第16話 仮構の命、花香の冥 その肆

 俺たちは今何をしているのかと言うと、牢屋でトランプをしています。

 空間収納に入れて置いた木で作ったトランプで、フェルとスピードをして遊んでいます。


「いやなんで???!!!」


 最後の1枚をフェルより早く置いたと同時に立ち上がって叫ぶ。

 本当になんで俺たちは牢屋にいるんだ?

 いや、記憶喪失とかではなく理解が出来ない方の「何故」なのだ。


「私が、ステップウィンド使っちゃったからですねかね…」


 いや、絶対にその線はないと思う。

 昨日、ノルザさんが泥棒を捕まえるために放った魔法はステップウィンドという魔法で、空中に空気を圧縮させて、足場を作る魔法だった。

 ステップウィンドとは俺がグライドとの戦いで空中の足場を作りフェイントをかける時にいつも使うあの魔法だったのだ。

 あの時に理解出来なかった自分が不甲斐ない…。

 だが、そんなことはこの牢屋にぶち込まれる事件の前に置いてはどうでも良くなった。


「確か、お昼時に宿屋で休憩していたら鎧の兵士が来て、あの泥棒が捕まる時に俺たちの目の前で、男が「助け…」って言ったから仲間と疑われて牢屋に居るんだったっけな」


「まぁ、そうじゃな。おい、ノア。もう1戦じゃ」


「ハイハイわかりましたー、どうせ俺が勝つけど」


「ぬ、言うでは無いか。では我も本気で行くとしよう」




 時間はあれから数刻経った。俺とフェルはスピードも飽きて暇になり、横になっている。ノルザさんは眠たそうにウトウトしている。すると、突然鎧の兵士達が牢屋の前に来た。


「お前達について色々調べさせて貰った。するとどうだろう、お前達は人殺しをしていたではないか」


 …は?人殺し…?

 まさか、あの盗賊を倒したところを見られていたのか?


「あれは盗賊でした!善人が襲われそうになっている所を助けて罪になるなど、おかしな話ですよ!」


 ノルザさんが講義するが、一切耳を貸さない鎧の兵士達。

 しかし、あの平原には誰も居なかったはずだ。

 すると、商人のグリッドか冒険者のユニットの仕業か?


 いや、考えにくいな。

 あの時、俺が盗賊を殺していなかったらあの2人は確実に死んでいたし、俺が盗賊を殺して近づいて行った時に死に直面し、憔悴していた。


 ならば、どこかから監視されていたか…?


 だが、見晴らしのいい平原で、俺とフェルとノルザさんに感ずかれないように監視するのは不可能に近いはずだ。

 なら恐らく、魔法とは違うまた別の力で?

 そんな物がこの世にあるのか?


「お前達はこのリーフグリードの街に相応しくない穢れた存在だ。その穢れ、死を持って浄化してくれよう」


 そういうと鎧の兵士は戻って行ってしまった。

 あまりにもトントン拍子に進んでいく展開が、あまりにも怪しい。

 あまり目立ちたくはないし、騒ぎを起こしたくないが、死刑になるくらいなら仕方ない。


「脱獄するか」


 ―――


 ノア様はどんな状況になっても比較的冷静だ。

 とても15歳とは思えないが、あの2人に育て上げられたので、特別変だとは思わなかった。

 しかし、流石に死刑と聞いた時には私も取り乱してしまったが、ノア様は鎧の兵士が立ち去った瞬間に、脱獄の準備を始めたのだ。

 私は再び、さすがはあの2人の子供だなぁ、と素直に感心した。


 脱獄の手順は至極簡単で、壁を貫けば出れるよね?という結論に至り、ノア様が魔法の準備をし始める。

 あれは…、上級の水魔法であるアクアバースト。威力は申し分なく、壁は簡単に貫けるだろう。


「じゃあ、壁を貫いたら街に戻って、ノルザさんは宿屋から荷物が押収されていなかったら持ってきてください。そして、見つかる可能性を低くしたいから、各自別々に飛び出して、俺たちがリーフグリードに入ってきた門とは本体の平原に待ち合わせだ。2人とも分かったか?」


「分かったのじゃ」


 しかし、フェル様も偉く落ち着いている。

 子供2人して冷静でいるのに、私だけが上手くいくか不安になっているのは、2人の護衛として失格だな。

 気合いを入れなくては。


「はい、いつでも大丈夫ですよ!」


「じゃあ、行くよ」


 そして、ノア様のアクアバーストが放たれた。




 時間にして数十分、私は宿屋に忍び込んで荷物を持って部屋を出た。

 あの兵士たちは、私達の荷物を調べもしないで牢屋の中に入れたのか。


 となると、私達自身になにか死んで欲しい理由があるのか?


 いや、ここで考えていても仕方がないな。

 恐らく宿屋の店主には迷惑をかけたと思うので、金貨を置いてきた。

 宿屋を出ると、街は夜とは思えない喧騒でザワついている。恐らく、私達が脱獄したのが気づかれたのだろう。

 鎧の兵士が何をあそこまで私達に執着するのか分からないが、ここは逃げるしかないだろう。

 急いで正門とは反対の平原に到着すると、もう既にフェル様がいた。


 そして、ノア様が…。


 ノア様が全く来る気配がない。


 ノア様に限って兵士に捕まるとは考えにくい。となると、なにか不慮の事故に巻き込まれた?

 ノア様を探しに行くか…?

 でも、探しに行って入れ違いになったらどんどん事態は悪化していく。


 …ここで待つのが最善か。


「ノア様、どうか無事でいますように…」

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