第40話 スキル

「うーん、まぁあれはなんと言うか…。筋肉の動きを見てるんだよね」


そう話すのは、エミリートだ。

俺はさっきの心を読んでいるかのような動きの正体を知りたくて、エミリートの部屋に入ろうとしたら、みんな同じタイミングで来て、フェルを除いて5人でエミリートの部屋を押しかけたのだ。


「筋肉の動きを見る…?」

「筋肉を見れるの?」

「心を見てるじゃなくて?」


みんな一様に困惑する。勿論俺も例外ではなくて困惑する。

筋肉を見るって、仮に本当にそうだとしたら、動き回る人の筋肉をちゃんと見えるほどに目が良くないと出来ないだろう。


「俺ので、発動中は筋肉の動きが見えるんだよね。最初はなんだこの使えない力、と思ってたけど、最近になって有難みがわかるよ」


スキル…?

なんだそれ?魔法かなにかか?


「あー、スキルだったか。なら納得だ」

「スキルかー、いいなぁー」

「うん、私もスキル欲しい」


みんなはスキルのことを知ってるのか?


「スキルってなんだ?」


俺がそう言うと、みんながこっちを見て驚きの表情で見つめる。


「…スキルって言うのはね…」


スキルというのは、言わばその人やその家計の特有の力のことらしい。

例えば、エミリートのスキルは発動中、筋肉の動きが見える筋肉透視だ。それは、相手を見てから1分後に筋肉を透視出来る。そして、筋肉の動き方を研究して、相手の心をまるで読んでいるかのように動けていたのだという。

そして、そのスキルの解除方法は筋肉透視の対象が完全に視界から外れた時らしい。

だから、フェルが制服で自分の姿を隠した時にエミリートは後ろに下がったのか。

しかし、スキルか…。そんなものがあったとは。


その後、みんなは疑問が解消したのでエミリートの部屋から出ていった。

そして、俺はフェルの部屋に行って、椅子に座って考え事をする。


「乙女の部屋にノックもせず入り、いきなり考え事を始めるとは…。ノアはいつからそんな風になってしまったのじゃ」


フェルが何か言ってるが無視する。

しかし…、スキルか。俺の未知の力があったとはな。是非ともスキルを欲しいがどうやったら取得出来るだろうか。


「先生はスキルを持ってるか?」


「ふむ、スキルか。持っているぞ」


「まじか!?」


「我のは、威風凛然いふうりんぜんという風系統の魔法の威力を上げてくれるパッシブスキルじゃ。そして、エミリートのスキルは多分アクティブスキルじゃな。恐らく相手を見て何秒か経ったら発動とかそんなところじゃろ」


フェルは、あの戦闘中にあのエミリートのスキルを見抜いたってことだよな。

流石はフェンリルだな。戦闘センスは抜群だ。


「スキルってどうやったら取得出来るんだ?」


「ふむ、スキルは確か…。教会にて神の天啓によってランダムに授かる…、だったか?我は先天的に授かったから分からんのじゃ」


なるほど。つまり、スキルには先天的に貰えるものと後天的に教会に行って神の天啓によって授かる2つの貰え方があるんだな。

そして、貰えるスキルはランダムか…。

だが特殊な力があるって言うだけで戦闘に置いてはアドバンテージになる。

是非とも、スキルは取得しておきたいな。


「だが、教会がある神聖国は今は閉鎖してると聞いた。だから、行くにしてもその閉鎖が終わらないと行けないのじゃ」


ふむ、なら仕方ないか。

スキル…か。頭の片隅に忘れないように置いておこう。


―――


「もうこんな時間か…」


誰もいない校長室に、私の声が木霊する。

既に私が出ていってからの仕事はして全て終わらしている。

特にこの時期が入学生のことでかなり忙しいのに、出ていってしまった私が悪いのだが、この量は流石にこたえた。

身体強化の魔法を使ってまで仕事はするものでは無いな、と反省をする。


「…だれだ」


窓の方から人の気配が一瞬する。

私は椅子から立ち上がり、窓の方へとゆっくり近づく。

だが、誰もいない。


「…気のせい、だといいが」


確か、私が帰ってきた時ぐらいからか、誰かに見られている感覚がたまにある。

気の所為だと思いたいのだが、こう何回も続くと流石に怪しく感じる。

少し、この学校にいる時は警戒しているか。

私は校長室を出て、自宅に帰るのだった。


―――


「みんなー!明日は何があるかわかるかー!」


いつにも増してうるさい先生の声が、Sクラスの人数が少ない教室に木霊する。

カルトとフェルはおー!と乗り気であり、男性陣とエマは軽くおー、と合わせている。


「今日はクラス対抗戦だー!!」


「「おー!!」」


「先生、早く説明を」


オーウェンが、喧しい女性陣たちの声を遮り、先生に説明を求める。


「今日でだいたい、君達が入学してから1ヶ月くらいかな?そこで君達と他のクラスと戦ってもらって実力を見せてもらおうかなーって!」


そんなアバウトな説明に俺は困惑する。

なんでそんなことを?


「まぁ、なんだ。俺たちが本当にSという名に相応しい実力かどうかを他の階級に見せつけるのが目的だ。他の階級には俺たちに不満を持つ奴らは何人もいるだろうからな」


レオが困惑していた俺に小さい声で、説明をしてくれる。

つまり、他の階級の人達と戦って不満が出ないように言い方は悪いが生徒を利用して生徒を黙らせるってことだな。


「ワンチャン、このクラスに来る子がいるかもしれないからねー。来たら来たで仲良くなー」


「もし、俺たちに勝つほどの人物がいたらそいつは無条件でSクラスに昇格出来る。この時期で本当に教師側が生徒の実力を誤って把握してないかも兼ねてるのさ」


再びレオの追加の解説。

なるほど、最終確認をして、なるべく不満が出ないようにする訳か。


「うんじゃあ!解散!明日の為によく寝とけよ!」


喧しい先生を後に、みんなは寮に戻るのだった。

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