第58話 その主人、想定外

 俺とフェルは買ってきた奴隷たちを引き連れて、豪邸に戻ってきていた。俺が連れてきたのは獣人の女の子で、フェルが連れてきたのはエルフの女の人と、人間の男の人だ。


「さて、早速で悪いがお前たちの名前を教えてくれ。じゃあ、エルフのお前から」


「名前はありません」


 冷たい目線と声で、応答するエルフの女の人。

 まじかぁ、名前ないのかぁ。


「じゃあ、俺が名前をつけてもいいか?」


「構いません」


 エルフ、ね。エルフは長い耳とスレンダーな身体で特徴的な容姿をしている。

 その姿は正しく美しいという言葉が当てはまるほどに綺麗である。

 その上、このエルフの女の人は、輝くような金髪と整った顔立ちで、まじで奴隷には見えない。


 だったら、名前は…。


「フルティエだ」


「フルティエ…、分かりました」


 気に入ってくれたかどうかは分からないが、フェルの時よりかはいい名前になったと思う。


「…ッ!殺気!」


 フェルが鬼の形相で睨んでた。

 俺の思考はお見通しって訳ですか。


 とゆうか、いくら可愛い容姿をしていてもそんな顔で睨まれたら流石に怖いからやめて欲しい。


「じゃあ、お前。名前は?」


「アルトルだ…です」


「そうか、アルトルか。もし喋りにくいようであれば、砕けた喋り方をしてもらっても構わないぞ?だが、公私混同して切り替えれないようなら、やめておいて欲しいがな」


「そうか!ならこっちで行かせてもらうぜ、ご主人様」


 おぉ、こういう感じだよ。こういう感じ。

 変に丁寧な言葉を喋られるよりもこの方が気軽に接しれていい。


 だが、人前で切り替えれるか心配だがな…。


「そして、君だ。名前は?」


 弱々しく放っていた殺気は今はもうなくなり、ずっと俯いている獣人の女の子。


「チェリア…です」


「ふむ、チェリアか。いい名前だ」


 よし、全員の名前が聞けたな。

 次は仕事の説明だ。


「さて、次は仕事の説明をしていくぞ。まずはフルティエ。お前は基本的には掃除をしてもらう。数日に1回、まぁ1週間に2回程度やってくれればそれでいい。あと…、よく使うであろう食堂や寝室は毎日やって欲しい。それと庭の手入れも隙を見てちょくちょくやっいって欲しい」


 この豪邸、無駄にデカイ庭も付いているのだ。

 まぁ、こっちは何年もかけてやっていくつもりで手入れしていって欲しいな。


「次は、アルトルだな。アルトルは料理が出来るってことだったから料理の提供をして欲しい。今のところこの豪邸に住む予定は無いが、俺とフェルとあと1人が定期的にこの豪邸に来るつもりだから、その時に料理の提供。そして、使用人たちの食事も準備してやって欲しい」


「ご主人様、食材の買い出しも俺がやった方がいいか?」


「あ!あぁ、そうだな。それもお願いしよう」


 ひとりじゃかなり負担になるかもしれないが、取り敢えず少しの間はこれで様子見をしよう。

 人手が足りないようであれば、料理が出来る奴隷を連れてきたりすればいいしな。


「じゃあ、次はチェリアだな。チェリアはフルティエの掃除の手伝いをして欲しい。例えば掃除を手伝ったり、庭の草むしりをしたり、まぁそういう雑用だな。だが、メインは戦闘の訓練をして欲しい。出来れば俺が王立魔剣学校を卒業するくらいには、ギルドのB階級やA階級の依頼を俺と一緒にこなせるくらいには強くなって欲しい」


 なぜ戦闘の訓練をさせるのか。


 それは、俺の前に出て前衛として戦える人物が欲しかったからだ。


 魔法使いっていうのは基本的には、後衛で魔法を撃ちつつ、味方を支援する役割がある。

 俺は近接戦闘は出来ないことはないが、多くの魔物に囲まれたり、巨大な魔物に遭遇して魔法が効きにくい敵が出てきた時に前衛がいるって言うのはやはり心強いものだ。

 少し、いや、だいぶ獣人だからといって期待しすぎだろうか。


 まぁ、あくまで目標だ。それに到達できなくても心配はない。


「戦闘…」


「そうだ、頑張ってくれ」


 さて、仕事の内容を説明し終わったな。仕事の詳細は明日にでも教えて、明日からできるようにしてもらおう。


「そうそう、給料の話なんだが…」


「「給料!?」」


 フルティエとアルトルが同時に驚いたように叫ぶ。

 フルティエの驚いた顔は新鮮だな、ずっと無表情だったからな。


「ご主人様、奴隷に給料を出すのは正気の沙汰ではないと思うのですが」


 切り替えていつも通りの顔に戻ったフルティエが、まるで俺が頭おかしいかの如く口を開く。


「貰えないより貰えた方がいいだろ。まぁ、流石に一般的に貰える給料よりかは下がるけどな」


「そうか…。だが、例えばペットに金を出しているようなものだぜ、それ」


「いいんだよ、払わないとお前らを道具として扱っているようで気持ち悪い」


 よし、取り敢えずはこれで一通りの言っておきたい説明は終わりだな。


「あ、そうだ。ちょっと付いてきてくれ」


 俺は、使用人たちを引き連れて豪邸の左側の部屋が沢山ある2階へやってきた。


「奥からフルティエ、アルトル、チェリアが使ってくれ。気に食わなかったら各自相談して部屋は適当に変えても構わないぞ。自分がリラックス出来る空間を作ってくれ」


「…もしかして、私たち個人の部屋ってことですか?」


「え?そうだけど、不満があるならもっとデカい部屋に…」


「い!いえ!いいです、ここで大丈夫です」


 うーん、フルティエが何を考えているのかわかんないなぁ。

 アルトルは分かりやすく顔に出ていて、喜んでいるのがわかるし、チェリアも多少は喜んではいる。

 さっきまで俯いていたが、少しは元気になったようでなりよりだ。


「じゃあ、明日から仕事してもらうからゆっくり寝とけー」


 俺はそう言うと豪邸を出て、フェルと一緒に学校の寮に戻るのだった。





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