第232話「支倉翔side*業務報告」
「えーっ、じゃあそれでキスし損なったの?もぅ、翔サマのクセにヘタレねぇ…」
「うっせーよ。むしろそこで止められて良かったんだよ」
一日後。
頬の痣も何とかメイクでカバー出来るようになった翔は午前中にスチール撮影や新規の仕事の打ち合わせを終えていつもの地下バーへ来ていた。
店内のいつものカウンター席にはもう檜佐木と限竜が飲んでいる。
この二人とはここのところ毎日飲んでる事になる。
酒の肴は翔の恋バナの進捗状況が主だ。
「何でよ。そこは素早くチュっといきなさいよ。あたしだったらそうするわね」
限竜はこの場でだけは例のオネエ口調に戻り、言いたい放題である。
「お前のように本能だけで生きてるヤツとは違うんだよ。大体こっちは事情があって好きだって言えねーのに、キスはするって、金払わないで物だけ貰ってるようなもんじゃん」
頬杖をついて、翔はそっぽを向く。
「あら、真面目ー。別にキスくらい付き合ってなくてもノリで出来るじゃない。相手もその気なら尚更ね」
「おいおい紘太。あまり虐めないでやってくれよな。コイツ恋愛経験値低すぎてそっち方面は無能なんだから」
「無能言うな。そりゃお前らパリピ勢と比べたら経験値低いのは自覚してる」
「ちなみにぶっちゃけ、ハセショ先生はこれまで何人と付き合ったの?」
「………………」
翔は片手で三本指を挙げてみせた。
「あらやだ三十人!?無双モードじゃない♡」
「紘太てめぇ、ワザとやってんな。三人だよ!三人。しかも童貞捨てたのもハタチ過ぎてからだしなぁ…。何で十代の頃。あんなに必死に勉強ばっかやってたんだろうな」
翔はため息を吐いた。
檜佐木はその肩をポンポンと軽く叩く。
「そんなの人それぞれなんだ。いくつまでに何人と付き合って、いくつまでに結婚しろなんて決まりもないし遅いも早いもない」
「…いや、そこはいいんだけど、陽菜が何か僕の事、凄いパリピな感じに見ていて、その視線が辛い」
翔はスネるように言葉を続ける。
「十代なんてそんな他人に言えるくらいキラキラした青春送ってねーし?まさかあいつの想像の中で何重にも底上げされた僕が、夏休み、誰もが彼氏彼女作って浮かれてる中、ゼミや模試の結果にしか興味のない冴えないガリ勉だったなんて言えるかよ」
「あら。正直に言えばいいのに。かえって清純な感じがしていいじゃない」
「…………全然励まされてねぇし」
翔はグラスの中身を一気に煽った。
「ところで紘太。お前毎日こうして僕らと飲み歩いてていいの?新婚だろ」
「あたし?別になにも言われないけどー?奥さん働いてるし」
「そうだった。お前の妻ってトロエーのリーダーだったの忘れてたわ。森さらさって、気ぃ強そうでちょっと怖くね?」
「あーでもね、あたしみなみとマブダチなんだけど、今でも月2〜3ペースで遊ぶのよ。プリ撮ったり、カラオケ行ったり、スイーツ開拓したり…と、まぁ女子会の延長みたいなものね。それを更紗が邪推してくるの。それって中々可愛くない?」
限竜はうっとりとした表情を浮かべている。
「全然お前の萌えツボがわからんのだが…。結婚したばかりなんだからあまり不安にさせんなよ」
「そうね〜。でも更紗のあの悔しそうな顔見たら理性飛ぶわよ?軽くご飯三杯いけちゃうくらい」
「性格悪いな紘太。お前マジでよく結婚出来たな。しかもあんなトップアイドルと」
「あらやだ。コレ更紗には内緒ね」
檜佐木と翔はドン引き気味で後輩を見た。
「あぁ。このまま、あいつに夢見させたままでいいのかな。絶対幻滅しそうだ」
「いやそんな結婚前の紘太みたいに色んなとこに手ぇ出しまくりなヤツより、数倍はマシだよ」
「ちょっと、そこまではしたなくないんですけど?あの時はちょっと病んでたのよ」
限竜はそう言って残りのジョッキを飲み干した。
「でもさ、また教えてよね。ハセショ先生のピュアな恋バナ」
「……やだよ。でもコイツらにしか話せる相手がいないんだよな〜」
「ははは。友達少ないからな。お前」
こうして、ただの業務連絡のような不毛な飲み会は更けていった。
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