第48話 歪みて堕ちた、支配の核 その漆

「支配の雷が、王国に降り注ぐ。魔なる者の軍勢を率いて、雷は全てを支配せん。また風神の如き厄災も訪れる」


 前回の予言よりやばい雰囲気が漂ってると、マリス・ジーグボルトは察する。

 支配の雷…、確かどこかの文献で見た気がするのだが、それが思い出せない。

 仕方ない、メイドに支配の雷が記載されてる本を探してもらおう。

 取り敢えず、お父様にもこの予言を見てもらうべきだろう。

 私は、急ぎ足でお父様のところに向かうことにする。確か、今は執務室にいると思うけど…。


「おお、マリスか。どうした?慌てた様子だが」


 扉を開けるとお父様は、椅子に向かい書類をさばいていた。


「失礼します。いきなり、本題に入りますが、先程予言をした結果、「支配の雷が、王国に降り注ぐ。魔なる者の軍勢を率いて、雷は全てを支配せん。また風神の如き厄災も訪れる」となりました。明らかに今までの予言とは違う雰囲気を感じたので、報告に来ました」


 そう報告すると、お父様は深く考え始めた。私はその間、近くの椅子に座り、お父様の見解を待つ。


「ふむ…、支配の雷…。ならばすぐに」


 バン!


 お父様の言葉を遮り、扉がいきなり勢い良く開けられて、そこには息を切らしていた兵士がいた。


「報告します!!魔人の軍勢が王国に出現しました!!」


 …その言葉を聞いた瞬間、私は顔を青ざめた。自体は刻一刻と悪化していく。


 ―――


 あれ…、なんだここ。


 体がふわふわと浮いている感覚に襲われる。まるで水に入っているかのような、感じで心地よい。周りは暗闇が広がっている。


 しかし、ここはどこだ?

 俺は確か、生徒たちを落ち着かせるために学校中を走り回ってたはずだが…。

 思い出そうとした時、突然目の前に、スクリーンのような物が映し出される。

 そのスクリーンには俺の幼少期の様子が映し出されている。

 スクリーンの中の俺の周りには何人か人がいて、俺は囲まれている。

 あぁ、これは確か…、俺がヒーローに憧れて虐められている奴を助けたけど、返り討ちにあったところだな。

 ふっ、なんで今こんなことを思い出すんだろうなぁ。


「あァ、貴方は凄い人生を歩んでいるのね…。1回死んでいるのは何ともびっくり」


 それは声のした方に振り向く。そこには、首から上がない女性の体をした何かが立っていた。


「…お前は誰だ?」


「私は、ノーフェイスよ」


 …こいつがフェルが言っていたノーフェイスか。何とも不気味な容姿をしている。


「あァ、そう?私はすごくこの身体を気に入っているのだけど」


 あれ?心が読まれている?なんで。


「それはね、貴方を支配したから。だから貴方は私の物よ」


 まじかー。フェルはどうしてんだろうな。

 ちゃんと魔人倒してくれてるのか?


「あァ、あまり驚かないのね。フェンリルは今は私の場所に向かってるわ。貴方を取り返すためにね」


「じゃあ、フェルに早く助けてくれって伝えといてくれ。ここからじゃ何も出来なさそうだし」


「あァ、いいわ。でも貴方が直接言いなさい」


 その声と共に俺の意識は深く沈んでいくのだった。


 ―――


「ノーフェイス、ノアを返せ」


 学校の頂上、時計台に鎮座したノーフェイスに話しかける。ノーフェイスはやっと来たか、と言わんばかりの顔で、振り向く。


「あァ、久しぶりね。いつぶ…」


 フェルの音速の拳がノーフェイスに放たれるが、ノーフェイスは軽く避ける。

 フェルは内心舌打ちをする。

 彼奴は雷の神トールから神力の一端を借り受ける。つまりノーフェイスは雷同然。


 だから…、


「あァ、何回やっても当たらないわよ」


 当たらない。


 フェルはイライラが更に募っていく。自分の攻撃が当たらないとは何とも不快だと思考する。


 しかし、彼奴に攻撃を当てるにはどうするか…。


「そうイライラしてはダメだわ、フェンリル。丁度いい対戦相手がいるのだけど、準備運動でもして行かない?」


 その言葉と共に出てきたのは、ノアだった。だが、ノアは目の焦点があってなく、体はふらついている。


「チッ、支配したか」


「あァ、そうよ」


 仕方ない、ノアには少しの間眠っててもらおう。少し痛いだろうが…、痛覚がちゃんと働いいるのか分からないが、兎に角ノアを落として、ノーフェイスの奴に1発パンチを入れてやらないと気が済まない。我のノアを支配したのだから。


「あァ、気をつけた方がいいわ。その子、強いから」


 その瞬間、ノアが刹那の時間で魔法を放つ。撃ったのは恐らく、ライトニングショット。我の動体視力でギリギリ躱せる程に速度が飛躍的に上昇した魔法がノアから放たれたのだ。


「ノアを使い潰す気か」


「貴方が止められたらそうはならないわ」


 その間も絶え間なく、ノアからはとてつもないスピードの魔法が放たれていく。

 ノアの無意識的にかかっていた身体の制御を強制的に外したのか。


 チッ、鬱陶しい!


 ノアは中級魔法の中に上級魔法を織り交ぜて、魔法の弾幕を張ってくる。

 見分けはつくが、それを理解して避ける時間はない。全てをちゃんと避けなければ致命傷になりかねない。


 スパンッ。


 フェルの肩に風魔法が掠れ、制服がスパッと切れる。そこからは血が滲み出して、制服を赤く染める。


「くっ、人間の体じゃ限界があるか…!」


 仕方ない…、人化を解いて戦うか。

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