第21話 仮構の命、花香の冥 その玖
「
フェンリルから放たれた嵐は、軌道上の悉くを巻き込み尚勢いは衰えることなくロボットを襲う。
伝説のフェンリルが最も得意とするのが風系統の魔法である。
風の女神であるニンリルからその神力の一端を借り受けるフェンリルは世界中を嵐による災禍を招くことも可能である。
「ふん、他愛もない機械だったのじゃ。神力の一端を使うまでもなかったか」
フェルの任意で嵐が止んで、そこには草木が禿げて土が丸出しの地面が広がっていた。
嵐に巻き込まれたロボットは全てのパーツが壊れて、ボロボロになり地面へと落ちていく。
その中には、神力の一端に触れて尚生き残ったドワルト・ティーチーがいた。
「ふは、よく生き残ったの。あのロボットが盾となったか」
生き残ったと言っても、足はもげて全身からは血が溢れ出している。
あと数分でこの男も出血死で死ぬだろうと、フェルは予想する。
「とりあえず延命はさせておくかの。我の魔法にも耐える機械を作れる人間だ。何かの役に立つやもしれん」
フェルは回復魔法をドワルト・ティーチーに施すと魔法の縄で拘束して、引き摺って連れていくのだった。
―――
あの青年は初見で
だが、それだけだった。
たしかに、魔法を有り得ない数を連発して放つし、特大の魔法を放てる。
だが、それだけなのだ。
飛んでくる魔法は対処は簡単、殴るか弾き返すか避けるかで、その後の対処も余裕とまでは行かないが出来る。
特大の魔法もため動作がデカく、避けれる。
恐らく、初撃の神速の一撃を防いだのは単なるまぐれだ。
戦闘センスの欠片もないあの青年を見て、そう思うしかあるまい。
「何を考え事をしてんだぁ…?」
あろうことか、戦闘中に考え事をして蹴りを許す始末。
こりゃあ、あの青年1人だけじゃ足りなさそうだ。
渾身の蹴りであの青年をぶっ飛ばして領主邸に侵入する。
侵入すると青年は、身体強化の魔法を行使して、体を補強したようだった。
そして、青年は、口の中の血を吐き捨てると宣言した。
「ぶっ飛ばしてやる」
空気が一変する。
気温が数度下がったかのよう錯覚させるほど、冷たい言葉を言い放った青年を見据える。
剣を持つ腕が震え始める。
まさか、俺が恐怖してるのか?
馬鹿な、落ち着け。あの青年は戦い慣れしていない。早めに殺そう。
「…くくっ!こいよぉ…!!」
俺は恐怖の感情を押し殺し、叫んだ。
―――
はは、俺は何を甘い考えをしていたんだ。
殺らなければ殺られる。
相手を負かそうなどと考えてる時点で、その勝負は負けを意味する。
考えを変えろ、殺すんだ、ダーグを。
俺の全てで。
短剣を取り出し、ダーグに向かって疾走する。
炎を短剣に纏わせ、更に加速する。
加速した剣を振り抜き、切り抜ける。
「くっ…!速ぇ…なぁ!」
チッ、防がれたか。
だが、まだだ。
上空に跳躍し、その間にアクアバーストを放つ。それと同時に上方向にステップウィンドで壁に足場を出し、ダーグに跳躍する。
アクアバーストを避ける動作に入ったダーグを捉え、炎の短剣で腕を焼切る。
「ぐぁぁ!!このやろッ!!!」
無造作に振りかざされた剣を弾き返し、雷魔法:ライトニングショットで顔面を狙う。
その隙に、再びダーグの後ろの空中に壁を作り出す。
ライトニングショットの対応に追われたダーグは、既に後ろにいる俺への対応が出来ずに背中にモロに炎の短剣を受ける。
声なく振り向いたダーグは、残る力を振り絞り反撃の剣を振るう。
だが、そんな瀕死での一撃が、身体強化をしている俺に届くはずがない。
「これで終わりだ!!!」
アクアバーストを放ち、それと同時に俺もダーグへ突進する。
アクアバーストが炸裂し、俺を隠すカーテンとなったアクアバーストの横を通り過ぎ、ダーグの後ろへ回り、炎の短剣で切りつける!
「とった!!」
その瞬間、謎の力によって俺の短剣は弾かれ、宙を舞った。
「…はぁ、はぁ…、おい、アイタアル…ナイスだ…」
そこに居たのは、ダーグを護るようにして巻き付く、巨大な蛇だった。
俺は距離を取るべく、後ろに跳躍する。
だが、巨大な蛇は俺を襲うことなくただダーグを護っている。
「くくっ…、あーぁ…、相手が子供だからといって舐めてたなぁ…。この傷じゃぁ…、ゴハッ!…ふぅ…、死ぬなぁ…」
炎の短剣で片腕が無くなり、最後のアクアバーストで腹が抉れたダーグは血を吐きながらも、何かを悟ったように話し始める。
「…最後の…俺の願いを叶えてくれ…。供物の数は少し足りないだろうがぁ…、それでもいい…。もう一度だけ、死ぬ前にぃ…、はぁ、はぁ…」
縋るように蛇に願うダーグは息絶え絶えに、言葉を発する。
「冥叶のアイタアル…!!姉さんを生き返らせてくれ!!」
―――――――――
冥叶は造語で、読み方は「めいきょう」です。
※通り抜けるを切り抜けるに修正しました
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