第44話 歪みて堕ちた、支配の核 その参

 俺は蜘蛛蟹を倒して、寮に一旦戻って夜が開けるのを待った。

 そして、ギルドに行った俺はゴルバルドと話していた。


「蜘蛛みたいで蟹みたいな魔物…?俺は初めて聞いたな。それで…、そいつの死体があるんだよな?解体場に取り敢えず行くか」


 そう、あの蜘蛛蟹を解体してもらいに来たのだ。しかし…、S階級冒険者のゴルバルドが知らない魔物か…。何か怪しさを感じずにはいられない。




 解体場には俺とゴルバルドの2人だけで来た。ギルド職員に見られて言いふらされたら、不味いだろう。未知の恐怖がいるだけで人は不安になるものだ。なるべくは見せない方がいいだろう。


「解体するから少し待っててくれ。あぁ、そう言えば前の巨大なフロストベアから変な物が取れてな。お前に相談しようとしてたが、学校にいるって言うんで中々連絡が取れなかった。それで、変な物ってのはこれだ」


 俺はゴルバルドから渡された禍々しい多面体の物体を渡される。

 これが、巨大なフロストベアの体の中にあったのか…?


「これは通常の個体でも見られるものなのか?」


「いや、俺は61体全ての解体に関わったから分かるが、そんなものは一体からも出なかった」


 なるほど…、つまりあの巨大なフロストベアだけから取れたものって訳か…。

 少し調べてみるか。

 俺は禍々しい多面体を手に取って観察する。

 中は薄く透けていて、中には血管のようなものがあり、脈動を続けている。

 臓器っぽいが、明らかにおかしいのは内包する邪気の方だ。

 邪悪な気配がこの多面体からは発せられていて、あの時…。蜘蛛蟹に変化してしまう前のヒューゴの気配に似ている。

 …それぐらいしか分からないな。

 フェルに聞いてみるのもいいかもしれないな。


「ゴルバルドー、あと何時間くらいかかりそう?」


「うーん、そうだな。俺が頑張れば5時間ほどで行けるだろう」


 なら、何か依頼を受けるか。フェルも誘ってみよう。

 俺はそう考えて、ギルドを出て、多分寮にいるだろうフェルを誘いに行くのだった。


 ―――


 水晶を眺める魔人たちは少し焦っていたが、それを表に出さずに話を進める。


「…まさかスライブドクロックがやられるとはな…」


「あぁ…。あの少年はかなり危険だ。すぐに殺しにいこう」


「いや、まて。街にいる時に殺しに行くのは現実的じゃない」


「と、するといつ狙うんだ?」


「あいつが寝る時か、街の外に出た時に狙う。そして、確実に殺してあの方の信頼を取り戻すのだ」


「なるほど、いい考えだ」


 人間の子供を殺す事に慎重になり過ぎだとは魔人たちは感じたが、スライブドクロックをほぼ一撃で葬り去ったあの魔法の威力は危険と判断する。

 水晶を眺め、焦る心を抑えて来るその時を待つ魔人であった。


 ―――


「眠いのじゃー」


「いや、今昼なんだけど?」


 不満ばかり言うフェルを引き連れてやってきたのは街近くに出現するスライムダークという闇魔法を使う黒いスライムを狩りに来たためだ。

 その依頼の階級はC。闇魔法は結構危険で、スライムといえども油断してたら弱い冒険者は殺される程で階級はCになっている。


「おお、愛いやつじゃ」


 スライムダークをいち早く見つけたフェルはさっきまでの眠気は飛んだらしく、つんつんと指で突いて遊んでいる。

 あ、スライブダークがなんか魔法唱えてる。その魔法は超近距離にいたフェルに炸裂した。


「な!?」


 フェルは驚いた顔でこっちを見てきた。

 いや、そんな顔で見られても…。というか早く討伐してください。


 俺たちは順調にスライムダークを討伐していく。

 そして、フェルが最後の一体を倒した瞬間、フェルの背後から炎系統の魔法が迫ってきていた。


 なんだ!?どこからの攻撃だ!?

 くそっ!魔法が間に合わない!


「フェル!」


「分かっておる」


 そう言うとフェルは飛来する炎系統の魔法を腕で弾いて見せた。

 俺の心配返せよ…。と言いたくなるがフェルはフェンリルだということを忘れていた自分が悪かったと反省する。


「弾かれたか」


「あぁ、弾かれたな」


 空から突然現れたのは翼が生えた肌が黒い魔人だった。


 ―――


「あァ…、私の可愛い魔人たち…」


 顔がない人型のが暗い部屋で呟く。そのなにかは眼下の机に置いてある魔人の小さい人形を手に取って、まるで子供遊びのように人形を弄っている。


「あァ、なんて美しい世界なのだろう。その全てをして私のモノにしてあげる…。そうしたらもっと美しくて寂しくもならないでしょう。うふふ」


 溢れる感情により、力の制御が効かなくなり、手に持っていた魔人の人形を握りつぶす。

 そのなにかは、顔が無いのに笑い声は暗い部屋に響き渡っていた。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る