第282話「決意の日に」

「で、ササニシキくんはどうしたいのか決めたのか?」



札幌の小さなカフェで、支倉翔と笹島耕平は差し向かいに座り、今後の事を話し合っていた。


勢いで勤めていた会社を退職し、半ば転がり込むように翔の付き人見習いをしてきたが、そろそろ何をするか決めないとならない事は笹島本人にもわかっていた。


笹島は意を決したようにテーブルの上のソーダ水を一気に飲み干し、翔の目をしっかり見た。



「俺のやりたい事は一つだけ。女の子のアイドルのマネージャーをしたいです!!!」



「くっ…はははっ。いやぁ。実に正直だ。やっぱりいいね。ササニシキくんは。ブレないよな」



翔は腹を抱えて笑い出した。

しかしまだ傷に障るのか、少し顔を顰める。

まだ彼も病み上がりで、本来ならまだ静養していないとならないのに、医師に無理を言って活動を再開しているのだ。



「ドモっす!」



「いや褒めてないし。まぁなー。それは別にいいよ。お前なら愛情をもってタレントを支えられると思う。けどな。僕も仕事柄若いアイドルと接点は多いからわかるんだが、ヤツらは想像以上にエグいぞ」



「はい?それはどういう…」



翔の言っている意味がよくわからず、笹島は困惑の表情を浮かべる。

そんな笹島に翔は面倒そうに長い前髪を掻きながら少し声のトーンを抑えて、低い声で囁く。



「理屈にならんくらいこっちの思い通りにはならないって事だよ。お前が好きなゲームやアニメの女とは別次元に操縦不能なんだよ。おまけに口じゃ勝てないとくる」



すると笹島の顔が一気に輝いた。



「それ、最高じゃないっすか!何すかその神イベ!」



「は、お前大丈夫か?」



「大丈夫も何も、それ最高じゃないっすか!アイドルに罵られたり、振り回されたりなんてマジご褒美っすよ」



「あー、そうだったな。お前ってそういう種類のヤツだった。まぁ、肯定的なのはいいけど、何でもかんでも許容するなよ。間違えてる事や道理から外れてる事はしっかり否定してやれ。それが嫌ならこの仕事は向いてないって事で他当たれ」



翔ははっきりと正論で告げた。

確かに自分はアイドルが好きだし、何なら彼女たちのために何でもしてあげたいと思っている。


だけどその全てが彼女たちのためにはならないという事を言っているのだろう。

マネージャーとは、ファンとも違うし家族や友人でもない。

だからといってビジネスだけの関係というのも違うのかもしれない。


何事もバランスなのだ。

どちらに強く傾いてもいけない。

それが出来るのかと翔は確認するようにこちらを窺っている。


だが笹島はもう決めていた。



「大丈夫っす!俺、莉奈さんと約束したんです。ちゃんと自分のやりたい仕事を見つけて全力で頑張るって。夢を実現させた先に二人のゴールがあるんです」



「お前らってさ。キャラに似合わず本当に真面目なんだな。ストイック過ぎて僕には到底出来ないよ」



笹島は照れたようにアフロ頭を掻いた。



「まぁ、途中で挫けるかもしれないっすけどね」



「わかったよ。そこまで覚悟が出来てんなら話しを通してやるよ。ただ、向こうにも都合があるから必ずしも希望が叶うとは思わないようにな」



「本当っすか?」



翔は薄く笑った。



「こちらとしても拾った以上はちゃんと後々まで面倒見ないとなんねーからな。しっかりやれよ?」



「ハイ!頑張ります」




「あぁ。って事で、そろそろ出て来たらどうなんだ?お二人さん」



「?」



翔はお見通しといった様子で背後の席に向けて軽く手を振った。

どうやら後ろの席に他の客がいたようで、明らかに話を聞いていたように動揺し、息を呑む気配がした。


笹島は席を立って翔の後ろに回って客を確認した。



「あれ、夕陽たちじゃん。何でここに。ここってお忍び推奨店?」



「よ…よぉ」



そこに座っていたのは夕陽とみなみだった。

夕陽は気不味そうに笑みを浮かべる。



「そんなの笹島さんが心配だったからに決まってんじゃん。でも良かったよね。可愛いアイドルのお世話出来るといいね♡」



「ガッツリ聞いてんじゃん。みなみん…」



メガネなマスク姿でこちらを見上げる異様な人物はよく見ると永瀬みなみだと辛うじて判別出来るレベルだ。


一般人よりも惹きつけるものが一切見出せない。

よくここまでオーラをオフにできるものだと翔は内心尊敬の目で見ていた。



「ま、上手く行くかはわからないけどね。あ。僕たちはもう東京へ戻るから。お二人さんはこれからいい思い出作って帰るんだぞ」



そう言って翔と笹島は慌ただしく先に店を出て行った。



「笹島さん。良かったね」



「……そうだな。少なくとも勢いとかヤケになってとかの決断ではないようだし」




ずっと心配だった笹島だが、どうやら彼はしっかり次の夢へ歩き出したようだ。

夕陽はすっかり冷めたコーヒーを一口啜った。




「さて。帰ったら結婚式だな」



「うん……そだね」



そうだ。

東京へ帰ったら結婚式が待っている。

披露宴なく、ただ式を挙げるだけだが、それでも二人は十分幸せだった。















この章は後からもう少し修正する予定です。

ただシナリオのようにこうしたいというものをコラージュのように並べただけなので。

誤字脱字もあると思われます。

一先ず形にしたかったという…。




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