第27話 依頼

 今日こそは勉強をしようと思ったある日、ダーグがいきなり部屋に入ってきて、「助けてくれ!」と叫んだ。

 かなり、焦った顔だったから、俺はダーグを落ち着かせ、話を聞くことにした。


「あぁ、すまない。取り乱した。実は、Bの階級の依頼を受けていたんだが…」


 ダーグが話したのは、Bの階級のポイズンスネークの討伐の際、屍毒の沼地で「魔人」を見つけたとの事。

 魔人?聞いたことがないな…。

 俺は家にあった本は内容を全て思い出せる程には読んだが、そこには魔人についての記載はなかったはず。


「わかった。けどなんで俺に?」


「俺は、アイタアルを見つけるために世界各地を歩き回ったって話はしたよな?」


 俺はその言葉に返答する。

 王国に向かう最中に、ダーグが教えてくれたことだ。


「ある街で魔人を見たんだ。そいつとは恐らく同じ個体じゃないだろうが、街で見た魔人は、女子供関係なしに人間を大量虐殺して、派遣された討伐隊までもみなごろしにして消えたんだ。そこで見た光景はまさに地獄と呼ぶに相応しかった。魔人と戦うには、集団だと、無駄に死人を出すだけだと思った。だから…。」


 だから、俺に助けてくれと言ったのか。

 確かに、その光景を見た訳じゃないが想像は出来る。


「じゃあ、屍毒の沼地に向かうか」


「…!あぁ!行こう!」


 取り敢えず、その魔人というやつをぶっ飛ばす前に準備しなきゃな。




「あれ?ノアさ…、ノアじゃないですか」


 ノルザさんはまだ慣れてない呼び方で俺の方を向く。

 ノルザさんには、敬称は要らないと伝えた。

 この先の学校生活で、ノルザさんと話している時に、他の生徒の前で、俺の事をノア様なんて呼んだ日には不審に思われてしまう。それで俺が、リーフレットだとバレたら目も当てられない。

 それだけはダメだと思い、ノルザさんは敬称をつけない呼び方を練習しているのだ。


「実はですね…」


 俺は、屍毒の沼地にて、魔人が出現したのと、ダーグの気持ちを伝えた。


「魔人…ですか」


 そう呟くノルザさんはなにか心当たりがあるようだ。


「知ってたら教えてくれません?魔人について」


「わかりました。私もそこまで知ってる情報はありませんが…」


 そう言うと、ノルザさんは話してくれた。

 1つ、魔人は魔族という種族と人間の間に生まれた所謂ハーフという存在だということ。

 2つ、魔人は生まれながらに魔力の操作に長けていて、魔法の知識がとんでもないこと。

 3つ、魔人は世界各地の何処かに不定期に現れ、人の街を襲って行くのだということ。


 ふむ、つまり屍毒の沼地に現れたということは、既に近くの街に被害が出ているのかもしれない。

 屍毒の沼地はダーグによると王国から2日程の場所にあるということを聞いた。なら、王国は襲撃を受けるにしても数日はかかるということだ。

 その前に倒せば、王国は軍を派遣しなくても良くなるし、周りの被害も少なくなる。


「あ、ところでノルザさんも魔人をぶっ飛ばしに行きます?」


「えぇ、行きますよ。ノアの護衛をエリーゼ様から承っていますから」


 よし、あとはフェルを誘って魔人討伐だ。





「我は行けない」


「そうか、何かやることがあるのか?」


「まぁな。魔人ぐらいならノアでも倒せることは出来るじゃろうからな。だが、油断はするなよ」


 フェルって実は、戦闘はあまり好まないタイプなのかな?

 まぁ、来れないのなら3人で行くしかないな。


 ―――


「王国に厄災の兆しあり、厄災を退けるのはまた厄災に似た力」


「本当にそのように予言されたのですか?」


 えぇ、と短く返事をしてベットに座り込む王女、またの名をマリス・ジーグボルトは片手に持っている杖を握り締める。


「厄災…ですか。なんとも曖昧な表現…。自然災害かも知れぬし、魔物の襲撃か、はたまた人間によるものなのか…」


 不安が不安を呼ぶ状況に、マリスは声を張って、大臣に向かって指示をする。


「厄災を退かせる厄災に似た力を探しましょう。もう既に、厄災は迫ってきているのかも知れません」


 大臣は、でっぷりとした体に鞭を打ち、駆け足で扉から出ていく。


がいてくれれば…」


 マリスは居るはずもないその人物を頭に浮かべ、ため息をつくのだった。


 ―――


「さて、必要なものは俺の空間収納に入れてねー、なるべく体力を温存しながら屍毒の沼地に向かおう」


 そう言うと、ノルザさんとダーグは各自の荷物を全て空間収納に入れる。


「じゃあ、魔人をぶっ飛ばしに行こうか」


 そう言うと俺たちは、手には何も持っていないまま、コンビニに行くような感覚で王国を出たのだった。




 俺は王国の図書館にあった、魔人についての記述がされた本を借りてきていた。

 屍毒の沼地に行くまでは、恐らく暇になるであろうと予想して魔人について勉強しておこうと思ったが、持ってきてよかった。

 魔人についての記述の量がかなり少なく、得られる情報は少なかったが、ないよりかはマシだ。


「しかし、仲間って言うのは心強いな!あの時の恐怖が蘇るけどよ、お前達と入れば勝てそうな気がしてくるぜ?」


「ふふ、そうですね。ノアさ…はいつも凄いことを起こして、解決しますから今回もきっと勝てますよ」


 …なんで、そこまで綺麗なフラグを立てるのかなぁ…、君達は…。







 ―――――――――

 日常のシーンが多くなってしまったため、3話文投稿しました。

 次回からは戦闘が増えると思います。

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