第46話 歪みて堕ちた、支配の核 その伍

「知らない天井だ」


 前世では使いどころがないと思われていたあのネタが不意に口から飛び出す。

 しかし、ここはどこだ?


「お、なんじゃ起きたか」


「あぁ、ここどこ?」


「王立魔剣学校の保健室というところじゃ。ノアは魔力欠乏症になっていたのでな。我が運んだのじゃ」


 魔力欠乏症…、確か体内の魔力が枯渇すると、身体が機能停止になって強制スリープモード、所謂、昏睡状態になる…だったか。

 限界突破オーバーリミット覚醒オールマイティは身体強化の魔法を極限まで強化した俺のオリジナル魔法だ。

 とてつもなく強化されるが、反動が酷くてまともに使える代物じゃない。

 今回はフェルが近くにいたから助かったものの、敵陣で昏睡状態になったら死に一直線だ。

 使い所を選ばないといけないから、安易に使えないが、さっきみたいに一気に展開を逆転させる力を持ってるから切り札として閉まっとこう。


「そうか…。そうだ、ゴルバルドのところに行かないと。あの蜘蛛蟹のことを頼んで置いたからな」


「蜘蛛蟹じゃと?」


 あぁ、そう言えばフェルには言ってなかったな。


「昨日の夜に、うちの生徒が魔物に変化してし襲ってきたんだよ。外皮が岩みたいに固くて、ドクロのような模様がついた蜘蛛蟹だ」


「ふむ…。なんで魔界の生物が主界に…?」


「魔界?なんだそれ」


「魔界というのは、この世界とは別の世界の事じゃな。そこには魔人が住んでおる。そして、さっきのノアが言ったみたいな蜘蛛蟹もな」


 何だかきな臭いな。

 あの2体の魔人といい、蜘蛛蟹といい何か巨大な何かが裏で蠢いているような。


「取り敢えず、ゴルバルドのところに行こう」


 既に、俺がギルドを出てから6時間弱経っている。もうそろそろ解体が終わっている頃だろう。

 俺たちは準備すると、ギルドへ向かった。




「あぁ、またあの蜘蛛蟹からもでてきた」


 ゴルバルドに渡されたのは、前に貰った物と似たような禍々しい多面体の脈動する物体を受け取る。

 フロストベアと蜘蛛蟹からも出てくるとは…、これは一体なんなんだ?


「これは…」


「ん?先生は知ってるのか、これ」


「支配の核、と呼ばれる埋め込んだ者の心の弱い部分に住み着き成長する彼奴の力なのじゃ。恐らく魔人たちの主は彼奴…」


 要領を得ない言い方をするフェル。

 しかし、この禍々しい多面体の脈動する物体を知っていたり、蜘蛛蟹のことを知っていたり…、フェルは本当に一体何者なんだ?

 俺は喉までせり上がってきたその言葉を何とか飲み込む。

 深く追求するべきじゃないと感じた。

 兎に角、今はこの「支配の核」の力を持つという「彼奴」について聞かないと行けない。


「先生、彼奴って…」


「あぁ、彼奴の名は「」。雷の神トールから神力の一端を借り受ける雷を支配する者じゃ」


 …冥叶のアイタアルと同格の魔物か?

 確か冥叶のアイタアルは死の神タナトスから神力の一端を借り受けていたよな。


「彼奴は心弱支配しんじゃくしはいという相手の弱い心の部分に巣食う魔物を生み出すスキルを持っている。うちの生徒が蜘蛛蟹になったのはそのスキルで生み出した魔物のせいじゃな」


 …なんだよ、それ。

 ヒューゴってやつは支配の核とやらのせいで魔物になったのかよ。


「なんだよそいつ、ぶっ飛ば…」


 その瞬間、地面が飛んでもない音とともに揺れ始めた。


 ―――


「あァ、フェンリルがいるのね…。厄介だわ」


 頭のない人型が面倒くさそうに呟く。その人型、支配のノーフェイスは世界を支配せんと計画を立てていたが、その計画の前に巨大な壁…、フェンリルがいきなり立ちはだかり、計画の見直しが必要となった。


「あァ、そう言えば…。フェンリルの近くにいたあの人間の子供…」


 ノーフェイスは顔が無いのに考える仕草をして、思考を始める。

 そして、考えが纏まったのかノーフェイスは立ち上がる。


「あァ、そうしましょう。あの人間の子供を奪ってあの時のフェンリルを目覚めさせ、世界を絶望に叩き落とし、そこから私が…。ふふふふ」


 ノーフェイスは眼下に広がる支配した魔人たちを見渡して、愉悦感に浸る。

 支配とは何と、楽しいことか、と。

 ノーフェイスは支配の手をまずは王国へと伸ばした。


 ―――


「大変だ!!魔人が出現した!!」


 学校中が誰かのその一言で、パニック状態に陥った。

 あるものは逃げ惑い、あるものは寮に引きこもり、あるものは魔人に挑もうとする。

 不味いな…、教師陣が対応に追われてパニックを抑えられる状況じゃない。

 このパニック状態を抑える最善で最速の一手は…、


「魔人を張り倒しに行くのじゃ、ノア」


「あぁ!わかった!」


 ―――


「あぁッ!くそ!」


 レオは禍々しい黒い肌をして翼の生えた人型…、魔人にパンチひとつで吹っ飛ばされたことによる不快感を口から零す。

 チッ、あの魔人め…。俺の事を完全に無視してやがる。


「無視出来ないようにしてやる」


「待って!!」


 俺が魔人へと飛び出す体勢に入った時に、後ろから声がかけられる。この声はカルトか。

 そう思い、後ろを振り返るとノアとフェルを覗くSクラスのみんながいた。


「レオ、落ち着け。1人で倒せる相手ではない」


「うん、私もそう思う」


 レオは実際にはそんなことは百も承知であった。だが、Sクラスに入ったところで褒めもしてくれなかった父に今度こそ褒められるように、魔人を1人で倒したかった。

 だが、その考えが愚かだったと気づく。


「じゃあ、あいつを倒せるように支援してくれよ?オーウェン」


「何を言う。俺が倒すから、レオは支援に回れ」


「おー、ほらほらー!喧嘩しない!行くよ!」


 カルトのその一声で、Sクラスの生徒は全員臨戦態勢に入った。





―――――――――

※人界→主界に変更しました。

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