第57話 奴隷

「へぇー!ここがノアの…」


 カルトが豪邸の目の前に来て、声を出して驚いている。

 確かに、前世でも今世でも一生見られないであろうほど大きいお屋敷だ。


「ほら、入りなよ」


「お菓子作ってくれー!!」


 俺が扉を開けると、フェルが子供のようにダッシュして厨房に向かう。


「お菓子…?」


 レオがそのフェルの行動に疑問を抱く。

 取り敢えず、俺たちも続いてフェルを追いかけるように厨房へ行く。


「あぁ、王の褒美の件だよ。1年分は現実的じゃないって言うんで、お菓子職人を1年契約でここで働いてもらってるんだ」


「へぇ!」


「凄いな、それは。つまりお菓子が何時でも食べれる訳だな」


 オーウェンが珍しく話に食いついてるな。

 もしかしてお菓子が案外好きなのか?


「そうなんだ。ノア、僕たちも食べていいのかな?」


「あぁ、フェルの褒美だが、大丈夫だ。俺も何回か作って貰ってる」


「って、食堂もデカイ…。とゆうか、ノアとフェルの2人だけでしょ?住んでるの。それも寮があるからここにはあんまり来れないだろうし、なんで豪邸なんて貰ったの?」


 エマが不思議そうに尋ねながら席に座ってお菓子を待つ。

 俺たちも同じように席に座る。


 ダーグのことは…、まぁ言っていいか。


「ダーグって言う、まぁ俺の仲間なんだけど、そいつの為に家を貰うつもりでさ。それで、折角ならデカイ家が欲しいなって思って豪邸って言ったらこんなに大きい家が貰えた」


「そうなんだー。お!キタキタ!」


 ここに派遣されたお菓子職人たちは優秀で待ち時間が少なくてすぐ食べれるから、流石は王が寄越した人だと感心する。


 俺たちは、お菓子を食べながら談笑しながら、話題はいつしかこの家に関連した話になっていった。


「しかし、この家は大きいが、掃除はどうするんだ?」


 掃除…、確かに。こんな豪邸を管理していかなきゃ行けないのはかなりしんどいな。

 うーん、まじかどうしよう。


「その顔は考えていなかった顔だな。にしてもあまり来ない家を毎回掃除しに来るのは大変だぞ?」


「うん、確かに。この広さは掃除だけでも1日はかかりそうだね。どうするの?ノア」


「なら、奴隷を雇えば良い。数人雇うくらいなら何ら大変ではなかろう?」


 奴隷…?この世界には奴隷がいるのか。


「そうだねー!奴隷なら給料も払わなくてもいいし、いいね」


 カルトの反応を見るに、この世界は奴隷はなんだな。

 前世なら奴隷は完全アウトだったから、俺の感覚だとおかしいと感じるが、この世界の人たちはそれは普通なんだな。


 なんか、奴隷が普通な世界って悲しいな。


 まぁ、豪に入れば郷に従え、だな。

 俺が何を思ったところで奴隷の制度が無くなる訳でもないしな。この世界では普通なら雇わせてもらおう。


「なら、奴隷を雇おうかな。掃除と料理作ってくれる奴隷がいいなぁ」


「そうだな、それがいい。…俺はそろそろお暇させてもらう。招いてくれてありがとうなノア」


「私もそろそろー」

「うん、私も寮に戻る」

「僕も剣の訓練するから、帰らせてもらうよ」

「俺も、家に帰るからそろそろ」


 全員同じタイミングで帰って行ったな。


 …時間は、まだまだ夕方ぐらいだな。

 奴隷を雇うのも今日で済ましてしまおう。


「今から奴隷を雇いに行くんだが、フェルも来るか?」


「そうか、なら我が最高の奴隷を見つけてやろう」




 俺たちは、奴隷市場にやってきた。


 俺のイメージだと路地裏の廃屋でやっているのかと思ったが、イメージとは違って広場に奴隷商人が奴隷を立たせて、まるでフリーマーケットかのような状況だ。

 そこで売買がされており、そこには夕方だというのに活気があった。


「俺のイメージしていたものとは違うな。なんかもっと…、こう…、こっそりやってるのかと思ってた」


「ん?どこもこんなもんじゃが。まぁ、いい。我といい奴隷を見つける勝負をしよう!ノア」


 おいおい、さっき「そうか、なら我が最高の奴隷を見つけてやろう」って言ってたじゃないか。

 フェルはもう既に遠くへと走っていった。全くなんであんな自由なんだ?あのフェンリルは。


 …仕方ない、素人目だが探すか。


 俺は、奴隷市場を色んなところを巡る。


 奴隷は大体汚い布のボロボロの服を着ていて、正直誰がいいとか誰がダメとか分からないな。

 掃除が出来る奴隷がいいな、掃除さえ出来れば特にはその他の特技は要らない。

 奴隷の商品概要を見ていくが、大体掃除が出来る奴隷ばかりで、掃除が出来ない奴隷の方が珍しいほどだった。

 まぁ、掃除さえ出来れば、雇う人はいるだろうしな。それぐらいは教育するか。


「うーん、わかんねぇ…」


 …ん?何だこの殺気。

 いきなり、俺に向けて殺気が飛ばされていることに気づいた。

 かなり弱々しい殺気だから、奴隷が飛ばしてるのかな?


「君、かな?」


 俺は殺気がする方へと足を進めて、そこに居たのは小さい獣人の女の子だった。


 これは獣人…か。


 ちゃんと耳が獣の耳になっていて、尻尾があって、体毛ももふもふしていて、いかにも獣人そうな見た目だな。


「おや、兄ちゃん。こいつがお気に召したか?こいつは元気が良くてな、若いし何でもやれるぞ?例えば…」


「あー、大丈夫。言わなくても」


 つまり、奴隷ってのはそう言う性処理の為に使われるやつもいるんだろうな。

 まぁ、流石に俺はそんなことはしないけど…。


「どれどれ…、掃除と戦闘。掃除面は一通りの教育がされていて、戦闘は獣人族なので役に立つ…。なるほど」


 ふむ、いいな。この獣人。


「買う」


「おぉ!いいねぇ!楽しめよぉ?」


 だから違ぇって!この奴隷商人頭ピンクまみれか?


「じゃあ、契約してくれ。奴隷を買うのは初めてそうだから、説明するが兄ちゃんの血が1滴必要だ。その血を染み込ませた魔法陣を奴隷に刻む。それで契約完了だ」


 ふーん、隷属魔法ってやつかな。そういうのがあるってのは聞いていたけど、実際に目にするのは初めてだな。


「なら、やってくれ」


「へい、少し痛いかも知れないが我慢しろよ?」


 俺の指先に針を刺して、血を一滴たらす。すると、魔法陣は起動を始めて、獣人の女の子の首辺りに刻まれた。


「いやぁ、助かったよ。獣人はあまり買い手が居ないんだ。兄ちゃんが来てくれてよかった」


 そう言うと、その奴隷商人は違う奴隷を再び売り始めた。

 うーん、殺気は常に向けられてるけど、この子と仲良くなれるかなぁ。

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