第41話 魔法の模倣、勝利の簡単な方法

「さぁ!やってきたこの日!今日はクラス対抗戦だー!!」


 Sクラスの担任であるイザベラ先生は、闘技場で普段の1.5倍くらいうるさく拡声魔法を使って叫ぶ。


「お前らの不満を相手にぶつけろー!もしかしたらSクラスに昇格するかもなー!」


 そう言うと、うぉー!!と観客席にいる全校生徒が応えるように叫ぶ。


「Sクラスって結構な人数いるんだね」


 観客席でうるさいイザベラ先生を横目に、隣に座っているエマに向かって話しかける。


「うん、私たち1年生の他に5年生までのSクラスがあるからね。この学校はあまり縦の繋がりがないから上級生には余り関わらないかもね」


 ふーん、と言って観客席を見渡す。

 全校生徒の数は分からないけど、多分500人くらいは居そうなほどに観客席は人で埋め尽くされている。


「さぁてまずは1年生のCクラスと1年生のBクラスの対抗戦だー!」


 イザベラ先生がそう叫ぶと、両方の登場口から30〜40人ほどの集団が出てくる。

 あれがCクラスとBクラスか。


「ではでは!ノルザ校長!一言!」


 あ、ノルザさんが実況席にいる。

 イザベラ先生に振り回されている様子がこっからでも確認出来る。

 ノルザさん…、頑張って!


「頑張ってください、応援しています」


「よぉし!ではお前ら!始めるぞーー!!」


 闘技場上の審判がスタートの合図を出し、対抗戦が始まった。


 ―――


「はぁ、なんであんなに美しいんだ…」


 僕は遠隔覗見えんかくしけんのスキルを使って美しいあの人をまじまじとみる。

 あぁ、いくら見ても美しいな。

 今日は素敵な日だ。こんなにも見てくれる人がいるんだ。

 僕と、ノルザさん…。今日は2人が永遠に結ばれる日だよ。

 ふひ、楽しみだ。


 少年はただひたすらに先走りした思いを止めるすべを知らず、1人で妄想に浸るのだった。


 ―――


 Cクラス対Bクラスは、Bクラス勝利。

 Bクラス対Aクラスは、Aクラス勝利。

 そして、SクラスとAクラスの対抗戦が始まろうとしていた。


「結構な人数不利だねー!まぁ勝つけど!」


 登場口で、準備体操をするカルトはそう言って感情を表に出して楽しそうだ。

 他の5人もそれぞれが準備体操をし始める。


「うーん、7対30くらいか?」


「うん、1人4人くらい倒せば勝てるね」


「だが、油断するなよエマ」


 そう言って、レオはエマに注意する。

 レオって意外と素っ気ない雰囲気を出してるけど、みんなのことを見ていて凄いなぁと素直に感心する。


「僕が剣で10人くらいは倒すからオーウェンは休んでてもいいよ」


「ふん、エミリートこそ多人数相手だとスキルが使えないんだから休んでてもいいぞ」


 オーウェンとエミリートが冗談交じりに言い合っている。

 いいねぇ、いい感じに盛り上がってきた。

 俺も対抗戦を楽しもうか。


「あ、先生は程々にな」


「むー」


 フェルは頬っぺを膨らまして不満を隠そうともしない。

 先生が、暴れたら死人が出るかもしれないだろ…。


「よぉし!みんな行くぞー!」


「「「「「おー!!」」」」」


 俺たちは闘技場に向かって歩き出した。


 ―――


 ここはAクラスの登場口である。

 Aクラスは打倒Sクラスの為に、全員気合いが入っていた。


「お前らー!Sクラスに入りたいかー!」


「おー!!!!」


「お前らー!Sクラスを倒したいかー!」


「おー!!!!!」


「では行くぞ!!!」


「おうッ!!!!!」


 そこには男も女も関係ない、闘争がAクラスに渦巻いていた。

 誰も負ける気がない、ただSクラスを倒す為にAクラスは歩みを進める。


 ―――


 SクラスとAクラスは両者睨み合って構える。


「では、まずルールのおさらいをさせていただきます。ルールは相手を殺す魔法は禁止、明確な殺意や行き過ぎた行為には我々教師陣が介入します。そして、どちらか一方が全員倒れたら終了です。では、対抗戦を始めます。両クラスの構えて…始め!」


 その合図とともに、俺は後方に跳躍して、威力を打撲させる程度にまで減衰させた追尾水銃ホーミングガンを5連続で放つ。


 そして、フェルは風魔法。オーウェンとエミリートとレオは剣1本で、敵陣に突撃。エマは水魔法、カルトは炎魔法で攻撃をする。


「うおおおおお!!!!!!」


 もはや解説ではない絶叫を拡声魔法に乗せて辺りに木霊させるイザベラ先生。

 俺の魔法は全弾あたり、カルトとエマの魔法はAクラスを蹴散らし、オーウェンとエミリートとレオは剣で1人ずつ確実に減らしていく。

 一瞬のうちにして、Aクラスは10人までに減った。


「おい!あれ行くぞ!」


 お、Aクラスが何かやってる。

 なんだろうか?気になるけど…、レオとエミリートとオーウェンが敵陣のど真ん中にいるから阻止されそうだな。


鉄壁の砦アイアン・フォート


 お!なんだあの魔法!

 レオたちの剣が弾かれてるな…。

 とすると、物理攻撃に対する防御魔法か?

 圧力水銃プレッシャーガンを使ってみるか。

 俺の目の前に出現した水球はAクラスに飛んでいき、防御魔法に接触した瞬間、パンッ!と音がして威力を減衰させた圧力水銃が弾かれる。

 まさか、物理と魔法両方に作用する防御魔法か!だとするとあれの派生かな…?


「よし、撃てるぞ!!」


 Aクラスの中心人物らしき人が叫ぶ。

 すると、巨大な炎の塊が出現する。

 あれは…、炎系統の魔法だが、既存の魔法にはない。

 いや、違うな…。土系統魔法と炎系統魔法を統合した魔法か…!

 俺がまだ苦手とする統合をするなんて!!

 しかしあの魔法を1人で維持するのはかなり厳しいはずだ。2人か3人がかりで発動してるな。


「「隕石の衝突メテオ・クラッシュ」」


 Aクラスがそう叫んで、魔法を放つ。

 食らってみたいが…、痛そうだな…。

 これで負けてもいいけど…。


 折角なら勝ちたいよな。


 俺は魔法を展開する。


金剛石の要塞ダイヤモンド・フォートレス


 すまないAクラス。君たちの魔法を真似して、強化してみた。

 Aクラスの渾身の土と炎の統合魔法「隕石の衝突」は俺の金剛石の要塞によって弾かれる。


 AクラスとSクラスが同時に沈黙し、観客もシーンと静まり返る。


「ずるだろ!!!!!!!!!」


 突然Aクラス全員の、息を合わせたかのようにぴったりな叫びが闘技場に木霊した。


「俺もそう思う」

「うん、私も」

「今のは流石にねー」

「酷いなノアは」

「あぁ、全くだ」

「成長せんな、ノアは」


 おい、お前らは俺の仲間だろうが。




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