第240話「魔法使いになりそこねた男」
昨日の支倉翔の事件から色々な事があって、不安がるみなみをずっと抱きしめながら眠った翌日。
寝不足の目を擦りながら夕陽が会社に入ると、珍しく夕陽より先に笹島が出社していた。
何故かご機嫌な様子で彼は鼻歌を歌いながら、給湯室から出てきた。
手には空き瓶に生けた野花を持っている。
「おはよう。笹島。早いな」
「おぅ、夕陽。はよー。いい朝だなぁ♡コレ、何だかわかるか?」
そう言って笹島は自分の机の前に置いた、某肉体疲労時の栄養補給に最適な液体が入っていた琥珀色の空き瓶に飾られた花を見せた。
「……何、新しい形の自虐?」
「違う!死んでないから。そういうのじゃなくて、潤いだよ。俺にもついに春がやってきたって意味での」
「春って今日、35度超えの猛暑日なんだけどな」
夕陽は汗で少し湿ったシャツの襟を引っ張って風を送った。
外は薄っすら陽炎が立ち昇るくらいの暑さだ。
しかし、その倍くらい暑苦しい男、笹島が吠えた。
「もう、夕陽は鈍いなぁ。激ニブだよ。一昔前のラノベの主人公並みに鈍い!何かわからない?この俺を見て」
笹島はクネクネと謎の部族の儀式のような動きをして夕陽に迫る。
こういうところは学生の頃から変わらない。
しかし一体何が変わったというのだろうか。
「……………髪切った?」
「違うし。何適当にウザい彼女あしらうように流そうとしてんだよ。ほらもっとあるじゃん。オーラ的な」
「オーラ?スカ◯ターとかで計測しないとわからないヤツ?」
「そうそう♡戦闘力ね。カンストしたらぶっ壊れちゃうヤツで…ってって、今の子わからないネタ止めようや!違うって、もう仕方ないなぁ。じゃあ発表します。ドゥルルルルルルル…あ、これ銅鑼ね」
「面倒なヤツ〜。早く言えよ」
笹島は期待に満ちた顔で大きく息を吸った。
「俺、童貞卒業しました♡」
「マジか!ってか、まだお前らしてなかったの?付き合ったの去年だったよな。そっちの方が驚いたわ」
突然の発表に夕陽は驚きと共に、嬉しさが込み上げた。
それと同時に目視だけで相手が童貞かそうでないかなどわかるわけもない。
そんな事を夕陽は頭の隅で思った。
しかし、あのリア充を憎んで呪っていた笹島からこの類の報告を受ける事とは一生ないと思っていた。
「いや、まぁ色々あってそれどころじゃなかったじゃん。お前らの結婚話や森さら入籍とかで」
「まぁ、それもあるけどな。よくそんなに待てたな」
「はははは。いやぁ取り敢えず良かったぁ。魔法使いにクラスチェンジ回避出来て」
笹島は机に上半身を預け、ニヤニヤ笑っている。
「あまり聞きたくはないけどさ、……どうだったんだ?ちゃんと出来たのか?」
「うん♡莉奈さんが優しくしてくれて、全部やってくれた。まじカッケーよ。あの人」
「……つまりまな板の鯉だったと?」
「いやぁ、ぶっちゃけ実は記憶もあやふやで、暗かったし何だかよくわからない内に終わってたみたいな感じでさ。莉奈さんがどうだったとか全然見えてなかった」
「ははは。何かお前らしいな。でもお前からそんな報告受けるなんて嬉しいよ」
「へへへ。俺も嬉しい」
二人はニヤニヤと笑い合った。
「おーい、皆さん。ここにホモホモカップルが朝からイチャついてまーす」
「わっ、三輪。何でここにいんだよ!つか勝手にカップルにすんじゃねぇよ。キモい」
後から入ってきた三輪がそんな二人を見てとんでもない事を叫び出し、平和な朝の時間は過ぎていった。
☆☆☆
その頃。
陽菜はさらさ達と共に秋海棠総合医院の前まで来ていた。
「………………」
さらさは緊張している陽菜の手を握った。
「大丈夫よ。行きましょう」
「うん…」
おめでとう笹島くん!
実はこの後、夕陽とみなみの両親紹介イベントがあって、それからまた新しい人の恋が始まります。
こちらも、まぁこんなカップルがいたら愉快だなと思った思いつきでポンポン書いていくのでよろしくお願いします。
陽菜と蓮編がどうなるのかは次のお話でわかります。
もう既に書いてあります^_^
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