第45話 歪みて堕ちた、支配の核 その肆
「我は片方やる。ノアはもう片方をやれ」
そう言うとフェルは高速で跳躍して、右の魔人の腹を蹴り飛ばす。
「なに!?」
「さ、俺が相手だ魔人」
「…いいだろう。人間如きが魔人に逆らったらどうなるか思い知らせてやる」
俺は手始めに上級魔法を6連続で放つ。
だが、当然のように魔人は弾き返す。
…まぁ、予想は出来たが魔法での攻撃はあまり効果がないようだ。
「この程度だったか、人間の子よ。ならば直ぐに殺してあいつの加勢に行かなければな」
舐められてるな。だが、油断してると痛い目見るぞ魔人。
俺は短剣に炎を纏わせ、身体強化の魔法を行使して飛び出す。
俺の相棒ステップウィンドで魔人の背後の空中に足場を作って、切り抜けて背後の空中の足場を利用して切り返して距離をとる。
剣は…、少しは通るようだ。
「ふん、痒いな。早いがそれだけだ」
…あぁ、その通りだな。
俺は心のどこかでフェルに頼れば何とかしてくれると思っていそうだ。
フェルは俺に任せると言ったんだ。かすり傷程度を負わせて、喜んでいてどうする。俺がこいつを倒さないでどうするんだ。
「少し、本気を出そうと思う」
「お?何ブツブツ言ってんだ」
俺は深く、深く集中する。
体に流れる魔力を感じるんだ。
魔力を指先や髪の毛1本の先まで巡らせる。
「
ドクンッ!と心臓の脈動する。
くっ…、反動がもう来るか…。だが、反動でぶっ倒れる前に魔人を叩き切る!!
「10連
俺の目の前に展開した10個の魔法は対象を際限なく追い回して突進する。
「くっ!!なんだこの威力の魔法は!?」
魔人は上級魔法など生温いほどに強化された追尾水銃の対処に追われる。魔人は丁寧に丁寧に魔法を弾いて対処し、周囲への警戒が甘くなる。
そして、8発目の追尾水銃を対処しきれなくなり食らった魔人は後方によろける。
――ここだ。
「
雷を纏いし一閃は刹那に鋭く、そして眩しいほどに輝く。
雷電は1秒にも満たない時の切れ間に魔人の体を切り抜けた。
「は?」
数秒後、魔人の体がようやく切れたことに気づき縦に割れる。
だが、魔人は復活しようと修復を試みる。
「復活はしねぇし、させねぇよ。その雷は対象が死ぬまでまとわり続ける。死ぬかそのまま無限に再生してるか選べ。まぁ…、どちらも同じようなもんだがな」
俺は反動により、地面に倒れる。
流石に、無茶しすぎたな…。フェル、こっちはやったぞ。あとは頼む…。
俺の意識は深い奥底に沈んで行った。
―――
「ふむ、ノアはちゃんとやったようじゃな」
「お?何よそ見してんだッ!」
戦いは空で行われていた。フェルはステップウィンドで空中に立っている。
フェルは空中の死角からの一撃であっても体を翻して拳を受け止め、その拳を逃がさないように握る。
「なッ!話せ!ゴバッ!」
フェルは風系統の魔法を放ち、魔人を吹き飛ばす。そして、フェルの腕に残ったのは魔人の片方の腕だった。
「おい、忘れ物じゃ」
フェルは地面に向かって吹き飛ばされた魔人の体目掛けて、思いっきり腕を投げつける。
「ぐはっ!」
とてつもないスピードで飛来した片腕は、魔人の腹部を貫通して、地面に突き刺さる。
力なく落下した魔人が、再生を終えて立ち上がる。
「ぐっ!人間の子供如きになぜ俺がこんな苦戦を…!」
「ふは、それは人間の子より魔人の方が弱いからでは無いのか?」
パツンッ!
そのフェルの煽り全開の言葉を聞いて、理性の糸が完全に千切れる魔人。
声にならない声で発狂して、フェルに突進を繰り返す。
「動きが単調になったぞ?本当に怒ってるのか?さっきと何ら変わらんのじゃ」
既に怒りでフェルの声が脳に届いていない魔人は、突進する行動を何回も繰り返す。
「うーん、ハエみたいで鬱陶しいのじゃ」
フェルは無駄のない動きで真横に避けて、突進してきた魔人を地面に叩き起こす。
「ぐっ!!」
地面と衝突して、顔に土の感触が伝わる。倒れたまま理性が戻ってきた魔人は今の状況を冷静に考える。
――1人だと確実に勝てない…。
ならあいつと力を合わせれば、何とかなるかもしれない。取り敢えずはあいつと合流しなければ…。
「行かせはせぬぞ?」
ドコンッ!といつの間にか真上にいたフェルに殴られて、地面にめり込む。
くそ!この人間、さっきから強化魔法を使ってる気配がない…。つまり素でこの膂力があるということ。
くそ!勝てねぇ…!と魔人の脳はその事実だけを確実に伝える。
「お前らの主は誰じゃ?」
「言うも…」
魔人が喋ろうとしたら、グーパンが繰り出された。魔人の顔は歪み切っている。
「お前らの主は誰じゃ?と聞いたんだが」
再びフェルは同じ質問を繰り返す。だが、魔人の意思は固く、一向に口を割らない。
「仕方ない、言う気になったら教えてくれ」
そう言うとフェルはグーパンを1発1発丁寧に魔人の顔面へと放つ。
数百発を超えたあたりで、いつしか魔人はピタリとも動かなくなる。
体は無事とは言えないが、傷が付いてる程度で、死に至る外傷は見当たらない。
「ふむ、精神の方が逝ったか。しまったな、裏にいるであろうこいつら魔人の主の情報が聞けなくなってしまったのじゃ」
フェルは呆れたようにそう言うと、元のノアがいた場所に戻るのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます