第12話 逃げる兎と追う弾丸
俺たちが今いるのはリーフグリードから数時間ほど歩いた場所だ。
さて、俺たちが受けた依頼は「ラピットラビット」の10匹討伐だ。
依頼にも冒険者と同様に階級があり、この依頼はFだ。
つまりは1番下の階級の依頼だが、この依頼は裏ではCレベルの難しい依頼と言われている。
それは何故か?
原因は依頼の目的である「ラピットラビット」だ。
このラピットラビットは跳躍力と俊敏性がずば抜けていて、手間取ると10匹倒す間に辺りが暗くなってしまうほど時間がかかってしまい、冒険者達はこの依頼を受けたがらない。
冒険者は、その日暮らしの安定しない職業だ。
その日で終わらない依頼や、安い依頼はなかなか消化されないのだ。
そんなラピットラビット10匹討伐の依頼だが、なぜこれを受けたかと言うと、俺には取っておきの秘策があるからだ。
「ノア様!ラピットラビットがいます!」
俺にも見えている!
放つのは俺が最も得意な水系統の魔法!
「追尾水銃」《ホーミングガン》
前に掲げた掌から拳大の水球が放たれる。
何かを察知したラピットラビットが逃げる速度を上げるが、無駄だ。
このホーミングガンは魔力を感知して追っていくし、相手のスピードを上回る速度で追い詰める。
だがしかし、この魔法は万能ではなく、デメリットは魔力の供給が無いために1分足らずで霧散してしまうことだ。
だが、その前に当たってしまえばそのデメリットは無いにも等しい。
スピードを上げるラピットラビットにようやく追い付いたホーミングガンは体を貫いて霧散する。
「よし!」
「ほぅ、追尾する魔法か。考えたの」
「そ、そんなのあり…?」
こうして、このラピットラビットの依頼は俺があと9回魔法を放っただけで、終わったのであった。
そして、ギルドに帰ってきた俺たちはさっきの受付の人に討伐の証であるラピットラビッツの耳を渡した。
「え…?確か数時間前ほど前に出ていったはずでは…」
「まぁ、そうですが」
そういうと、顎に手を当てて数瞬考えると受付の人は身を乗り出した。
「私!リンコって言います!是非、次からも私に依頼や納品をお願いしますね!」
そういうと、ラピットラビットの耳の入った麻袋を持って受付の裏の方へ走っていった。
「自分が担当した冒険者が功績をあげると、受付の人の評価も上がるんです」
俺が、疑問を抱いた顔をしたのを見ていたのか、ノルザさんが教えてくれた。
なるほど、俺達を見込みがあると思ってくれたのかな?
この街からはすぐに出て行ってしまうけど、リンコさんか、覚えておこう。
少しして、報酬金を持ってきたリンコさんが戻ってきた。
このお金がどれくらいの価値があるか、俺には分からないからとりあえずノルザさんにそこら辺は任せる。
「今日はもう暗いし、1日泊まってから王国に向かいましょうか」
「えっと…、宿屋、宿屋ー」
リーフグリードの街の中心に来た。
街の真ん中にはかなり大きな木が植えており、その周りを囲むように、色とりどりの花が咲いている。
本当にこの街は綺麗だと、実感する。
特に、この中心の広場はかなり人がいるのにも関わらず、ゴミひとつすら落ちていない。
看板を見て宿屋を探しているノルザさんもこの風景に驚いていたので、やはりここが特別綺麗な場所なのだろう。
「よし、ここにしま「泥棒だ!捕まえてくれ!」すか…、ん?」
広場の中心に向かって泥棒と叫ばれた男が全速力で走ってくるのが分かった。
周りの人は、驚いて動けそうにないな。
「風魔法:ステップウィンド」
俺が動こうと思ったら先にノルザさんが魔法を放った。
そして、ノルザさんが魔法を放ったと思ったら、泥棒がその瞬間に行き良いよく転んで、俺の目の前まで飛んできた。
ふむ、片足になにか痣が出来ているな。
転ばす程度の威力の風の魔法か?
そして、泥棒は転んだことにより、追いかけていた男に捕まった。
どうやら、果物を盗んだようで、ポケットの中から桃のような果物がでてきた。
「たすけ…」
「ほら!お前は牢屋に行くんだよ!」
そう言われて、男は拘束されて、やけに早く到着した鎧の兵士に連れていかれた。
「なんなんじゃ、今のは」
そもそも今の騒動を見ていなかったフェルは、何があったのか聞いてくる。
「泥棒が捕まったんだよ、先生は何してたんだよ」
「いや、ちょっとの…」
ん?何か隠し事をしてるのか?
何か歯切れが悪い言い方だ。
「ここが今日泊まる宿屋です」
『天使の休息屋』と書かれた看板を掲げている宿屋に着いた。
まだあのエリーゼの森を出て、1日しか経ってないのに、かなりクタクタだ。
「1人5銀貨となります」
愛想はあまり良くない、受付の女の子はお金を受け取ると、部屋に案内してくれた。
余っているのが一部屋しかなかったが、それなりに広いから不満はない。
だが、お風呂がないのが本当に辛い。
エリーゼの森にいた時は、自分で魔法を使って水を沸かして入っていたほど、俺は風呂が好きだ。
だからこういうところで、シャワーぐらいしか浴びれないのが辛いところだ。
「ノア様とフェル様はいつシャワーに行かれますか?」
ソワソワし始めたノルザさんは、どうやら早くシャワーに浴びたいらしい。
だけど、俺達を優先しようとしてるのだろう。
「俺達はまずご飯を食べてくるから、ノルザさんが先に入ってても大丈夫ですよ」
そういうと、ノルザさんはシャワー室に向かった。
さて、俺らはご飯を食べに行くか。
この天使の休息屋は2階がいくつも部屋があって、1階が食堂となっている。
「すみません、この豚ズラの…」
「あぁ!?なんだテメェ!」
「それはこっちのセリフだろうが!」
俺が注文をしようと思ったその時、角の席に座ってた若い冒険者風の2人が喧嘩を始めた。
おいおい、食堂で喧嘩すんなよ…。
そう思いつつも、関わりたくないため、無視していると、今度は夫婦が喧嘩を始めた。
「あんた!何度言ったらわかるの!?その癖直しなさいよ!」
「癖なんだから仕方ねぇだろ!」
今日は何か?喧嘩デーなのか?
俺は静かに食事をしたいんだが…。
その後、もう1組喧嘩し始めて、食堂は罵詈雑言の嵐となった。
こんなところじゃ、食事は出来ないな。と思ってトレイを持って部屋に戻ろうとしたら、突然厨房の方から何かが砕ける音が騒音の中でも食堂中に木霊した。
料理人がブチ切れてしまったのだろうか?
その音と共に、喧嘩していた人達は急に静かになって、食事を再開し始めた。
え?なにこれドッキリ?
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