第261話「笹島の苦悩」
「信じられん…、俺の家に支倉翔がいる」
夕陽は自分の家のリビングで華々しいオーラを放つ美少女のような容姿で紅茶を飲む翔を見て思わず息を呑んだ。
その翔がこちらに気付き、うっとりするような笑顔で微笑みかける。
「真鍋くんだっけ?君さぁ、マジでアイドルとかやってみない?絶対売れると思うんだよな。僕に任せてくれたら凄いトコまで行けるよ。僕さぁ、男性アイドルもセルフプロデュースしてみたかったんだよね。可愛い系じゃなくカッコいい系の」
いつの間にか翔がこちらまで移動して来て、夕陽を見上げておねだりのような視線を送ってくる。
この距離は同性でもちょっとドキドキする。
「ちょっと、支倉さん。夕陽は一般人なんすからね。手を出さないでくれますかね?」
すると後からケーキの箱を抱えた笹島が入って来た。
何故か知らないが笹島は支倉翔と顔見知りなようだ。
「何だよ、またササニシキかよ。お前はどうでもいいんだよ。芸人枠は僕の範囲外だから」
「ちょっ…何なんすかソレ!つーか、笹島っす。支倉さん、俺にだけ厳しすぎません?」
笹島は悔しそうに憤慨する。
今日はみなみのリクエストで陽菜の彼氏である支倉翔がやって来た。
来るのはみなみの部屋の予定だったのだが、生憎、みなみの部屋には母親がこっちに来てから出来た友人が来ていたので夕陽の部屋を使う事になったのだ。
笹島は実家で暇そうに呆けていたので夕陽が呼び出した。
芸能人と直に会えると言えばきっと喜ぶと思っていたが、その反応はかなり薄かった。
「笹島、どうしてお前が支倉翔と知り合いなんだよ」
「いや、色々あったんだよ。色々。一緒に旅館に泊まってさぁ、風呂入って、そのまま風呂で音痴矯正してもらってノボせたり、着替えがなくて褌を装着してもらったりしてさぁ…マジで凄まじい二日間だったよ」
「え、何?二人は付き合ってんの?」
「ちげーから!」
「違う!」
二人は同時に吠えた。
「おっ、息ピッタリ…」
「とにかく、森さらの旦那に拉致られて大変だったって事!支倉さんとはそこで知り合ったんだよ」
「へ…へぇ。それにしてもお前よく拉致られんな」
「ほっといてくれ!」
夕陽はやれやれと肩をすくめた。
その時、ようやく買い物を終えたみなみと陽菜が戻って来た。
「あー、お待たせ。じゃあご飯にしましょうか」
すると翔がみなみの方までやって来た。
「あのさ、永瀬さん。あの彼氏くん、僕にくれない?凄くイイ素材になりそうなんだよね」
そう言って夕陽の方をチラ見する。
「えっ?翔ちゃんのおねだり?はい、どうぞ、どうぞ持ってってください」
みなみはすっかりのぼせ上がって、夕陽の背を押して翔へ貢ぐ気満々だ。
「バカか、お前は。何か秋海棠さんの時と被るな…とにかく、支倉さん。すみませんが俺はその気はありません」
夕陽は翔に向けて丁重に断った。
確か前にもこういう事があった。
大物プロデューサー、秋海棠一十の家へ行った際にもこんな事があった。
翔はいかにも残念そうに舌打ちした。
「もう、蓮やめてよ。ごめんね。真鍋さん」
そこに陽菜がお皿を持って現れた。
「げっ。陽菜っ」
「「げっ」じゃないよ。本当に止めなさいよね。真鍋さんに迷惑かけないでよ」
二人はすっかり馴染んだカップルのようになっている。
一緒に暮らしていると言っていたので、生活を共にしている事でより馴染んだのかもしれない。
「そういえば笹島、お前乙女乃さんと仲直りしたのか?」
「え、いや。あれから会ってないし」
笹島は急にしおらしく俯いた。
すると事情を知らないみなみが身を乗り出して来た。
「え、もしかして笹島さん何かあったの?」
「いやいや、別にそんな大した事はなくて、ちょっと距離置きたいって言われただけでして……」
「それ絶対大した事だよ。大丈夫なん?」
「そうなのかなぁ……やっぱり」
笹島は静かに机に体を伏せていった。
デロンと音がしそうなくらい溶けている。
「何、ササニシキもしかして怜と付き合ってんの?マジで?何なのその世界線…」
「ええ。そうっすけど…」
「あいつマジで男の趣味どうかしてるよなぁ。まぁ、そん中でもササニシキはいくらかマシな方か」
「え、支倉さん莉奈さんの事知ってんすか?」
笹島が顔をガバッと上げた。
翔はうんざりしたようにため息を吐いた。
「まぁ、僕は半年くらい怜の歌唱指導やってたからな。その時にわざわざ当時付き合ってた彼氏がレッスン室まで迎えに来てたよ。あれはウザかったわー」
当時の事を思い出した翔は口を真一文字に結んで何度も頷く。
「早乙女さんって、超束縛系なメンズばかり好きになるイメージだもんね。だから笹島さんと付き合ってるって聞いた時は驚いたな」
キッチンで更にピザを移し替えながら、みなみが顔を覗かせる。
「そうそう。格闘家だっけ?そいつと付き合ってた頃なんて、もっと酷かったよな女をペットか何かと勘違いしてるようなサイコ野郎だったじゃん」
「ちょっと、蓮」
さすがに見兼ねた陽菜が翔の袖を引っ張る。
「あぁ、悪いな。ササニシキ。別に悪気があったわけじゃねーんだ。そいつ等と比べたらお前はいい奴じゃんって言いたかっただけだし」
「別にいいっすよ…。でもそれ聞いたら余計彼女とのレベチを感じるなぁ。もしかしたら莉奈さん、俺じゃ物足りなくなって嫌になったのかもしれないっすね。ははは」
「笹島…」
笹島はまた落ち込み、机に伏してしまった。
「あれは何かよくわからんが、重症だな」
翔が夕陽たちの方を見て首を傾げる。
「何とかしてやりたいですがねぇ」
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