第19話 仮構の命、花香の冥 その漆

「お、おぉ、ノアさんではありませんか」


 少し驚く仕草を見せるも、直ぐに平静を取り戻したワイドさんが話しかけてくる。


「実はですね…」


 俺は、これまでにあった救った女の子のお父さんが、不当に捕まっていることやこの街に充満する花の香りの催眠のことを話した。

 そして、無実の証明を出来る材料を。


「なるほど…。商会にいる時もかなりの花の匂いがして変だと思いましたが、ノアさんの仕業だったのですね」


「えぇ、でもそれでこれだけの人が集まりました。そこで、女の子のお父さんの無実を証明したいのです」


「恐らく出来ると思います。実は、この街には数年前から、不当に逮捕されてすぐに処刑される…。そんな噂が飛び交っていましたが、恐らくその子のお父様もその関係でしょう」


「そうなんですか…、そんな噂が…」


 思わぬ収穫だな。これで更に街の人達の疑いを確信に持って行けるだろう

 下を見ると、中央広場に到着するという行動に感染した人達が目的の達成という解除方法で少数だが、催眠を解いていた。


「では、ノアさんは皆さんの催眠を解いて上げてください」


「はい、じゃあお願いしますね、ワイドさん」


 俺は天に向けて手を翳す。

 左には雷。右には嵐。


 そして、放つのは二重詠唱!


「サンダーストーム!!」


 天を貫く勢いで飛び出した雷を纏う嵐は、一直線に空に登っていく。

 そして、最後に巨大な大爆発と爆発音が炸裂する。


「な、なんで俺は広場に…?」

「私…何やってたんだろう」

「あれ?ご飯食べてたのになんで?」


 よし、全員とは行かなかったが9割型は催眠を解いた!


「皆さん、いきなりですが聞いてください」


 ワイドさんが拡声魔法を行使して、話し始める。

 …少し拡声魔法の効果が薄いか。原因は魔法を使った本人の魔力量が少ないからだろう。

 俺は、身体強化の魔法をワイドさんに付与する。

 その影響で魔力量が多くなったワイドさんの拡声魔法の音が大きくなる。


「つい先日、広場である男性が逮捕されました」


 ワイドさんは言葉を紡ぎながら、丁寧に話を進める。

 その雰囲気を、感じ取ったのか街の人達は静かにワイドさんの話を聞く。


「その男性の逮捕理由が、モモンの窃盗でした」


 その言葉を聞いた街の人達はザワつく。

 そりゃそうだろう。モモンはここ最近、この街の店には入ってきていない。


「そう、モモンの収穫時期は既に過ぎている。だが、この街に時期外れの高級なモモンが入ってきていた。それは、何処か。領主様のところです」


 その瞬間、ザワつきが更に大きくなる。

 俺は、モモンが窃盗された事しか伝えてないが、ワイドさんが更にその証拠を補強してくれたようだ。

 そして、街の人達は、ワイドさんが言ったことが言ったことが本当ならば、今までの領主に不当に逮捕されていた人が何人もいたのでは無いか?と疑っているだろう。


「皆さん、こ「危ない!!」の…?」


 その瞬間、ワイドさんの目の前で火花が飛び散り、黒影が後ろに跳躍する。


「チッ…、流石に強えなぁ…」


 咄嗟に身体強化と魔法剣を行使して何者かの襲撃を阻止する。

 空中に足場を作り、そう呟いたのは真っ黒な服に身を包んだ男だった。


「こんな広場であんな爆音と人が集まってたら、バレバレだぜぇ…。漸く、殺れるぅ…」


 俺は、その言葉を無視してファイアショットを放つ。そして、時間にして1秒遅らせて土系統魔法のロックショットを放つ。


「くくっ…、そんなフェイントには引っかかんねぇぜぇ?」


 黒服は、ファイアショットを打ち消すとロックショットを拳で砕く。

 俺は少しばかり、黒服相手の警戒レベルを上げる。

 あのフェイントを初見で見切るのはかなりの腕前だろう。

 一刻でも早く戦いたいと、感情を表に出す黒服の男は興奮していて、周りが見えてないと思ったが今のを見るにそうでは無いらしいな。


「来ねぇならこっちから行くぞ…!!」


 男が全速力で突進してきた。


 ―――


「ようやく、アイツらがやり始めおったか」


 老人が機械仕掛けのロボットに乗り込み、そう呟く。


「…ここで逃げたとしても、あの男は追ってくるだろうな。なら、ここであの男を殺してしまえばいいのではないか?」


 老人はロボットを操作しながら、自問する。

 そうだ、我が何年もかけて作り上げたこの最高傑作が、いくら強いとはいえあの男に負けるはずがない。

 雑貨店や王国から密かに、大量にマジックスクロールを買い占め、このロボットに導入してあるのだ。

 マジックスクロールの分だけ魔法は打ち放題だし、このロボットの膂力は申し分ない。


「ふははは、あの若造め。今から本当の地獄を見せつけてやるぞ」


 老人、否。天才科学者ドワルト・ティーチーが地下深くから悪意を持って動き出した。


 ―――


「お前は誰なんだ!!」


 そう叫ぶ青年を見て、更に自分の口角が上がるのが分かった。

 俺の神速の一撃クリティカル・スレイドを初見で防ぐあの動体視力と剣に携わっていないと有り得ない腕の力。

 そして、魔法攻撃のディレイフェイント。

 それを見て俺は確信する。


 こいつ1人の死でこの地獄は終わるだろう、と。


 死闘の中、いままでに無いほど研ぎ澄まされた剣戟で男はノアを追い詰める。

 青年が放つ魔法を野菜のように切り刻み、距離を詰めていく。


(チッ…、デケェのがくる)


 そう男が、察するとノアが今までに無いほど巨大な魔力を右腕に集中させる。


(ここだと、不味いか)


 男は空中に足場を作り、ノアと距離を取るために離れる。

 ノアは準備を終えた特大のアクアバーストを男に放つ。

 男は、更に思考を加速させ、すんでのところでアクアバーストを避け、そこから直ぐに神速の一撃を繰り出す構えに入る。

 恐らくあの威力の魔法だ。反動があるだろう。


神速の…クリティカル


 男が攻撃を繰り出そうとしたその時、地面が揺れ始めた。

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