第50話 歪みて堕ちた、支配の核 その玖
「ノア!」
地面に衝突する直前に、フェルに抱きかかえられ、衝突することなく地面に降り立つ。
一方、「
「倒したか?」
「いや、分からない。そんな簡単に倒されるのかが疑問だ。いくらノアの攻撃が速かったとしても相手は雷そのもののような者じゃ、彼奴の性格的に戯れで斬られた可能性すらある」
くそ、なんだよそれ。こっちはもう魔力が底を尽きかけているぞ…。
「あ、そう言えば魔力回復のポーションを買ってたんだった」
すっかり忘れていた王国に着いた時に、備えとして買っておいた魔力回復のポーションを空間収納から出して飲み始める。
「ノア、下がれ」
突然辺り一帯を支配する殺気。これはノーフェイスの殺気か…。まるで化け物だな。
「あァ、なんと私が斬られるとはびっくりだわ。この雷であるノーフェイスを人間のォォァ
突然、ノーフェイスの身体はビリビリと痺れ始める。それと同時にノーフェイスは滑舌が回らなくなり、語るのを途中で断念して、俺の方を睨む。
…そうか、「勇者の一閃」の死ぬ迄纏い続ける雷の効果か。
俺の「勇者の一閃」は短剣に特殊な雷属性の魔法を纏わせる。それは、切りつけた相手を対象として死ぬ迄相手の魔力を資源として無限に対象を攻撃する雷だ。
「貴サマ!な二ヲしタ!!」
上手く滑舌が回らないノーフェイスは叫ぶと、辺り一帯に今までとは比にならない位のどす黒い殺気を放つ。
「今なら奴を倒せるかもしれぬ、ノアはまだ動けそうか?」
その言葉を聞いて、俺は腕を動かす。限界突破:覚醒の多用は危険だが、そう言ってる場合じゃないな。
「あぁ、もう一度だけなら「勇者の一閃」を放てる。それ以上使うと流石にヤバそうだからな」
「そうか。なら我も正真正銘の最後の一撃じゃ。動けなくなるかも知れぬが、次の一撃に全てをかける」
ふっ、ははは!
何故か笑いが飛びててくる。だって、あの伝説の獣であるフェンリルが俺に感化されて全ての力を使った最後の一撃を放とうとしてるんだ。
「ふっ、倒せなかったらやばいな」
「ふは、心配症じゃな。我が全ての力をかけた一撃を放つのじゃぞ?この世の悉くをワンパンじゃ」
頼もしいじゃねぇか!
じゃあ行くか、フェル。
「
「
2つのとてつもない気配が、ノーフェイスの殺気を押し殺さんと出現した。
―――
「なんで、外に出ちゃダメなの?」
幼い頃、あれは確か人間だった頃だろうか。私は身体が弱くて外に出ることを許して貰えなかった。頭では身体が弱いからと分かっていたが、私は母に何度も何度もその質問を繰り返した。だが、その度に母はちゃんと答えてくれて、嬉しさと申し訳なさで私はいっぱいだった。
だが、私は遂に我慢できなくなり身体にムチを打って家を飛び出した。
誰もいない日を狙った反抗だ。
外に出ると、広場で何人かの子供たちが鬼ごっこで遊んでいた。
私はその輪に混ざりたいと思った。だが、それは私自身によって阻まれる。だって、身体が弱い私が行ったところであの子たちは楽しくないだろうと考えたのだ。
私はそう考えている自分が虚しくなり、家に帰ることにした。
だが、その時に気づく。
自分の身体にはもう歩く力が残っていないと。
私は力なくその場に倒れ、意識は暗い闇の中に消失した。
気づいた時には、もう死んだ後だった。死んだ後、私は現世に残って色んなことをした。身体が弱かったから、この浮ける身体が新鮮で楽しかったからだ。
そして、その最中に気づく。
私は、孤独だと。
この不自由ない身体は楽しくて、便利で、身体に痛みが襲うことも無い。だが、孤独だった。人間は孤独では耐えられないと悟った。
あの時の、ベットの中で母との「何故家の外に出られないのか」の質問の繰り返しが如何に幸せだったと分かった。
だが、もう遅い。人生最後の反抗は死んだ後にとてつもない後悔として襲ってきた。
私は考える。
こんな身体ではダメだと。
そして、私は悪魔に魂を売った。
支配の力を手に入れる代償として。
この支配の力は万能だった。心弱支配と言って、心が弱いものを自分の物にできた。それは孤独だった私にとっては救いだった。
母は、もう居ないが私にはこの世界がある。この世界を支配して、誰もが孤独にならないようにすればいい。
そして、長い年月と共に密かに計画を立てていた私は遂に実行に移す時が来た。
私はこの瞬間から全てを支配する。
だから、見ていて…
―――
「オかアサン」
俺の「勇者の一閃」が、フェルの風の如き鋭くそして速い一撃が、ノーフェイスを狙い穿った。
ノーフェイスの身体は、ボロボロと崩れるように消えていく。
「アァ、まタ孤独だワ」
その言葉と共に、ノーフェイスは完全に消えてなくなった。
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