第53話 王としては

 さて、俺たちは王様に招待され城に来ている。服装はこの国の正装を買って着ており、割と高い値段で買った。もうここぐらいでしか使わないから、別に安物でもいいかと思ったが、この王国の一番偉い人に会うのだ。買っておいて損は無いだろう。


「ふむ、なかなかいいのじゃ。この服は」


 くるっと回って服を見せびらかすフェル。決して派手ではないが、美しさが際立っていて王に会うに値するような上品さが醸し出されている。


「あれ、ノアとフェルじゃん!」


 この声は…。


 後ろを振り返るとカルトとSクラスのみんながいた。みんなも正装で、いつもとは雰囲気が違って面白いな。


「お前たちも呼ばれていたのか」


「魔人をグーパンで倒しちゃう超強いフェルと関係を持ってる私たちも王はまとめて関係を持って起きたいんじゃない?」


 エミリートがそう言ってフェルに視線を送る。フェルは当然のことをしたまでだ、と笑っている。


「じゃ、行こうかみんな」


 俺たちは巨大な扉を開いて、謁見の間へと歩みを進めた。




 入って1番の感想はデカい、だ。

 この謁見の間むちゃむちゃでかいのだ。恐らく数百人は入れるであろう大きさの部屋に、至る所に宝石やアクセサリー、絵などが飾られており、この国の財政の豊かさが伺える。

 そして、中央に伸びるレッドカーペットを囲うようにして屈強な鎧の兵士たちが槍を持って待機している。そのレッドカーペットの先にドンと巨大な椅子に座っている男がいる。

 あの人が、この国の王なのか。

 俺たちはレッドカーペットを歩き始める。謁見の間としてはちょっと長いであろう時間歩き、王の前に来た俺たちは頭を下げる。


「よい、面を上げてくれ」


 王とは思えない優しい口調で俺たちに向かって話しかけてくれる。俺はゆっくりと頭をあげる。


「勇敢にも魔人に挑んで、更には倒す程の実力を兼ね備えたお主ら…、特に魔人を掃討してくれた大勇ある主に礼をと思って城に呼んだ。是非とも褒美を受け取ってくれ」


「待ってください、父上。こんないち学生徒があの恐ろしき魔人を倒した…、と仰るのですか?」


 急に王に意見を飛ばした豪華な服に身を包んだ青年が声を上げる。

 父上…、つまり王子って訳か。しかし、この謁見の間で父上とは。この世界にあまり詳しくない俺でも失言だとわかる。


「やめぬか、ガイオス。儂の行うことに不満があるか?」


「い、いえ…」


「失礼ながら王よ、私もこの者らが魔人を倒したなんて事は信じられません」


 王の近くに控えていた老人がガイオスと言う王子に引き続き、王に意見する。

 その言葉を聞いて、王子は折れかけた意見を戻し、再び王に抗議を始める。

 俺はそのやり取りを目の当たりにして思う。この人たちは何をやっているんだろうと。王だからと言って呼んでおいた客人をほっぽり出して身内で言い合いをしてるとは何とも…、情けないというか。

 俺が途中で声をかけたら、失礼に当たるだろうから、言えないがぶっちゃけ褒美なんてどうでもいい。貰えたら貰うし、貰えなかったら貰わないし…。

 俺はこんなところで突っ立て褒美を与えるか検討する時間を待つより、その時間を訓練に当てた方がいいなぁ、と思考に耽る。


「すまない。少しでいい、お主らの実力を息子に見せてやってはくれまいか」


 暫くして、王は決着が付かないと察したのか、そう提案してきた。

 招待しておいて、戦ってくれ。とは…。


 フェルは…、怒ってないな大丈夫だ。


 とはいえ、王の提案だ。俺たちはその提案に乗る他に選択肢はない。そもそも反論したり、喋ったら失礼に当たりそうだし。


「喋って良い、儂が許可する」


「では、手合わせを」


 俺は短く簡潔に王に伝える。その言葉を聞くと、王は城内にある訓練場へと俺たちを向かわせた。


 ―――


 父上は、直ぐに他者に褒美を渡し、気に入られようとする。今までは竜を倒したという男は貫禄があり、本当に倒していそうであったし、魔人に応戦して追っ払ったという男も左腕が無くなっていたし、魔人と戦った凄味が体から溢れていたのだが、今回の褒美を取らせる対象は子供であった。

 王立魔剣学校が如何に優秀か分かっているが、1年生のSクラスが魔人に応戦して倒したという事実がどうも信じられない。しかも、そのSクラスの1人は魔人を3ケタ以上を倒したという化け物だ。

 俺はそいつらと会うのをワクワクしていたが、実際に入ってきたのは子供。

 そして、何故か父上はその子供らを魔人を倒したと疑わない。

 そして、そんな風景をみて俺は考える。


 ――もしかして、こいつらは魔人に操られている、乃至魔人が化けているに違いないと。


 俺は自分で言うのもあれだが、国内で指の本数には入るほどの実力者だと思っているし、まわりもそう感じているものも多い。


 だから、俺が魔人を倒してやる。


 そして、父上には引退して貰おう。こんなあからさまな魔人の罠を気づけないほどに父上は衰えてしまったのだ。


 だから、俺が王になる。


 安心してくれ、父上。俺はこの魔人らを倒して国を平和にしてやる。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る