第225話
「告白ってさぁ、やっぱり自分からしなくちゃダメなのかなぁ…」
陽菜は惚けた様子でプレッツェルを一口頬張る。
ここはカラオケ店の個室だ。
陽菜は今、悩んでいた。
あのキスシーンを撮影した日から翔に恋心を自覚したのはいいのだが、陽菜にはその後、何をしたらいいのかがさっぱりわからない。
ただ、これまで様々な恋愛を主軸にしたドラマや映画に出演してきた経験から導き出すと、互いの想いを伝え、通じ合う事で初めて恋人関係は成立するという事だ。
極めて当たり前の事ではあるが、極度に緊張している陽菜の頭は真っ白になっており、トロピカルエースのグループ内では優等生として通っているはずが、こうなるとただのポンコツである。
今回は恋心を自覚した後、どうしたらいいのか俳優仲間で友人の藍田晴之に相談する為、カラオケ店に呼び出したのだ。
モニターには、懐かしの昭和歌謡メドレーが流れ、晴之が気持ち良さげに歌っている。
ちなみに彼は昭和文化オタクで、度々そんな
趣旨のテレビ番組にも出演しており、その関連エッセイも出している。
なので彼の好むゲームも黎明期と呼ばれる初期のソフトが多い
勿論、現在のゲームも好きなのでカバンの中はいつも新旧のゲーム機でガチャガチャしている。
その晴之はマイクを置くと、陽菜に昔懐かしい携帯型ゲーム機の画面を向けてきた。
「だから好感度を地道に上げんだよ。フラグを回収しつつ、地道に好感度を稼いで一定値まで達したら向こうから告ってくる」
画面には顔を赤くした女の子が「ハルユキくん大好きっ!」と言ってキスを待つように唇を窄めている光景が広がっていた。
どうやら彼は実名でプレイする、主人公=自分派なプレイヤーのようである。
するとすぐに陽菜の額に青筋が浮かぶ。
「ねぇ……晴之、そんなに私に殴られたい?」
「何ですぐ拳に訴えるかな?冗談だよ。大体そんなの自分で考えろよ。恋に教科書なんてないんだぜ?」
「何、その何かいい事言った的な、一仕事やり遂げた男顔。夏なのに薄っすら寒いんですけど」
「お前なぁ。相談があるとか言って、俺を貶したいだけじゃないのか?」
「違うよ。本当にどうしていいのかわからないんだもん…」
そこで陽菜は思わず言葉に詰まった。
翔といる時間は時間を忘れるくらい楽しい。
だけど最近はずっとこのままでいいのだろうかと疑問に感じていた。
「ねぇ、晴之は好きだって思ってからどれくらいで告白した?」
すると晴之は耳を疑うような表情で陽菜を見返してきた。
「は、陽菜まだ付き合ってなかったの?」
「まだって、何なの。相手も知らないくせに」
「ハセショじゃん?」
「ぶっ……なっ…何で知ってんの!」
陽菜は思わず晴之の顔にコーラを吹いていた。
晴之はポタポタと顔から生温いコーラを滴らせながら、恨めしそうに陽菜を見る。
「汚っ…おい、ベタベタじゃねぇか。つかわかるわ!あんなキラキラした目でハセショ見てたら」
「嘘っ…、晴之30になる前に魔法使いになっちゃったの?」
「止めていただけます?そのセクハラ発言。違いますからね」
晴之はオジサマのように、おしぼりでコーラまみれの顔を拭いつつ、やけに丁寧に切り返す。
「じゃあ仕方ないな。魔法使いになった晴之には何でもお見通しだもんね。で、どうしたらいいと思う?」
「サラッとDT確定で話進めないでくんない?マジで違うから。だから告ればいいじゃん」
「いつ、どうやって?」
「デートとかでいい雰囲気になったところで」
「………牛丼食べたり、かつ丼食べたり、餃子食べたりする途中にそんないい雰囲気あるかな?」
陽菜は真面目に考える。
「それって、お前らただの飯友じゃないの?何その食い道楽」
「だっていつもボイトレのレッスンの後だからお腹空いて……あの人も小さいのによく食べる人だから」
「あーはいはい。好きな男なのに軽くディスるね。じゃあアレだ!メッセージアプリで告るのは?」
晴之は文明の利器、スマホを堂々と掲げた。
「あぁ。それいいかも。晴之にしては今っぽいじゃん。じゃあちょっとサクっと送ってみるね」
「えっ、サクってもうかよ。何かそういうのって、一人きりで色々内容考えてから送るもんじゃね?」
晴之の提案に早速自分のスマホを出した陽菜はアプリを立ち上げる。
「善は急げっていうでしょ。それに顔見ながら言うの恥ずかしいし、これならスタンプだけで解決するよね。流石晴之!」
満面の笑みでスマホを操作する陽菜。
すると晴之の顔が一気に曇った。
「え、まさかスタンプで告る気か?」
「そうだけど、…何か?あ、もう送ったよ」
「……って早っ!つーか、何のスタンプにしたんだよ。ちょっと見せろ」
晴之が陽菜からスマホを受け取った瞬間、すぐに返信のメロディが鳴った。
「もう返信来た。早いね」
早速二人で画面を確認する。
それを見た晴之は吐きそうな顔で顔面を覆った。
スマホ画面には…
「好きピ♡」
というやけにふざけた顔でアピールするナマハゲのスタンプがあり、その下にある翔からの返信には…
「好きピ♡」
と、同じくこちらはやけに可愛い、デフォルメされたウサギのスタンプで返されていた。
「やだどうしよう。これもう両想いじゃない?」
スマホを手に陽菜が顔を輝かせている。
「いや……それ完全にノリで返されただけだろ」
「えー、だって向こうも好きピだって…」
「真面目な告白にナマハゲはねぇわ。俺なら引く」
晴之は陽菜の肩に手を添えた。
「よし、陽菜。こうなったらもっと真面目に考えようぜ。告白作戦ってヤツだ」
「?」
晴之はマイクをテーブルに寄せ、本格的に相談モードに切り替えた。
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