第13話 仮構の命、花香の冥 その壱
「おい、最近の供物の量が少ねぇんじゃねぇか?」
暗く黒い、日差しの届かない部屋で老人は怯えるように男を見すえる。
男は、怒気を孕んだ声で、イラつきを隠そうともしない態度で、しかし、どこか冷静で落ち着いた声で老人を見据える。
老人は、最近の量が少ないんじゃなくて、そっちの要求量が増えたんだろ、と言いたいが言えば殺されて供物にされるのを察している老人は必死に言い訳を考える。
「す、すみません。必ずや供物の量を増やしますのでどうか…慈悲を…」
結局、いい言い訳が思い浮かばずその場しのぎの適当な言葉を並べる。
「はっ、そうかよ。なら頼むぜぇ…。なんなら、つい最近来たあの貴族風の女と子供2人を連れてきたら数年は免除してやるぜ」
老人にとってはまたと無い好機だった。
老人はその言葉を聞き、部屋から出ていく。
「ありゃぁ…、高級食材だぜぇ。なぁアイタアル」
部屋の奥、日差しが入り込まない暗闇で金色の眼だけが輝く。
「もう少しだ…。楽しみだぁ…」
―――
朝の日差しが、カーテンの隙間から零れて部屋の中を照らす。
眠い目を擦りながらも、宿屋の庭に出てかなり威力を抑えたウォーターボールで顔を洗う。
「あー、我にもそれくれー」
フェルが眠そうな顔で、こちらを見てくる。
右腕の人差し指を顔に向けて、ここに撃てと指示している。
フェルにも軽くウォーターボールを放ち、顔をタオルで拭う。
しかし、昨日のあの食堂での喧嘩はなんだったのか…。
まぁ、そんなことはどうでもいいか。
「ふー、じゃあ今日は王国に向けて頑張るぞー」
「すみません、私のアクセサリーが壊れてしまったので、あと1日だけここに滞在しませんか?」
宿屋の掛け布団を畳んでいる最中にノルザさんは申し訳なさそうにそう言ってきた。
「もちろんいいですが、アクセサリーくらいなら王国で直せません?」
「その通りなのですが…、このアクセサリーには毒や痺、その他諸々何らかの空気中の異常を知らせてくれる物なのですが、これがないとノア様とフェル様に危害が及ぶ可能性があり、私はここで直したいです…」
そんな便利なアクセサリーがあるのかぁ。
だが、そういう理由を聞かされて直さない訳には行かないな。
「では、直してから移動開始しましょう。それで、俺はなにかお手伝いすることとかありますか?」
魔道具アクセサリーの修復だ。
魔道具はかなり複雑な設計をしていると、エリーゼに聞いたことがある。
「そうですね…、街にある雑貨店でクリーンのマジックスクロールを買ってきて欲しいのですが、大丈夫ですか?」
「分かりました。先生も一緒に行くか?」
「ノルザの修復をみてるから、我はいい」
「そうか、なら行ってきますね」
そう言って、ノルザさんからお金を渡してもらい、宿屋から出かけた。
「うーむ、なんかここだけ周りと雰囲気というか、空気が違う気がするんだよなぁ」
そう呟いた場所は、街の中央にある広場だ。
この広場に街のマップがあるため、寄ったのだが、何かしらの違和感に気づいた。
しかし、少し考えても何も浮かばなかったので、俺は雑貨店に向かうことにした。
雑貨店は意外と広場の近くにあるのだが、お客さんの数が少し少ないな。
雑貨店は取り扱う数が多いのかお店としては結構な大きさだ。
人数が少なく、お店は大きいのでかなり空いているが、この方が買いやすくてちょうどいい。
「さて、クリーンのマジックスクロールは…」
「この、ピアス超よくない!?」
「確かに!可愛いね!」
「!?」
女性の2人組が急に大声で話し始めるからびっくりしちゃったじゃないか。
この店内の大きさと、この人数の少なさで、声がお店の隅々まで行きわたる。
「買った!」
「じゃあ、私も買うー!」
ピアス…か。
前世では何もオシャレを気にしたことはなかったな。
折角の機会だしピアスを買っていこうかな。
色は、赤と白と青と黒の4種類ある。
あの2人組は赤と黒を買っていったようだ。
俺は水魔法が得意だから青色にしよう。
「これくださーい」
……なんで俺はピアスを買っちゃったんだ?
雑貨店を出た瞬間に、自分の馬鹿な行動に疑問を覚える。
しかも、あのピアスくそ高いじゃねぇか!
クリーンのマジックスクロールを買うお金が無くなったか…。
ノルザさんにどう言い訳しよう…。
「あれ、君はもしかして弟を助けてくれた人の仲間かな?」
途方に暮れた俺に、そう話しかけてきたのは、何処かで見たことある顔の人物だった。
―――
「ノアは大丈夫かのー」
「大丈夫ですよ、最悪なにかがあってもノア様なら解決できるでしょうから」
ノルザが、アクセサリーの修復の為に分解をしている隣で、フェルは椅子にもたれ掛かり、伝説の獣とは思えない姿で寛いでいる。
ノルザはアクセサリーを分解しながら思考の海に潜っていく。
しかし、何故このタイミングで壊れたのでしょうか。
今までは人体には影響がないレベルの異常を吸い取っていて、それが蓄積して、壊れることはたまにあったのですが、このアクセサリーのメンテナンスを行ったのはあのお2人の家以来。
こんな短期間で蓄積されるはずもなく、しかし、アクセサリーは反応をしないまま壊れて…。
つまり、この街にはなにか空気中に人体には影響しないし、アクセサリーには反応しないがこの魔道具が異常として蓄積した何かがあるのかもしれない。
調べてみたいが、明日の朝にはここを発つつもりだから、この調査は行うとしても少なくとも数年後くらいにはなるでしょうね。
「おーい、ノルザー」
「あ!はい!」
「我が、このアクセサリーの異常の原因を探知したかもしれないから、クリーンのマジックロールを使うのを待って欲しいのじゃ」
そう言うと、フェルは真剣な顔になりアクセサリーの分析を始めた。
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