2章 魔人暗躍編

第24話 今後の方針

 ダーグの姉であるノラからダーグのことを頼まれてから、1日が経った。

 宿屋を2部屋借りて、その日は眠りについた。

 そして、今朝あの女の子とお父さんが宿屋にやって来た。

 女の子に事情を聞いたのだろう。

 俺に何回もありがとう、と言って帰って行った。

 その後にワイドさんも宿屋に来て、少しばかり雑談をしたあと、この街を救ってくれてありがとうございますと言って、お菓子とワイドさんが持ってるアクセサリーの複製品をくれた。

 かなり大まかだが、相手の魔力量を測れるらしい。

 あの時、ワイドさんが俺が盗賊を倒したのに気づいたのはこのアクセサリーのせいだったのか。

 まぁ、別に何も要らなかったが、貰えるものは貰っとこう。




 更に翌日、ダーグは未だ起きないが、きっと大丈夫だろう。なんたって姉が心の中に一緒にいるんだから。


「しかし、フェル様がフェンリルだったとは…、しかもあの魔法ときたら…


 そう呟くのは、ノルザさんだ。

 2日前からあの調子で、ずっと「フェル様が…」なんてことを言ってる。

 恐らくあのロボット相手にフェンリルになって戦ったのだろうな。

 俺もフェルの魔法は見たかった。


「まぁ、別に隠している訳ではなかったからの」


 そう言うが、俺的にはちゃんと隠して欲しいんですがね…。


「んぅ!んん!」


 そして、もう1人魔法の縄で縛られた人物がいる。

 この人は縛られた状態で叫んで、疲れないのかな…。


「ドワルト・ティーチーがもはやこんな状態で見られるとは」


 そういうノルザさんは、このドワルト・ティーチーさんを知っているようだ。


「この人は結構有名なんですか?」


「えぇ、大体半世紀くらい前に名を馳せた天才科学者とかいう人物で、王国の大々的な実験でミスをして死罪にされた人ですね。確か牢屋から脱獄して、今は指名手配中だったかと」


 天才「科学者」ねぇ…。

 この世界を見るに、機械はあまり普及していないように感じる。

 そんな世界で、「ロボット」を作り上げるなんてかなり凄い人だろうな。


「…その口に付いている魔法のガムテープみたいなの外してあげたら?先生」


「む?まぁ、ノアがそう言うなら」


 フェルが面倒くさそうに魔法のガムテープを取ると、ドワルト・ティーチーさんは叫び始めた。


「おい!!この儂をこんな目にさせて、許される行為ではないぞ!特にそこの小娘!この儂の…、儂のロボッ…!!むごぉ!!」


「ナイスだ、先生」


 俺の感情を察したフェルが、再び魔法のガムテープを口に付ける。

 むごむご言ってるドワルト・ティーチーさんは放っておいて、今後の方針について決めないとな。


「じゃあ、ノルザさん。今後の方針についてお願いします」


「えぇ、任されました。では今後の方針についてですが…」


 今後の方針で決まったことは、取り敢えず王国に到着しようということになった。

 王国はこのリーフグリードから10〜15日前後で着くらしい。

 そして、王立魔剣学校の入学式は今日から約2ヶ月後で、入学試験は1ヶ月後…え?


「入学試験なんて聞いてませんよ!」


「えぇ、言い忘れていましたからね」


 初めてノルザさんに悪感情を抱きつつも、不安を口から零す。


「大丈夫なんですか?その、俺勉強が苦手というか…」


「大丈夫と思いますよ。エリーゼ様に魔法を教えて貰っていたノア様なら尚更大丈夫でしょう。王立魔剣学校の入学試験は比較的簡単で、基礎を中心とした問題構成ですからね」


「ふむ、最悪我と念話をすれば良い」


「いやダメだろ」


 こうして今後の方針を決めた俺達は、出立の準備を始めるのだった。


 ―――


 ダーグ、起きて。

 ノアさんに置いてかれちゃうわよ。


 うーん…、姉さん…の声…?


「は!!!」


 あれ…、ここは?


「お、やっと起きたかダーグ」


 俺の目の前にいたのは、あの時戦った青年だった。青年はあの時の雰囲気とはまるで別人みたいで、俺に優しく言葉を話す。


「あ、あぁ、あの時の青年か…。すまない、姉さんはどこにいる?」


「ノラさんは死んだ返ったよ。最後まで笑顔で、強い女性だった」


 そう言う青年は、少し申し訳なさそうな顔でこちらを見る。


「そうか…。そうだったな。中途半端でアイタアルに頼んだんだった」


「うん、最後にダーグを頼んだよって言って笑ってたよ」


「すまない…、こんな俺を介抱してくれてありがとう」


 いいんだよ、それぐらい。と青年は笑う。

 それが俺には嬉しかった。


「だが、俺は人を殺しすぎた…。だから俺1人で…」


 言葉を続けようとした俺に、顔をずいっと近づけて青年は言う。


「俺は、ノラさんに頼むって言われたんだよ?ダーグを1人になんかする訳ないじゃん。これからはお前は俺の仲間だ」


 そう言って、俺の手を握って、青年は俺を部屋の外に連れ出す。


「あ、青年青年って言ってるけど、俺の名前はノアな!」


 ノア…か。

 仲間というのも悪くないものだな。


 ―――


「さて、ダーグも起きたことだし、王国を目指して行きますか!」


「「「おー」」」


「むごぉ!!!」


 おわぁ!ドワルト・ティーチーさんのことを忘れていた。


「確か、指名手配中って言ってましたよね?ならギルドに明け渡した方がいいんじゃないんですか?」


「えぇ、その方がいいですね。王国に連れていくとしても距離が距離ですし、指名手配中なので、旅の途中の資金にもなりますしね」


 むごむごと何か言いたげなドワルト・ティーチーさんを、紐で引っ張ってギルドに持っていく。

 恨むなら、過去に指名手配をされる様なことをした自分を恨んでください。




 ギルドに入ると、ザワザワと周りが沸き立つ。

 あちこちから「あれってまさか…」という声が聞こえてくるけど、そのまさかだよ。


「な!?ドワルト・ティーチーだと!!」


 そう叫んだのは、体格のいい冒険者風の格好をしているイカつい茶髪の男性だった。

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