第14話 仮構の命、花香の冥 その弐

「初めまして、私はワイド・ウォーローと言います。この街でウォーロー商会を経営しております」


 そう自己紹介してくれたのは、ワイド・ウォーローさん。

 結構がっちりとした体型で、年齢はまだ40歳前後だろうか。かなりイケおじではないか。

 そして、盗賊から救ったグリッド・ウォーローのお兄さんでもある。


「人伝いで聞いたのですが、何か物凄い魔法を使うとか何とか…」


「うーん、その魔法は私の護衛であるノルザさんが使いますよ。俺は守って貰ってるので大したことはしてません」


「ふーむ、なるほど。なら、そういうことにしておきましょう」


 え…?俺の嘘見抜かれてる?

 なにこの人怖い。


「折角なので、うちの商会に来ませんか?大したことは出来ませんが…」




『ウォーロー商会』というデカデカと飾られた看板に俺は思わず感動する。

 恐らくこの街で領主邸に次ぐ建物の大きさの商会で、中は色んな小さい商会とお客さんが売買をしている。


 ワイドさんと一緒に商会の中に入っていくと、周りから次々とワイドさんへの感謝や挨拶が飛んでくる。


「ワイドさんはすごい人気ですね!こんなに慕われてるなんて」


「えぇ、私の長所は、自分で言うのもあれなんですが、人を惹きつけるところだと思っていますので」


 なるほど、確かに、ワイドさんはかなりホンワカした雰囲気を醸し出していて、話しているとなんだか心が暖かくなってくる。

 心を許して接してしまうのも分からなくもない。


「さっ、どうぞこちらへ」


 ウォーロー商会は1階がデカいフリーマーケット場みたいな感じになっていて、2階はウォーロー商会が扱っている宝石類や生活用品、日用品などが並んでいる。

 そして、俺は2階の奥にある応接室へと招かれた。


 応接室は、中央に机があって、それを囲むように椅子が置かれており、いかにも普通な感じだが、壁には絵画や宝石の高そうな物から、部屋の角には観葉植物などがある。

 そして、俺は椅子に座るなりウォーロー商会の感想を述べた。


「凄いですね、ここは。本当にここだけで生活に必要なものが全て揃ってしまいそうです」


「そう言って貰えて嬉しいですよ」


「で、俺をここに呼んだのは態々感謝するだけって訳ではないんですよね」


「はは、バレていましたか」


 そう言ってなぜ俺を招いたのかを教えてくれた。

 実はここのウォーロー商会は冒険者御用達のマジックロールを売っていないのだそうだ。

 そして、理由は分からないが、マジックスクロールの入ってくる数がここ数ヶ月でかなり減ったのだとかで、このリーフグリードで唯一マジックロールを売っている雑貨店がマジックスクロールを値上がりさせ続けているという。

 それに困った冒険者が何人もリーフグリードから別の街に行ってしまってワイドさんは困っているということだった。


「なので、ノアさんに特別なマジックスクロールを売っていただけないかと思いまして…」


 というか、俺がワイドさんの弟を助けた本人として話を進めていくんだな。

 まぁ、俺も問題になるくらいなら秘匿した方がいいと思うが、バレても悪用されないならまぁ、いいか。


「理由は分かりましたけど、俺はマジックスクロールの作り方なんて知りませんよ?」


「いえ、元となるマジックスクロールに呪文を入れて、それを複製すればこちらで量産は可能ですよ。複製のマジックスクロールは質が落ちますが、魔法とは無縁の戦士達にとっては弱くても攻撃系の遠距離魔法は持っておきたいですからね」


 なるほど…。

 確かに一理あるな、剣一本で生きてきた冒険者は武器が壊れてしまっては逃げることも出来ない。

 だが、魔法があれば敵の隙をついて魔法を撃てば、逃げる猶予が生まれる可能性がある。


「分かりました、ではマジックスクロールに俺のオリジナルの魔法を入れましょう」


 そう言うと、ワイドさんは顔をキラキラさせて机の下に置いてあったマジックスクロールを取り出した。





「入れ終わりましたよ」


 マジックスクロールに魔法陣を組み込むだけでだったので、案外簡単に出来た。

 入れる魔法は、冒険者が武器を失って逃げる選択肢を取った状況を考えて、このマジックロールを使うだけで相手に勝手に飛んでいくこの追尾水銃ホーミングガンを入れた。

 因みに、このマジックスクロール用の追尾水銃ホーミングガンは使用者の魔力を感知して、何を狙えばいいか勝手に決めて放たれる。

 ついでに、ワイドさんを基準とした人間並みの魔力の持ち主を狙わないという制限を付けてみた。

 複製されるとはいえ、この魔法の元になっているのは圧力水銃プレッシャーガンだ。

 圧力水銃は元々アクアバーストを参考にしているため、派生されて複製されようが割とバカに出来ない火力を放てると思う。

 恐らく、一般的な人間に使ったら死んでしまうだろうから、この制限をつけた。

 俺の作ったマジックスクロールで死人が出たら困るしね。


「おぉ、ありがとうございます。早速1つ複製させてきますね。5分少々お待ちください」


 そう言って、ワイドさんは応接室を出ていった。


 ―――


 ここは、ウォーロー商会の隣にある建物の商品開発部の奥にあるマジックスクロールの研究所だ。


「おぉ!かなり高度な魔法を入れましたね」


 そう言うのは、マジックスクロールを専門として研究をしている男、アイガードだ。


「そんなに…なのか?」


 ワイドはアイガードがここまで興奮をしているのを初めて見たので、少々驚きつつも質問する。


「あぁ、それに既存の魔法ではなく術者によって新しく作られた…、いや派生させて作られた魔法だ。魔法陣はアクアバーストに似ているが、全く効果が違う。しかしここをほんの少し弄れば効果も変わるのか…、これは新発見だ。それにここは今まで見た事がない魔法陣の形だ。うぅむ、興味深い」


 早口で喋るアイガードをみて、やはりあの少年は凄かったのだと改めて自覚する。

 しかし、本当にあの時にこの魔道具を買っておいて良かった、相手の魔力数値をかなり大まかだが測れる魔道具を。


「あぁ、取り敢えず1個だけですが複製は出来ましたよ。どうぞ。」


 仕事が早いアイガードは、複製品のマジックロールをポイッと投げると、元となるマジックロールに熱中してしまった。


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