第15話 仮構の命、花香の冥 その参
ウォーローさんが応接室に戻ってきた。
随分と早かったが、もう複製は出来たのだろうか。
「遅くなってしまいすみません。複製品が1枚完成したのでとりあえずノアさんに見て頂こうかと」
そう言うと、ワイドさんから
「ふーむ、複製品は威力の減衰だけのようですね。追尾の方の性能が悪くならなくて良かったです」
元のマジックスクロールの中に入っている追尾水銃と比べるとかなりの威力減衰があるようだが、これでも取り敢えずは役に立つだろう。
「いきなりで悪いのですが、この商品の契約内容はこちらでいかがでしょうか?」
そう言ってワイドさんが机に紙を置いてこちらに向ける。
内容はこの商品の収入の割り振りが書かれていた。
ノア:20%、ウォーロー商会:75%、商業ギルド:5%と書かれていた。
「商業ギルドとはなんですか?」
「商業ギルドというのは、商会の建設や売り物をする時に必要なカードを発行するところです。ギルドで貰った冒険者カード似たようなものですね。そして、特許の申請も承っていて、特許を取るためには売上の5%を持っていかれてしまいますが、その代わり厳しく管理してくれるんです。」
なるほど、だから商業ギルドに5%を持っていかれているのか。
てか、特許って…。確かに俺のオリジナルの派生魔法だからそうなんだろうけど。
まぁ、俺的にはこれで全く問題がないな。
むしろ20%とか貰いすぎなんじゃ…、と思ってしまうほどだ。
だって俺はただ、マジックスクロールに数分で魔法を込めただけだし。
「これで大丈夫ですよ」
だけど、損はしたくないのでこのままでいいだろう。
「そうですか、良かったです。ではこちらの契約書にサインをお願いします」
サイン…か。どうせならかっこいいサインがいいな。英語は…理解出来ないだろうし…。
うーん。
「はい、ではこちらの内容で進めていきますね。売上の20%に関してはノアさんのギルド内の口座に毎月振込みますので確認してください」
俺は結局、2文字で「ノア」と書いた。
だって、苗字使えないし仕方ないよね!
―――
「それでは、皆さん、ご注目頂きたい」
拡声魔法で自身の声を1階で賑わっている人々に向かって伝える。
ウォーロー商会の2階へ続く階段の隣に少し高い舞台があり、そこで話す声に気づいた人達が、拡声魔法を使った者、つまりワイド・ウォーローの方に目線を向ける。
「ここにありますのは、私が新しく手に入れた複製品の攻撃系のマジックスクロールです。その威力を是非、ここにいる皆さんに体験して頂きたい」
ノアさんから直接聞いた話によると、恐らく人を殺せる、または瀕死に出来るほどの威力があること。また、それは私基準で一般的な魔力量の人間は狙えないとこのと。
そして、使用者の魔力を感知して敵対対象を自動的に選択して追尾すること。
主に、この3つがマジックスクロールに込められた魔法の特徴だろう。
それの複製品だから、威力は抑えられていると思うが、一応かなり大きい魔力を保持された案山子と人型の小さい魔力を保持した案山子を設置し、私と案山子の間に巨大な木箱を置いて、このマジックスクロールの実演会を行う。
人に物を売るにはまずその商品の最大の特徴を見せねばならない。
「では、皆さんがこちらを向いたところで、使いたいと思います。あちらにあるのは大きい魔力を保持した案山子と小さい魔力を保持した案山子の2種類があります。そして、この魔法は相手の魔力を感知して自動的に追尾する攻撃系マジックスクロールです!」
私は拡声魔法を解除し、マジックスクロールに魔力を送り込み、使う。
すると、マジックスクロールから成人男性の頭くらいの水球が浮かび上がる。
その水球は最初はフワフワと浮かんでいたが、ワイドが案山子を連想した瞬間、目の前の巨大な木箱をグルっと大きく半回転して、大きい魔力を保持した案山子の体を貫いた。
そのままウォーロー商会の壁を貫いて水球は霧散した。
(え…)
「「ええぇぇ!?」」
ワイド含め、そこにいた全員が声を出して驚いたのだった。
―――
ここにいる全員がマジックスクロールの威力にザワついている中、ウォーロー商会を出たノアは思い出す。
「あれ、俺ってクリーンのマジックスクロールを買いに行く予定だったんだよな…」
気づけば、既にお昼時だ。
…これは素直に謝るしか無さそうだな…。
俺は早足で宿屋に向かうのだった。
「あ!ノア様!遅いじゃないですか!」
部屋に戻るとノルザさんが、ちょうど部屋から出ようしていた。
俺を探しに行こうとしていたのかな?
「すみません…、クリーンのマジックスクロールを買おうと思って雑貨店に行ったら何故かピアスを買ってました…」
ここは素直に言おう。
変に誤魔化そうとするから、人はもっと怒るのだ。ならいっその事素直に言ってしまおう。
「あ、やっぱり!フェル様の言った通りですね」
「え?」
予想していた言葉とは全然違う言葉がノルザさんから出てきて戸惑う。
「ふむ、そうか。だがノアは自力で解いたようだな」
ん?話が読めないぞ?
自力で解いた?なにを。
「実はこの魔道具が壊れた原因なんじゃが…」
その言葉を聞いた時、俺の中にあった違和感の正体がハッキリと分かった。
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