第274話「同窓会とは」
「支倉さんはいつまで北海道いるんですか?」
「明後日まで。プロモーション活動と地元誌の取材だけなんで、日曜まで残ってても良かったんだけどプライベートな要件があって、早めに引き上げる予定」
翔は夕陽の問いかけに分厚いステーキをぶつ切りにして次々口へ放り込みながら答える。
ここは札幌の中心部にあるステーキハウスだ。
翔と奇妙な再会を果たした夕陽たちはホテルにチェックインし、荷物を置いたあと夕飯を一緒に摂る事になったのだ。
店内は柔らかな間接照明で照らされ、温かい雰囲気で居心地が良い。
翔のお勧めでお気に入りの店らしい。
笹島はというと、その端で所在無さげにモソモソとサラダを食べている。
まさかここで夕陽達に会うとは思ってなかったようで、ショックを受けているようだが、それは夕陽たちも同様だ。
「えっ、プライベートってもしかして♡」
そこに食いついたのは、翔を推しているみなみだ。
同業者として、聞くべきではないような内容だというのに無邪気なものだと内心夕陽はため息を吐いた。
「あぁ、高校の同窓会ってヤツ?別に会いたい奴とかもいないんだけどね」
そう言うと、翔は一口水を飲んで曖昧な笑みを浮かべた。
「へぇ、同窓会ですか。同窓会にアイドルになった同級生がいたらどんな感じなんですかね。想像つかないですけど。あ、そういえば俺たちってそういう話、全然来ないよな?」
夕陽は笹島の方を向いた。
話を向けられた笹島は話を聞いてなかったのか、一瞬ビクっと背筋を反らせた。
「は?え?何?」
「……お前大丈夫か?同窓会だよ。俺らのとこにそんな案内なんて来た事ないよなって話」
「あー、あれね。一回あったよ。担任が海外に行くっていうからお別れ会みたいなのも兼ねてさ。俺は行ったけど夕陽は行かなかったじゃん」
「え?そうだっけ…」
「えー、夕陽さんこそ大丈夫なの?」
笹島の発言に夕陽は必死で思い返そうとするが、全然思い出せない。
「それ、何年前?」
「二年前かな。会社勤めにも少し慣れてきた頃だったから。あん時は皆酒飲める年になってたから、担任が抜けた後、仲良かった奴らと飲み歩いて結構ハメ外したっけ」
「いやぁ、全然覚えてない」
二年前といえば自分は何をしていただろう。
みなみと出会うか出会わないか…そんな時期だ。
あの頃は仕事の事で頭が一杯だった。
今までダラダラやっていても何とかなっていた日常が急に変わって、そのリズムを掴むまでが大変だった。
だからきっと実家の方に案内が届いても、処分してくれと言って返信すら出さなかったのだろう。
笹島は律儀にも行ったのかと思うと、改めて当時の余裕の無さを実感する。
「まぁさ。そんなもんだよ。同窓会なんてさ。僕も行きたいなんて直前まで思ってなかったんだよ。でもさラジオの収録の後、スタッフたちとその話したら行った方が良いって言われてさ。別にさっきも言ったけど会いたいヤツもいないからいいって思ったんだけど、当時とは違った視点で皆の考えとか知れるし、まだ当時の面影が残ってる今のうちに会っておいた方がいいって言うんだ」
「へぇ…それはちょっとそうかもって気はしますね」
確かに夕陽の父親もよく同窓会には行っているようだが、行く度に友人たちと会って、年々変わっていく姿を見て切なそうにしているのを見てきた。
大体人間の容姿は五十代程度を境に大きく変化するらしい。
勿論変わらない人もいるけれど、両親の若い頃の写真を見るとかなり変わっていて、何だか怖くも感じた。
いつか自分もそうなるのだろうかと。
「ま、適当なところで抜けようとは思ってるけど、一応どんなもんかって話題作りで行っとくって感じ」
「あー、でも蓮さんならモテてたから元カノとか一杯いるんじゃないんすか?」
笹島が羨むような目で翔を見た。
「ないない。僕、学生時代彼女いなかったし、興味すらなかったから」
「え、マジ?」
翔は軽く頷く。
「僕の家、厳しくてね。彼女作ってる暇あったら英単語の一つでも覚えろって育てられてきたんだ。だから全然クラスの奴らの顔なんて覚えてねーし、大した思い出もないんだよな」
だったら敢えて行かなくても…とは口にしなかったが、今は華やかなステージ立つ翔にも過去には色々あるようだ。
「まぁ、君らも会いたいヤツには会えるうちに会っておきなって事だよ」
翔は思う。
ずっと向き合えなかった過去に目を向けられるようになったのは陽菜のお陰だと。
その陽菜は今、両親の事で悩んでいる。
それを今、翔は自分を変える事で彼女に示していきたいと思っていた。
「ところでさ、お前ら何で二人で旅行してんの?新婚旅行?」
「……え?」
そこで夕陽とみなみは動きを止めてお互いを見た。
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