第54話 王子としては

 俺たちは王城内の訓練場へと案内される。常に俺たちの周りには数十人も鎧の兵士たちに睨まれているため、別に何かしようと言う訳では無いが、俺が仮に何かしようとしたら一瞬でバレてしまうだろう。


「…………」


 不用意に喋る必要は無いかと、俺たちは無言で歩き続けて、訓練場へと来た。

 訓練場の規模もかなりデカいが、一般的な感じであり、通常の戦闘を予想した鎧を着た人形、数十メートル離れたところにある的や焼け焦げている鉄の塊などが置いてある。

 そういう施設の真ん中にあるのが縦横50メートルありそうな程に大きい広場だった。

 王は、少し遠くの椅子に座りこちらを観察している。


 まじか、王に見られるとはなんだか緊張してきたな。


「では、模擬戦闘をしようではないか。戦うのは俺と大臣、そして近衛騎士5人だ。そちらが7人であれば、こちらも7人で戦う。異論はないか」


 ふむ、あっちは王子と近衛騎士5人は接近戦闘武器の剣や槍といった武器を持っていて、老人…、大臣と呼ばれた人は遠距離戦闘で魔法使いってところか。


 しかし、俺たちを殺す気か?


 模擬戦闘って言う割には近衛騎士を5人も連れてきているし、相手はそもそも鈍ら刀では無くて真剣を持っている。

 老人のレベルは…、アクセサリーで確認するとエマとカルトを合わせた位の強さってところか。

 城に招待され、気づいたら殺されそうになっているこの状況はどうしたらいいのか。


 …いや、違うか。王城内ではより実践に近い形で常に訓練している為に、これが普通だと勘違いしているのかもしれないな。


「失礼ですが、鈍ら刀では無いのですか?」


 俺が口を開く。その様子を見て王子は相当に不愉快そうな顔をし、老人と顔を見合わせて、俺たちに話しかける。


「あぁ、これが普…。いや、より実践に近い形で…、魔人と戦った時と近しい緊張感の中で模擬戦闘をしないと実力が分からないであろう」


 なるほど、な。まぁ、俺なんかは自分で言うのもあれだが、追い込まれないと奥の手を使わない性格をしている。

 緊張感のある模擬戦闘の方が実力を測りやすいってのはその通りかもしれないな。


『気をつけろ、あやつらは我らを殺そうとしている。恐らく事故を装って瀕死にさせて、あわよくば殺そうと画策している』


 え?マジか。俺が心の中で思っていたことが本当だったとは。しかし、褒められることはあっても、殺される筋合いはないんだけどな。


『この中で危ないのが、エミリートとカルトとエマ辺りか。だが、エミリートは囲まれなければ負けないだろう。それ以外の我らは傷は負うことはあっても負けはしない』


 つまり、相手のレベルはそれぐらいって事か。俺が倒そうと思ったら倒せるし、フェルがいてくれれば負けなんぞありえない。

 …王の御前だ。こちらが圧倒してもよろしくないし、もちろん俺たちは殺されたくない。

 上手い具合にカルトとエマを守りつつ、善戦して、負けようか。


「では、ルールを説明する。ルールは動けなくなったら負け、ただそれだけだ。我らが勝ったら、帰れ。以上だ」


 まるで、自分たちは絶対に負けないような口振りだな。

 …しかし、「動けなくなったら負け」か。なら無駄な危険を負わずして、直ぐに終わりそうだな。


「では、審判こちらに来てくれ」


 王子が審判を呼ぶ。審判は王に背を向けて手を下ろして、構える。


 …ふん、そこまでして勝ちたいのか王子。


「両者ともに構えて…、初めッ!」


 審判は手を振り下ろすと同時に細かい針のような物を投げつける。


 ――狙いは…、エマとカルトか。


 まず女性を狙うとは流石に許せんな。

 俺は風魔法を放ち、針を吹き飛ばす。王子はその様子を見て少し驚いたが、顔を戦闘モードに切り替えて、真剣を握って突撃してくる。近衛騎士5人も同様に武器を構えて向かってくる。一方、老人は何やら魔法の準備をしている。


「「6連拘束魔法」」


 おぉ、フェルと考えていたことは同じだったようで、ハモった。

 俺とフェルの拘束魔法は突進してくる王子と近衛騎士たちを拘束した。


 その間、僅か3秒。


 王子と近衛騎士たちはその僅かな時間で子供にやられたのだ。

 これには俺もびっくりした。だって、王子は剣はかなりの練度がありそうだったし、近衛騎士と言えば、国に選ばれた強い兵士たちだ。そんな人たちは拘束魔法ぐらい避けれるだろうと思っていたが、想定外だった。なんの抵抗もなしに、地面を滑るようにして転がった王子の顔がなんともマヌケで笑ってしまいそうだった。

 まじあぶねぇー、ワンチャン死刑有り得たな。


 その光景を後ろから見ていた大臣は、顔が驚きに満ちている。だが、大臣は直ぐに切りかえて、準備していた魔法を放つ。


滅する炎の槍メラーズ・ランス


 あれは…、A階級冒険者であっても対処が不可能そうな魔法だな。


 そうだな、あれを使ってみるか。


反逆の大鏡リベレクション


 俺の目の前に現れたのは巨大な鏡。その鏡に当たった炎系統魔法は鏡に吸い込まれる。そして、すれ違うようにして出てくる同じ炎系統魔法。それは大臣に向かって一直線に突撃して、爆風を上げながら、霧散した。








 ―――

 反射の「リフレクション」と反逆の「リベリオン」を混ぜ合わせた魔法、リベレクション。作者のお気に入り魔法。(語呂がいいため)



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