第216話「幕間*キミだけが唯一、ボクの世界の中心だった*」
「陽菜、最近ずっと元気ないね。何かあったかな?」
一十は心配そうな顔で陽菜の前にティーカップを置く。
ゆらゆらと暖かそうな湯気が立つそれを陽菜は両手で持ち、ゆっくりと口へ運んだ。
「?」
一口飲んだ陽菜が固まる。
飲んだ瞬間、トロリとした酸味と塩味を感じた。
香り高い紅茶のフレーバーを想像していたところにこのパンチは半端ない。
「一十先生!これ梅昆布茶じゃないですか。そこに湯呑みがあるのに、わざわざティーカップに入れないでくださいよ」
自分でもよく吹き出さなかったと褒めてやりたいくらいである。
「あ、そうか。飲み物の種類によって入れ物も変わるのか…。ごめんね。気付かなかったよ」
一十はヘラヘラ笑う。
やっぱりこの人はこういう人だ。
「で、元気のない理由は?ボクに話せない事?」
「わかんないの……」
一十はテーブルにカップを置くと、ゆっくり陽菜の頭を自分の肩口へ引き寄せる。
「ねぇ、一十先生、好きかどうかってどうすればわかるの?」
「そう考えるって事はもう既に好きって事じゃない?」
「…………でもそんな実感ないよ。それに、怖いの」
「怖い?」
一十は不思議そうな顔をする。
「だって今まで先生が私の世界の全てだったんだよ。他に何も見えないくらいずっと私には先生だけだった。それなのに好きって認めたら、先生が私の世界から居なくなってしまう」
陽菜はポロポロと涙を溢した。
一十は何度もあやすように陽菜の頭を撫でる。
「陽菜。それは大人になったという事だよ。もうキミにボクの手は必要なくなったけど、キミと過ごした思い出や、キミが向けてくれた想いはずっと変わらないよ?ボクにとってもキミはとても大切な女の子なんだ。だからここでキミの手を離す事も一つの愛情なんだ」
「……無理っ。先生と離れなくない」
「陽菜。大丈夫だから。怖いと思わないで。ただ素直になればいいんだ」
一十は陽菜の涙を拭う。
「先生はそれで平気なの?私が離れてもいいの?」
「ボクはあの日…キミを連れて来たあの日からずっとキミの幸せだけを願ってる。そして今、キミは幸せになろうとしている。だからこれ以上ボクにとって幸せな事はない」
「……まだ、大丈夫かな。私」
「大丈夫だよ。心のままにその人を信じてごらん」
陽菜はまた少し泣いた。
今、陽菜の小さな世界は少しずつ外へと広がりつつある。
この陽菜編は、大多数の方が多分こうなるんだろうな…という想像通り、ど真ん中な展開になると思います。
最後のエナ編は逆に難しい。
今からどうしようか非常に困ってます。
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