あぁ、頼む」


 店員は慌てた様子で俺が無造作に手渡した金貨50枚が入ってる麻袋を手に取る。


「で、では、店員を呼びお家の方へ運ばせて頂きます」


「いや、いい」


 俺は空間収納に冷蔵庫をしまい込んで、用は終わったと店を出る。


「え、あの…、お名前だけでも…」


「ノア、だ。顔は覚えたからな」


 店員はその言葉を理解したのか青ざめた様子で突っ立ている。

 俺を、金貨50枚を悩むことなく即決して買い、空間収納を使えることから魔法の才もある貴族の息子、だと思い込んだだろうな、あの店員は。

 そして、そういう風に勘違いしている店員は、貴族の息子を舐めた態度で接客してしまったと後悔してるだろうな。


 俺を子供だと舐めてかかったのだ。

 少しくらい仕返ししても許されるだろ。


「流石でございます、ご主人様」


「いいよ、そういうのは。帰ろう」


 俺たちは豪邸に帰るために歩き始める。

 しかし、アルトルの歩き方はまるで執事のように華麗で綺麗な体勢で歩いている。

 奴隷になったらそういうことも教育されるのだろうか。


 そして、帰りの道中に繁華街に来た時に俺は違和感を感じた。


「ご主人様」


「あぁ、分かってる」


 アルトルも気づいたようだ。

 これは誰かが俺たちに向けている殺気だな。

 気配は完璧に隠れているが、俺たちを殺したくて堪らないと言った感じのように殺気が溢れている。


「裏路地に行く。豪邸まで付けられたら堪らん」


 俺はそう呟くと、肉串を1本買って裏路地に座って食べる子供を装って裏路地に向かう。

 殺気が近づいてるな。もう少し引き付けるか。


「これ美味いなぁ、アルトルも買えば良かったのに」


「いえ、私は雇ってもらってる身です。大丈夫ですよ」


 この肉は何肉なんだろうなぁ。

 柔らかくて美味いな。

 そういえば、こっちの世界に来て焼き鳥食べてないなぁ。

 こっちにもそういうのはあるのかな?


 俺は警戒しつつも、肉串を食べ進める。

 そして、最後の肉に噛み付いた時。

 殺気が瞬間的にこっちに迫ってきてるのがわかった。


 あれ、やってみようか。


 迫る殺気に対して、肉串の串を構える。

 そして、相手の剣に接触する一瞬だけ魔法剣を串に纏わせるように発動して、解除する。

 不意打ちに失敗した殺気は後方に跳躍して距離をとる。


 お、驚いてるな。

 そりゃタネが分からないと驚くよな。

 だって、相手からすればただの串で自慢の不意打ちの一撃を弾かれたんだもの。


「ただの子供じゃない、か」


「いや?串でお前のご自慢の不意打ちを防ぐことが出来るだけのただの子供だよ」


「ほざけ、俺が本気を出したら死ぬぞ?」


「ほう?やるのか」


 男の魔力はカルトやエマの下ぐらいで、剣の腕は分からないが、俺が不意打ちを防いだ瞬間に次の攻撃を警戒したところを見るに、俺と同等かそれ以上か…だな。


「いくぞ」


 男が全速力で突進して、剣を振り下ろす。だが、難なく防いで追撃の剣を振るう。

 ふー、防ぐか。今のは結構いい感じだと思ったんだけど。


「今度はこっちから行くぞ!」


「いや、今日はやめとくよ。じゃあな、ただの子供野郎」


 はっ?あんなにやる気だったのに…?


 だが、数瞬後に何故逃げたのか分かる。



「…くそ!やられた!」


 後ろを振り向くとアルトルの姿は既にそこには無かった。

 しまった、あの男に気を取られすぎてた。


『勘づかれないように聞け、今どこに向かってる?』


『分からねぇ!けど、裏路地を出て右の方面に出た。しかし、俺を一瞬で拘束するなんて只者じゃねぇ。…すまないが助けてくれ、ご主人様!』


 …攫われたか。


 待ってろアルトル。

 絶対に取り返す。








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