第60話 奴隷差別
俺は豪邸で働くことになった使用人たちに諸々説明して、王立魔剣学校に戻って寝て、学校の講義が始まる前の朝早くに豪邸に再び訪れた。
「よっ、アルトル。もっと寝てても良かったんだぞ?」
「ご主人様じゃねえか!いやいや、雇ってもらってんのにそんなこと出来るわけねぇよ」
「そうか。悪いけどフルティエとチェリアを呼んできてくれ」
そう言うと、アルトルは走って2人を呼びに行った。
3人には昨日の伝えたことを忘れていないか再度伝える為だ。
「呼んできたぞー」
「おはようございます」
「おは…よう、ございます」
フルティエはいつも通りに無表情で、チェリアは少し眠そうだ。無理して起こしてしまったか。
「おう。では再度仕事内容を確認するぞー。あと昨日言い忘れていたこともだ。まずはフルティエ」
「はい、掃除は週に2回程度。食堂や寝室は毎日清掃、時間が余れば庭の手入れ。ですね」
「お、ちゃんと覚えているな。偉いぞー」
うん?フルティエの耳がピクピク動いているな。
もしかして喜んでるのか?いや、無表情だから感情が分からん。
「次にアルトル」
「ご主人様とご主人様の連れへの料理の提供。使用人たちへの料理の提供。食材の買い出しだな。覚えてるぞ」
「おう、その通りだ。取り敢えずお前には金と収納袋を渡しとく。これで、買ってきてくれ」
「おいおい、奴隷に金を渡す奴なんていないだろう…」
「それだけお前を信用してるってことだよ」
まぁ、実際アルトルが逃げたとしても隷属魔法でいい結末にはならないだろうし、それぐらいの金と収納袋はいくらでもあるから、大丈夫だろう。
「じゃあ次は、チェリア」
「ぇっと…、掃除と訓練…?」
「おう、そうだ!張りきれよー」
よし、ちゃんと全員覚えていたな。
それと、あと問題なのが使用人たちの服だ。
そのうち給料も入って自分の好きな服を着ればいいと思うが、流石に身内とはいえ仕事は仕事だ。
仕事中は仕事用の制服を着てもらうことにしよう。
「すまないが、今日1日はその格好で過ごしてくれ。今日俺が学校終わりに適当に買ってくる。気に入らなければ、入った給料で好きなものを買ってきてくれ」
俺は諸々伝えると、学校に戻るのだった。
―――
「狂っていますね…」
「あぁ、狂ってる」
「…?」
1番最年少のチェリアだけがこの異常な待遇に気づいていないようだ。
この年齢なら、買われるのは初めてなのかもしれないな。
チェリアはかなり幸せ者だな…、あの辛い地獄を見ないで済むのだから。
「…さてと、仕事を始めるか。俺は食材の買い出しに早速行ってくるぜ。お前らは何が食べたいとかあるか?」
「いえ、特には」
「私も食べれれば…」
そうか、なら適当に買ってくるか。
しかし、この2人はなんだか元気がないな。
あんなにいいご主人様に買われたのだから、相当な幸運のはずなのに。
「なら、行ってくるわ。互いに頑張ろうぜー」
「外では敬語を忘れないこと、絶対にです。あのご主人様の信頼を裏切らないことは徹底してください」
ふん、フルティエもちゃんとこの幸せがわかってたようだな。
フルティエの言う通り、ご主人様の信頼を裏切らないように気をつけて生活していかないとな。
俺は豪邸を出て、街に繰り出した。
まだ早朝とはいえ、やっている店は多少はある。
人が多い昼間とかに行くと厄介事に巻き込まれる可能性が高い。
ただでさえ俺は金と収納袋を持っているのだ。
これを見られたら奪われるに違いない。
「チッ、奴隷かい…」
店につくといきなり店主にそう小声で言われる。
まぁ、こういうことはかなり慣れているから、なんとも思わない。
さっさと買って朝飯を作ってやらねぇとな。
俺は必要最低限の食材を手に取っていく。
取り敢えず今日分の食材を買っていくことにしよう。
「全部で2金貨だ。払ってくれ」
「…は?」
俺が買ったのは野菜と肉と魚だけだぞ?なんで金貨2枚もするんだよ。
金貨2枚って言えば、王国の高級宿屋に数回泊まれるぞ。
「…ちゃんとした値段で売ってください」
俺はイラつく心を押さえつけて、丁寧な言葉使いで抗議する。
落ち着け、こんなことで怒っていたらダメだ。
「はぁ?買わないなら帰ってくれ。汚らしい」
おいおい、まじで買わせないつもりかよ。
まぁ、たしかに今は奴隷として売られていた時のボロボロの服を着ているが、そこまで言う必要はないだろ。
「おい、この王国で奴隷差別とはいい度胸だな」
「なっ、第2騎士団…!」
後ろから声がすると思って振り返ると、鎧に身を包んだ兵士の人が立っていた。
その声はよく透き通る声で、表の通りにも響き渡る。
「わ、わかったよ。銀貨2枚だ」
何割増しにしてんだよ、この店主。
相当な奴隷嫌いだな。
俺は食材を収納袋に詰め込むと、鎧の兵士のところへと駆け寄る。
「ありがとうございました。助かりました」
「そうか、なら良かった。お前のような奴隷をを狙う奴は大体朝に犯行を行う。監視の目を光らせてる兵士が少ないからだ。だから、朝は奴隷には危険だ。気をつけろよ」
そうか、寧ろ朝の方が俺にとっては危険なんだな。
今聞けてよかったな。
これからはお昼前に買い出しに出かけよう。
鎧の兵士と別れを告げて、豪邸に向かって歩き出す。
しかし、ご主人様はあのデカイ豪邸に住んでおらず、学校の寮で生活をしているようだ。
なんでこんな豪邸を貰ったのに寮で暮らすのか分からないが、奴隷に給料を払うような人だ。
きっと何かしら考えがあるのだろうな。
「おい、奴隷止まれよ」
チッ、俺の思考を邪魔しやがって…誰だよ。
声のした後ろ方向を向くと3人組のいかにもチンピラのような顔と風体をした男が立っていた。
「死にたくなかったらその収納袋をよこせ」
あー、奴隷狩りって奴か。
確か数年前までにあった奴隷の持っている物を窃盗するという行為のことを奴隷狩りと言ってたっけな。
そんな時代遅れなことをしてくるところや、態々声をかけて多対一で脅すように声をかける様子を見るに、こいつらは弱い…な。
俺は興味を無くして、振り返って豪邸に向けて再び歩みを進めた。
「チッ、おらっ!」
気配が丸分かりだ。
俺はその拳を避けて、掴んだ後に背負い投げで地面に叩きつける。
朝の通りにバシィンッ!という気持ちいい音が木霊する。
「てめぇ!」
芸がないのか、こいつらは再び同じように拳を振るう。
さっきのやつと同じように再び地面に叩きつける。
俺はその後、もう1人も地面に叩きつけてそいつらは動けなくなった。
「奴隷だからって舐めんな」
俺は豪邸に向けて歩き出す。
だが、このことが後に大変なことになろうとは今の俺は思っていなかった。
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