第61話 電話と念話

「あ?お前らどうしたんだよ。その傷」


 薄暗い空を明るくするように出てきた太陽が街を照らす朝、裏路地にて4組の男が話し合っていた。

 1人は不機嫌そうな顔で、ボロボロになった3人を見据える。


「…すんません、奴隷にやられました」


 不機嫌そうな男は、更に険しい顔になり、眉間にシワが寄っていく。その男からは殺気が迸り、ボロボロの3人は背中をゾワリと震わせる。


「ほう、やるじゃねぇかその奴隷は。相当鍛え上げられていたんだろうな。なぁ?」


「すんません!!必ずあの奴隷を殺してきますから!!」


 男はその言葉を聞くと穏やかな顔になった。

 穏やかな顔のまま、腰からナイフを取り出して、必死に謝る男の首を一閃する。

 鮮血が飛び散り、男は再び不愉快そうな顔に戻る。


「俺の心がスッキリする瞬間って分かるか?」


 得体の知れない何かを察して、必死に答えを探る残された2人。

 手に付着した数秒前まで生きていた肉塊の鮮血が温度を失いやがて冷たくなっていくのを感じて、恐怖に陥る。


「わ、わかり…ません…」


「そうかぁ、そうだよなぁ。人の心は分かんねぇよな。当然だ」


 再び愉快に顔が歪む男。

 未だに先程の男を殺したナイフを手に持っており、いつ動きだしてもおかしくない状況に、遂に男2人は失禁する。


「教えてやるよ」


 ナイフを一閃。

 刹那に首筋を通り抜けたナイフはその刀身を紅に染め上げる。

 まるで花火のように鮮血が辺りに飛び散る。


「人を殺す時だな」


 男は殺した3人の頭に手を当てる。

 すると、男は愉快そうな顔になり笑う。


「いいなぁ、殺しがいがありそうだ」


 次第に大きくなる笑い声が朝の日差しが差し込む街に木霊する。


 ―――


「フルティエー、やるなー!もしかして掃除の才能があるんじゃないか?」


 耳がピクピク動き出すフルティエ。

 エルフの特徴でもある長い耳だから余計にその仕草が分かりやすくなる。

 フルティエを褒めると露骨にあの耳がピクピク動き出すのだ。

 これを見ると褒めたくなってしまう。


 なんか可愛いから。


「まぁ、このエルフは金貨100枚近くはしたからの。なんでも出来るように教育されたのじゃろうな」


 なるほど、金貨100枚なら納…。


「金貨100枚!?!?」


「あぁ、あの市場で恐らく1番高かったのじゃ」


 俺の貯金の3分の1くらいこのフルティエに持ってかれたのか…。


 なら、この要求も通って当然だろう。


「はい、メイド服」


「あ、え?メイド…服…」


 このエルフ、実は感情が豊かなんじゃないんだろうか。

 そう思うほどに動揺するリアクションを見せるフルティエ。


「あ、アルトルにはこの2着な。厨房に立つ時の服と、外出時に着る執事の服」


「お、いいじゃねぇか。ありがとうご主人様」


 ガタイが良くて身長も高いアルトルが執事の服を着ると少し違和感があるが、それはそれでかっこよくて頼りになる感じが出ているな。


「そして、チェリア。お前にも2着あって、訓練用の軽装とメイド服だ」


「…かわいい」


 メイド服がお気に召したようだ。

 軽装の方はあまり見ていないから気に入らなかったかもしれないな。

 俺の獣人の女の子の服を選ぶセンスは一生かけても得られないだろう。


「あと、お前らの就職おめでとう記念で、この魔力通信の首飾りエクスペル・ネックレスをやる。これは魔力を込めて発動するネックレス型の魔道具で、魔力を込めて送りたい相手に心の中で思ったことを伝えれる便利な魔道具だ。だけど、まだ試作品だからいくら魔力を強く注いでもギリギリこの王国内の端から端くらいの距離までしかメッセージは届かない。まだまだ改良が必要だ」


 俺は最近魔道具の開発にも手を出し始めた。

 その動機は、ワイド・ウォーローさんに貰ったあの複製された魔力を測る魔道具を手に入れた時に、もっと他のを見てみたいし作ってみたいと思ったからだ。

 仕組みは簡単で、魔力に乗った意志をこの魔道具が汲み取り、この魔道具を持っている人限定でメッセージを送れる。


「これは…、戦争の形態を変えてしまうようなとんでもない発明です。狂ってますね」


「あぁ、まったくだ。魔力を込めたら即座に自分の意思を他人に送れるんだ。やはり狂ってる」


「かわいい!」


 おぉ、素直に喜んでくれるチェリア可愛い。

 頭を撫でると耳が垂れ下がる。

 とゆうかチェリアはなんの動物なんだろうな。

 犬っぽいし猫っぽい見た目をしてるからわかんないな。


「とゆうわけで、取り敢えずはそのネックレスはずっと外さないでおいてくれ。あと、なんでもいいから困ったら俺を呼んでくれ。助けてやる」


 そう宣言して、フェルにも同じネックレスをあげる。

 フェルとは念話があるから要らないと思うけど、いちよう持っておいて欲しい。

 使用人たちが危機に陥ったら俺よりもフェルの方が安心感があるしな。


「よーし、じゃあ!アルトル!料理出してくれー!」


「我もー!」


「おう!任せとけぇ!世界一美味いもん作ってやるぞー!」


 人一倍気合が入ったアルトルが、早速服に着替えて料理の準備をし始めた。いいね、この寂しかった豪邸もなんだか賑やかになってきた。











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