第18話 仮構の命、花香の冥 その陸

 未だ夜の喧騒は続いているが、証人を見つけることぐらいフェルには朝飯前だろう。

 今、フェルはと言うと、顔を魔法で変えてあの女の子のお父さんの無実を証明する人を探している。

 この街に来てからの数日間で起こった出来事を振り返って、恐らく、あの人なら無実の証明を出来るんでは無いかと目星はつけている。

 だが、如何せんこの街には仕事が出来る兵士が何人もいるようで、街中にはもう既に俺たちの手配書が貼られている。

 なので、顔を変えれるフェルに頼んだというわけだ。

 ところで、俺とあとで合流したノルザさんはと言うと、任意で作動出来る特大でド派手な魔法を内蔵したコアを、未だかなりの数の人がいる街の中心で、中央の巨木の上にセットしている。

 コアとは、丸い球体で、中に魔法を三つ内蔵できる魔道具だ。

 この世界では、このコアは爆発の魔法を内蔵して爆弾として使っているようだが、俺が今回内蔵したのは以下の魔法だ。


 1つ目は、コアを上空まで打ち上げる風魔法:ライズウィンド。

 2つ目は特定の匂いや煙を辺りに振りまく風魔法:サファケイト。

 3つ目はサファケイトをこの街中に広がるように満遍なく振りまくための風魔法:ストーム。


 これらの3つが内蔵されている。

 ではなぜ、俺はこんなことをしているのかと言うと、街の中心になるべく沢山の人をを集めたいからだ。

 その効果を逆手に取り、街中の人を隈無くこの中央の広場に集めたら、大きな衝撃乃至ないし中央の広場に来るという目的達成で催眠を解除して、そこで女の子のお父さんの無実を証明するという魂胆だ。

 人間というのはそもそも、他人に思考を流されやすい生き物である。なので、少しでも女の子のお父さんが無実であると言う流れを作ればもう止められないだろう。

 そのまま、領主に講義しに行くのもいいかもしれない。

 しかし、考えてみると、先程の夜中なのにも関わらず街の人の殆どが外に出てきて、今尚活動してるのは、この花の血の匂いのせいだったんだな。


 よし、ちゃんとコアをセットできたな。

 じゃあ、あとはフェルが証人を持ってくるだけで、この作戦は実行に移せるだろう。


「じゃあ、俺たちは少しの間隠れていましょうか。この名付けて「擬似花火で街中の人全員集めて、お父さんの無実を全員に証明しようね作戦」がちゃんと遂行出来るように祈りながらね」


「へんてこな作戦名ですね」


 ノルザとノアは夜の暗闇に潜んでその時を待つのだった。


 ―――


 まずい、老人はその言葉で脳内を埋め尽くされていた。

 捉えたはずの、あの3人組が脱獄したと部下から連絡があった。

 しかも、その3人はこの街から出ていくことなく、なにか企んでいるらしい。

 この街から出ていかないのは僥倖だったが、なにか裏で企んでいるのが気になる。

 だが、私は秘密兵器がある。

 最悪、3人組の捕縛に失敗しても、秘密兵器であの男を踏み潰し、王国に逃亡すればよい。

 仮に倒せなくとも逃げるだけなら可能であろう。

 そうだ、あんな奴に従わずに最初からこいつを使っておけばよかったんだ。

 このロボットを見て、王国が儂を逃がす訳がない、再び王国で成り上がり、俺の人生は薔薇色に変化するだろう。

 こんな簡単な事だったとは、今まで気づかなかった俺に笑えてくる。


 ―――


「ふむ、こりゃぁ、花香が広がりすぎてるなぁ…」


 正門の上に立つ男は、冷静を装っているが内心焦っていた。

 今回は、兵士から花香が広がったようだな。

 だが、まだ巻き返せる。元凶のあいつら3人を殺して1日もすれば収まるだろう。

 そして、あいつらを供物に捧げ、ようやく終わる。この長い地獄がな。


「くくっ…、ふははははは!」


 男の高笑いがリーフグリードの街に木霊した。


 ―――


『ノア、物証はないが証言なら出来る準備は出来た。本当に成功するかの?』


「あ、先生。多分成功すると思う。見る限り結構慕われてたし、俺の方でも証明出来る材料はある」


 念話で話しかけてきたフェルに返答する。

 この作戦のキーはその証言をしてくれる人だ。

 俺自身はその現場には居合わせてはいないし、全くの無関係だが、女の子と約束したのだ。

 この花の血の匂い有効に利用させて貰う。


「じゃあ、中央の広場に連れてきてくれ」


『了解なのじゃ』


 では、擬似花火で街中の人全員集めて、お父さんの無実を全員に証明しようね作戦、開始だ!


 まずは1つ目の上空に打上げる風魔法:ライズウィンドを発動させる。

 控えめな音と共に空中へ打ち上げられたコアはやがて重力に逆らう力を無くし減速を始める。

 ここで、2つ目の花の血の匂いを発生させる風魔法:サファケイト。

 よし、ちゃんとばらまけているな。

 そして、3つ目の魔法はその匂いを街の中心から離れた催眠効果の薄いところにも行き渡らせるように風魔法:ストームが作動する。

 よし、完璧だ。

 そして、このストームにはもうひとつの役割がある。

 それは、派手というところだ。

「街の中心で何かが起きた」そう思ったら、それが感染源になり、街の中央へ向かうという行動に移るだろう。




 そして、数分後にはもう既に広場の足場が見えなくなるほどに、人が集まってきていた。


 …少し匂いを散布させすぎたか。

 既に、アクセサリーの許容量は超えて壊れて使い物にならなくなってしまったので、ノルザさんにまで影響が出てる。

 ノルザさんは街の中央の広場へ行くという行動に感染したようで、巨木から降りようとする。


「ごめんなさい、ノルザさん!」


 身体強化の魔法を行使して、ノルザさんにチョップする。

 するとノルザさんは意識が戻ったようだ。

 なるほど、この程度の威力で催眠が解かれるのか。


「あ、あれ私…」


「花の血の匂いで催眠にかかっていたのでチョップしました、すみません」


「あ、いや大丈夫ですよ、ノア様。しかし、ノア様は催眠は大丈夫なのですか?」


「うん、大丈夫みたい。解毒の魔法を常に行使してるからね」


「あ、常に行使…ですか…」


 素っ頓狂な顔でなにか小声で言ってるノルザさんを無視してフェルが来るのを待つ。

 多分もうそろそろ来るはずだ。


『もうすぐ着く。準備しておれ』


 来た!

 俺は巨木を降りて、人が群がる場所の少し上の方で、空中に足場を作り着地をする。

 それと同時に金髪で、背格好の伸びたフェルが空中を走ってきた。


「こやつでいいんじゃろ」


「あぁ、助かったよ、先生。」


 フェルに抱き抱えられてやってきたのは、ウォーロー商会の商会主である、ワイド・ウォーローさんだった。

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