第214話

「なぁ……」



いつもは少女のように澄んだ愛らしい声が、今は地を這うように低い。


寝室の中央に置かれたベッドの上で翔が項垂れるように頭を下げていた。

いつもは長めの髪で見えない首の付け根辺りまでが露わとなり、黒髪の隙間からインナーカラーのミントグリーンが覗いている。



「何ですか?」



そのすぐ横で陽菜がご機嫌な様子で両肘をつき、こちらをじっと見つめている。



「何ですかじゃねーよ!寝入ってたら起こせって言っただろうが。今何時だと思ってんだよ」



「18時23分だね。随分寝ましたね。売れっ子め♡」



「あああああぁっ。起こせよ。殴ってでも!」



「そんなっ、恩人にそんな事出来ませんよ。ただ、私も寝顔が可愛なとか思ってたら時間なんてあっという間でしたし」



「フォローになってねーし。おい、ダンスレッスンはどうしたんだよ」



「あ、それなら先生に今日体調悪いって連絡したらお休みになりました。これ、ありがとうございました。スマホお借りしました」


そう言って陽菜は借りた彼のスマホを差し出す。


あれから数時間。

自発的に目を覚ました翔は時計を見て絶句した。

どうやら相当疲れていたようで、うっかり寝入ってしまったようだ。


起こすように言っていた肝心の陽菜は、ただその横で翔の寝顔を眺めていたのだから始末が悪い。



「………まぁ、仕方ないな。それより腹減ったな。どっか食い行くか。ついでに送る」



翔は忌々しそうに頭を掻きむしると、サイドテーブルから車のキーを取り出した。



「わぁ、蓮のオゴリですか?」



「あぁ」



陽菜は嬉しそうに後からついてくる。



「何食べるんです?」



「牛丼」



車庫には2台の車があり、その内のシルバーの国産車のドアを開けて陽菜を乗せると、自分も乗り込む。



「私、鰻丼と牛丼食べたい♡」



「はいはい。好きなだけ食えや」



やがて車が動き出す。

その日は陽菜にとって忘れられない一日になった。




        ☆☆☆



「あぁ、翔ちゃん可愛良過ぎてつらたん…」



「可愛くて辛いってどんな状況だよ。そんなにいいか?そのアイドル…」



夕陽とのデート帰り、手を繋ぎながら先程DLした支倉翔の新曲を聴くみなみはうっとり呟く。


一緒にそれを聴く夕陽は、彼女の言っている言葉の意味がわからず首を傾げる。



「うん♡正に私が求める正統派アイドルって感じでね…とにかく眩くて尊いの。あ。勿論、夕陽さんもカッコいいと思うよ」



「その取ってつけたような賛辞、ありがとう」



「もう、夕陽さんはヤキモチ焼きだね〜♡心配しなくても、いつまでも私の夕陽さんへの愛は変わらないよ〜」



そう言ってみなみは夕陽の肩口に甘えるように頭を寄せてくる。



「調子いい奴だな。お、焼き鳥の屋台が出てるテイクアウトOKだって。買ってくか?」



見ると前方に有名な焼き鳥店の出張キッチンカーが出ていた。



「焼き鳥!翔ちゃんはさー、きっと焼き鳥なんか食べないよねー。キラッキラのマカロンとかパリパリのいちご飴とか、とにかく夢可愛いものしか食べないんだよ」



「お前もアイドルなのに、そんな可愛いものより腹にガッツリ溜まる系ばっか食べたがるクセに…ん?」



「どうしたの?夕陽さん」



キッチンカーの裏手は公園で、そこに三人がけのベンチがあるのだが、夕陽はベンチの方を見て固まった。



「あれ?別人かもだけど、みなみが好きなアイドルじゃね?何か牛丼と焼き鳥食ってる」



「えーえーえー!?」



するとみなみは夕陽の手を離し、素早く駆け寄った。



「あれ、みなみじゃん」



「なんで陽菜ちがいんの?それに翔ちゃんまで…」



みなみは困惑気味に二人を見た。



















メモ

ちょっとこんな風に書きたいという下書きみたいな状態の更新なので、文脈や台詞繋がりが悪いです。


スミマセン。

時間が取れたら修正します。



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